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活用に困る知識が増えていくんだが……

今回は食物連鎖と蟻ネタを盛り込んでみました♪

いつもの如く戦いの熱が冷めた後、諸々の事後処理を終えた皆と地面に腰を降ろして休憩を取り、俺は胸中に生じた無常観を追い払う。


(所詮、弱肉強食が世の理か……)


狼混じりになってからは “人の皮を被ること” を覚えたが、本質は森に棲む一匹のコボルトに過ぎないため、傭兵時代にも増して生きる事は戦いだと脳裏に刻まれている。


継続して自己を維持するためには他の動植物を喰らう必要があり、食物連鎖の円環の中、全ての存在が命懸けで必死に生きているのだ。


(はッ、そんな仕組みを作った神様は(いびつ)で不完全か、でなければ性悪(しょうわる)だ)


そもそも、個々の喜怒哀楽や生き死になど取るに足らない些事(さじ)で、もっと大きな視座にある超常の存在なのかもしれないが…… 俺には縁の無い話だと結論づけて腰元に吊るした革水筒を手に取り、外気温よりもやや冷たい水を喉に流し込む。


「クォン、グルゥッ! (兄ちゃん、あたしもッ!)」


ベルトに通した革鞄の中から顔を出して乾パンを齧っていた子狐が目ざとく反応し、上向きながら口を開けて催促してくるので、ゆっくりと革水筒を傾けて水を飲ませてやった。


「ほんと仲が良いな、その子狐…… 普通はそこまで懐かないだろ」


「生まれた頃からの付き合いだからな、こんなものだと思うが……」


配給された干し肉をナイフで削って口に放り込むアレスに適当な返事をしたところで、さっきの戦いでは苦戦を強いられていたリベルトが身体を投げ出したまま、疲れの残る声で言葉を投げてくる。


「むしろ俺は大型ヴァリアントに踵落としを極めたアーチャーさんに驚きだけどな、冒険者としての等級と強さが必ずしも一致しないって実感したよ」


「一応、傭兵経験が長いからな、真っ当な新人とも言えないさ」

「ふふっ、それは頼もしいですね」


話に割り込んできた声の方向を見遣(みや)れば、多数の魔装具を身に付けたグレイス嬢が微笑を浮かべて佇んでいた。


「先ほどは近衛(インペリアル)種の一匹を仕留めたとか、エドガー隊で噂になっていましたよ。魔法と格闘での戦闘は鋼の賢者殿を彷彿とさせますからね」


「それは…… 喜んだ方が良いのか」


確かに魔導書『剛力粉砕』の影響を受けているのは否定できないが、奴は賢者の名を冠した闘士(ファイター)にしか思えず、弓兵を名乗っている以上は微妙に嬉しくない。


俺が心中で王国の宮廷魔導士長に若干不敬なことを考えていると、アレスが少々緊張した感じでグレイス嬢に向き合う。


「グレイスさん、俺たちに何か御用ですか?」


「いえ、単に興味本位です、吶喊(とっかん)する弓兵さんに興味があったもので……」


軽く頭を下げた後、彼女は踵を返して少し先で待つエドガーの下へと歩み去っていき、入れ代わりで衛兵隊の騎士たちと話し込んでいたミュリエルが戻ってくる。


「ごめんね、遅くなっちゃったよぅ」


「お疲れ~、ミュリエル」

「でも凄いよな、行動指針を確認されるなんて」


彼女を迎えるアレスとリベルトがやや尊敬の混じった眼差しを向けるものの、それは公爵殿との縁を尻尾の切れたトカゲが結んだと知らないからだろう。


などと考えつつも回収した矢の(やじり)や、弦に宛がう(はず)という金具に破損が無いかの確認を済ませた頃合いで、大気に干渉する風魔法により拡声された騎士の声が届く。


「皆、休憩は終わりだ! 負傷者と輜重隊を中心にして前方に衛兵隊、後方は冒険者たちで縦列を組んでくれ!!」


響き渡る言葉に応じて体を休めていた衛兵たちが立ち上がり、周辺警戒を担当していた冒険者らも各自の隊に合流し、行軍用の隊列を取りながらも騎士エルドリックに傾注する。


ざっと以後の行動予定が伝えられた後、再度の襲撃を警戒しながら真新しい草の折れた痕跡を辿り、然程の時間を掛けることもなく討伐隊は大地にぽっかりと口を開けた大穴を発見した。


(まぁ、俺たち兄妹からすればへんな匂い(フェロモン)が残っているから、奴らの移動痕跡を辿るまでも無いんだがな)


素早く衛兵隊が横列展開して守備を固めるのに合わせ、俺たちも輜重(しちょう)隊の人足(にんそく)を護るように位置取り、隣で樫の杖を緩く構えるミュリエルに即座の戦闘となる可能性の有無を念のため確認しておく。


「ん、大丈夫、形勢不利と判断して巣穴に逃げ込んだから、早々出てこないはずだよ…… でも、そのことも確認しておかないとね」


「なるほど、つまりは籠城か、行動自体は人間と変わらないな」


詳しく聞けば、巣穴周辺に外敵が接近した際、偵察種の巨大蟻から速やかに連絡が入り、相手と同数以上がコロニーに所属している場合は討ち出て防衛行動を取るらしい。


つまり、先刻の遭遇戦は主観的には襲撃された気分だが、ヴァリアントたちにとっては防衛戦になる訳だな…… その中で自分たちの数が減って劣勢に追い込まれると巣穴に逃げ込み、ほとぼりが冷めるのを待つという。


なお、周囲の個体数で攻勢と守勢を切り替えるのは地を這う小さな蟻も同様で、強敵となり得る獲物に対して、一緒にいる仲間の数次第で攻撃か撤退を決定すると記した学術資料が去年発表されたそうだ。


(ミュリエルのせいで、活用方法の分からない知識が増えていくな……)


暫し、何やら蟻の生態を熱く語り出す彼女の話を聞かされる俺であった。

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