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狼犬人と “黒鉄” の冒険者たち

(ッ、あの子狐、凄く見覚えがあるんだけどッ)


私の記憶に間違いがなければ、半年ほど前に森で遭遇した狐混じりのコボルトが化けた姿だと思うの。あの時は獲物をおびき出すため、囮になるという行動に衝撃を受けたから未だに覚えている。


(それに片手を上げる挨拶も、私に向けられてたよね?)


つまり、子狐を肩に載せて奇妙な滑車付き弓(コンパウンドボウ)を背負った青年は……


(もしかして、そうなの?)


無意識に視線が軽装の弓使いに釘付けとなってしまう。鍛え抜かれた錬鉄のような体躯に猟犬のような印象を感じることも相まって、一度気になってしまえば目を逸らすことができない。


「ん、どうかしたのか?」

「ううん、なんでもないよ」


私の様子を訝しみ、彼を連れてきたアレスが首を傾げたので曖昧に返事を返したら、何故か隣席のミレアが絡んでくる。


「実はミュリの一目惚れとか? そういう年頃かな~♪」

「…… 私、ミレアとひとつしか違わないよね?」


「あたしは気になるわよ、洗練されたボディに軽硬化錬金製?」


悪戯っぽく笑う彼女が熱い視線を向けるのは銀髪の彼ではなく、その背に見える金属製の凄そうな弓だ。何やら見たことのない部品が複数取り付けられ、量産品とは一線を画していた。


(う~ん、弓は以前と変わってるけど……)


確信が持てずに一人でやきもきしていると、アレスが爽やかな笑顔で紹介を始めていく。


「悪い、まだ名乗ってなかったな、俺は前衛戦士のアレスだ。そっちの軽装戦士が相棒のリベルト、怪我をしているのが、さっき話した弓使いのミレアだ」


最初に自身を指差したアレスが名乗り、円形テーブルに座す順番に皆の名を教えて、応じた各々が軽い会釈を交わす。


「で、最後は我らが()()()のミュリエルだ」


魔導士の部分をやや強調された私は自然な形を装って手を差し出す。


「初めまして、銀髪の弓兵さん」

「…… あぁ、よろしく頼む、俺はアーチャーだ」


……………

………


術師ならば身体的な接触を通じて、個々人が内包する魔力を感じ取ることが可能だ。少々逡巡しながらも、何度か寝食を共にした相手ならば構わないと結論付け、俺は差し出された白くて柔らかい手を握った。


(とう)の彼女は確信した表情で何やら小さく頷いた後、自身の椅子をずらして隣のテーブルから空椅子を引いてくると、座面をポンポンと叩いて座るように促してくる。


特に断る理由もないので素直に従えば、栗毛のアレスも席に着いて併設酒場の給仕を呼ぶ。


「何でも奢るぜ、好きに頼んでくれ」

「まだ、引き受けると言った覚えはないが、いいのか?」


「いいさ、話を聞いてくれるだけでも嬉しいからな」

「でも、あたしたちの活動資金から出すんでしょ、恰好つけないでよ」


仲間の突っ込みに栗毛の戦士が言葉を詰まらせるのを横目にメニューを開き、やってきた給仕にベルガモットのハーブティーと食事を、肩に乗った妹を指差して木皿に入ったミルクを頼む。


手早く注文を終えて視線を手元のメニューから上げると弓使いのミレアと視線が合い、暫く彼女からグラウ村での顛末を一通り聞くことになった。


その合間に動きやすさ重視の際どい服装を纏う彼女の肢体を一瞥して、手や腕、太腿などに巻かれた痛々しい包帯を見遣る。


基本的に治癒魔法は魔力干渉で肉体を強制的に賦活させるため、重傷を無理に回復させると急激な新陳代謝に肉体が耐えられず、歪な形で傷が癒えて後遺症を残す。


加えて、重傷ともなれば回復に膨大な体力を消費するので、最悪は衰弱死もあり得るのだ。結局、致命的な傷を負った場合、体力と相談しながら時間を掛けて癒す必要がある。


(ざっと見て、全治二週間といったところか)


中途半端な状態で戦場に出るなど自殺行為に等しいが故、助っ人を探すという判断は正しい。


「で、どうなの? 助けてくれると嬉しいんだけど」


服の裾を軽く摘まみながら、ミュリエルが期待の籠った上目遣いを送ってくる。


そもそも、それ以外に受領可能な依頼もないし、多少なりとも縁のある彼女に付き合ってやるのも(やぶさ)かではないと考え、ライ麦のパンを齧りつつ彼女の言葉に頷く。


「ん、ありがとう、頼りにするね」

「これであたしもゆっくり療養できるよ」


「改めてよろしく頼むぜ、アーチャーさん」

「程々に頑張らせてもらうさ」


確かリベルトといったか、軽装の戦士に応えながら鹿肉を小さく角切りして焼いた料理にフォークを突き刺し、先程から肩の上で足踏みして催促する子狐の口に放り込む。


「キュア~ン♪ クォン、ガゥウ! (うま~♪ 兄ちゃん、もっと!)」


くッ、要望通り喰わせてやったのに催促の足踏みが激しくなるだとッ!?

この野獣(ビースト)めッ!!


仕方なく、再びフォークを鹿肉に突き刺しているとミレアが子狐を指差す。


「それ、触らしてもらってもいい?」

「えッ、それはダメだよぅ……」


事情を知るミュリエルが止めるものの、彼女は首を左右に振った。


「違うよ、私が言ってるのは小狐ちゃんじゃなくて、弓ッ!」


どうやら指差していたのは妹ではなく背負った弓の方なので、レザーアーマーの背部に無理やり取り付けたボウクイーバー、分かり易く言えば革製の弓専用ホルダーで保持していた機械弓バロックを渡してやる。


(すご)ッ、持ち手(ライザー)が軽硬化錬金、リムは木製の薄板と柔軟化錬金の薄板を重ね合わせて樹脂で固めてるの!? 見たことないんだけど…… ナニコレ?」


恐る恐る機械弓を受け取ったミレアが興奮気味になにやら語り出し、(にわ)か弓兵である俺には理解できない単語も飛び出してきた。


(とっておきとは言っていたが、本当に凄い物だったんだな……)


心の中でエルネスタに感謝を捧げていると、身なりの良いメイド姿の娘がギルド内に入ってきて、ちびちびと野菜炒めを食む赤毛の魔導士を視界に捉えて歩み寄ってくる。

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