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銀髪の弓兵、ボッチ扱いをされる

賑わいを見せるギルド併設の酒場を避け、眼光鋭い銀髪の青年が依頼を貼り出している掲示板へと一直線に向かうのと対照的に、彼の右肩に乗った子狐はキョロキョロと屋内を見回す。


「ワファアオゥウ、クォン (なんか騒々しいね、兄ちゃん)」


何やら妹が話しかけてくるものの、さすがにギルド内で “がぅがぅ” 言う訳にもいかないので、軽く頷いて子狐の頭を撫でておく。


「キュ~ン♪」


一応、都市郊外でダガーには話し掛けても無視すると伝えてあるし、それは以前にゼルグラの町に行った時と同じなので問題はないだろう。


今回は数日間滞在するつもりで、ここから三軒隣の宿屋 “四つ葉の白詰草(クローバー)亭” に部屋を借りているため、緊急時以外の会話はそこですれば良い。


(さっさと手頃な依頼を受けて、飯でも喰うか……)


ちらりと美味しそうな匂いのする夕飯時の酒場を一瞥すると、他の冒険者たちよりも良質な装備に身を包み、人目を惹きつける朗らかな笑みを浮かべる若い女に意識が向く。


金糸の髪を赤いリボンで纏めた彼女は剣士の出で立ちであるが、杖の代わりに魔法術式を補助する装飾具を複数身に着けているため、少々の違和感があった。


その対面に座る大柄な男も、椅子に立て掛けてある分厚い中型盾(ミドルシールド)、尖った二等辺三角形の形状を持つ大剣が特徴的で目に留まる。


(魔法剣士(メイガスソード)迎撃(ディフェンス)系戦士(ヴァンガード)といったところだな……)


思わぬ強者の発見に野生の本能さんが疼くが、無理に関わる必要もないので、直ぐに視線を外して依頼が貼り出されている掲示板へと向かう。


「ふむ、ドレスデの町北西に棲むステッペン・コボルトの…… 却下だ」


どうやら草原種のコボルトたちが冬になると飢えて家畜を襲うことがあるらしいので、そうなる前に数を減らしてほしいという依頼だが、何が悲しくて同輩を駆逐せねばならんのか……


因みにうちの群れは幸いなことに豊穣なイーステリアの森に棲んでいるため、家畜に手を出すという危険を冒したことは俺の知る限り無いはずだ。


ただ、春先に駆け出しの冒険者を数組ほど殴り倒した記憶があるので、念のために “イーステリア中部一帯のコボルト駆除” の依頼などが掲示されて無いことを確認し、ほっと一息を吐いた。


「キュオゥ? (どしたの?)」

「なんでもないさ」


小首を傾げる子狐の頭をポフポフしてから、薬剤師からの “ブラックラビットの角を採取してほしい” という依頼書を掲示板から剥がして、カウンターの受付嬢へと持っていく。


ブラックラビットは全長1mほどの黒い角付き兎で、白銀の角は治癒魔法が効かない類の肝臓病や胃腸炎などの生薬として加工されている。


通常のビッグホーンラビットよりも遭遇率がかなり低いため、人間たちからすれば角を手に入れることが難しく、特に自国内に棲息しない砂漠の国々では信じられない金額がついていたはずだ。


故に確認した報酬額もそれなりのモノだが、森に棲む嗅覚に優れた俺たちならば、数日を投じれば一匹くらいは見つけられるだろう。


獲らぬ黒ウサギの角算用をしつつ、首尾よくいったら、集落の皆に土産でも買って帰ろうと上機嫌で受付嬢へと依頼書を差し出すが……


「ご領主様から、特例依頼が出されたのはご存知ですよね?」

「……はい?」


「現在の当ギルドではヴァリアント討伐に係る依頼しか扱えません、ギルド登録証を拝見してもよろしいですか?」


請われるままに腰袋から折り畳まれた小さな羊皮紙を取り出して渡す。


「アーチャーさん、得意武器は弓…… お名前そのままですね」

「…… (やはりもっと普通の名前にすべきだったか?)」


「えッ、弓使いなのに適性が前衛!?」


ギルド登録時に受けた適性試験で基礎的な身体能力と扱う武器での技量を見られるのだが、不本意ながら後衛よりも前衛としての適性値の方が高かったのだ。


確かに双剣のゴブリンと斬り合ったり、コボルト族の伝統に従って同族たちと拳で語り合ったりなど、心当たりが無いとは言えない…… あぁ、傭兵時代から何も成長してない気がしてきたな。


少々、昔を思い出して遠い目をしている間に受付嬢さんが記載内容の確認を終え、登録証をおずおずと差し出す。


「申し訳ありません、貴方の所属はゼルグラのギルドですが……」


やや表情を曇らせた彼女の説明によれば、領主から特例依頼が出されているギルドを訪れた冒険者には、参加義務が課されるらしい。


(知ってるようで知らない事も多いな……)


などと思いながら、特例依頼について幾つか確認しておこうと口を開きかけた瞬間、背後に気配を感じて振り返る。


「うおっと、すまない、少し話をいいか?」


妹がいない方の肩へと伸ばそうとした手を引っ込め、栗毛の青年が笑顔を作る。


「別に構わないが……」

「なぁ、あんた一人でギルドに入ってきたよな、ボッチなのか?」


爽やかな笑顔で微妙に失礼なことを言ってきやがるな、こいつ。


「いやさ、近々ヴァリアントどもの討伐があるだろ、仲間の弓使いがその前哨戦で負傷してな…… できれば助っ人を頼みたいんだ」


ふむ、臨時メンバーというわけか…… 別に然したる興味もないので、正直どっちでも良いと思いながら、栗毛の青年が指で示すテーブルを見ると、どこかで見たような赤毛の魔導士がちょこんと座っていた。


「…… まぁ、話ぐらいは聞こう」

「そうか! 有難い」


こうやって偶然に会うのも何かの縁かと思い、誘いに応じて彼らの座すテーブルへと近づいていくと、しきりにミュリエルが首を捻り始める。


その時点で俺も気づいた。


彼女が肩の上で毛繕いを始めた妹を凝視していることに…… そして、止めを刺すように肩に乗った妹が先端だけ白毛の小さな手を彼女に向かって掲げた。


「キュア~ン♪」

「ッ!?」


直後、赤毛の魔導士は驚愕の表情で凍り付いてしまう。

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