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ヴァリアント襲来 in グラウ村

都市ウォーレンへと撤退するまで、もう後1話ぐらいはミュリエル達の物語です。

「正直なところ助かった、感謝する」

「ちょっと疲れてる時に出遭っちゃってね~」


無骨そうな日焼けした男が礼を言い、色白の女性は照れくさそうに頬を掻いた。その後ろには線の細い神官の男と小柄な魔術師の女性が続く。


「ところで、あの嬢ちゃんは何をしてるんだ?」

「あ~、いつもの事だから気にしないでくれ」


お互いに言葉を交わすアレスと冒険者たちの視線の先、ミュリエルが巨大蟻の死骸を前に何やら唸り声を上げていた。


「う~、この辺りで見ない種だよね? でも、見覚えが……ッ、ヴァリアントッ!?」


何やらふいに叫び声を上げる赤毛の魔導士の隣に立ち、先程その個体を仕留めたリベルトが訝し気に死骸を見つめる。


「何なんだ、そのヴァリアントってのは?」

「こ、これは危険だよぅ、直ぐに知らせないと!」


「いや、だから説明を……」

「繁殖力が高くて、ほっとけばスタンピードを起こす危険種なのッ」


一瞬だけ、危険種の言葉に反応して皆の表情が強張る中、改めてアレスが話を継ぐ。


「なぁ、いまは初冬だぜ? 蟻なんて休眠期だろ」

「もうッ、雪が積もるまでは蟻型魔物の活動時期だよ!」


唯の蟻と魔物を同一視することはできないし、秋に十分な食料を確保できていなかったとしたら、この時期に活動していても不思議ではない。


そうであれば、冬の休眠期に入る前に周辺の村や町を襲う恐れもある。


(確かヴァリアントのコロニーには二百匹程度が棲息するはずだから……)


さすがに小さい普通の蟻と違って巣穴に潜む数は少ないが、それでも脅威に変わりなく、とても一介の冒険者がなんとかできる事案ではない。


「だが、そんなに強くないだろう、追い込まれていた俺たちが言うことでもないが」


無骨な冒険者の男はどこか気まずそうにしつつも、万全の状態ならば自分らだけで対処できたはずだと言外に含ませた。けれども、一概にそう言い切ることはできない。


「甘いよッ、これは偵察型ヴァリアントだから弱くて少数だけど、町や村を襲ってくる時は百匹くらいでくるし、上位種とか脅威度Cで女王蟻に至ってはBだよ!!」


「………… マジで?」


生物学者の端くれである彼女の警告に対し、それを知る仲間たちが驚愕の表情で固まるも、他の冒険者たちは半信半疑だ。


「そんなにヤバいのか?」

「いまいち、実感できないわね……」


「とにかく、この辺りだとグラウ村が危ないかも、何か嫌な予感が……」


因みにこういう時のミュリエルの予感はよく当たってしまう。念のため、出会った冒険者たちと近隣の村へと立ち寄り、別れた後に村長宅を訪ねるが…… その反応はよろしくない。


「ふむ、危険種の魔物ですか? 自警団から蟻型の魔物を撃退したという報告は昨日ありましたが、そこまでの脅威とは聞いておりません」


唐突に訪ねてきて、村が襲われるかもなどと言い出した冒険者たちに村長のレヒテは胡乱(うろん)な目を向ける。それでも真面目に応対しているのは赤毛の娘が魔導士の外套を纏い、(ふくろう)をあしらったミスリル銀製の徽章(きしょう)を付けているためだ。


少なくとも王立魔術学院の正規課程を経た魔導士ならば、ただの冒険者であっても貴族連中や宮廷魔導士らと繋がりがあってもおかしくない。


なお、彼の予想は正しく、ミュリエルは次席宮廷魔導士であるエルネスタの親友であって、地方貴族であるヴェスト家の一人娘だ。


もっとも、彼女に対して非礼があったところで、“征嵐の魔女” がそんな些事(さじ)に関わる事もなく、実家の父親も貴族というよりは西方諸国の各地を探索する生物学者と(うそぶ)く冒険者に過ぎない。


ただ、グラウ村の長がそんな事情を知るはずも無く、困った表情で思案している赤毛の魔導士の様子を窺う。


「…… ヴァリアントを自警団が追い払うよりも以前に目撃例はありましたよね?」


口元に片手を添えながら、確かめるように彼女は言葉を紡ぐ。


常識的に考えれば、いきなり村の自警団が巨大蟻に遭遇するのではなく、村人が草原地帯かイーステリアの森で最初に遭遇していたはずである。その目撃情報の真偽を確かめる過程で、自警団員たちがヴァリアントと出遭ったのだろう。


「えぇ、放牧地付近に巨大蟻が現れたと訴えがありました」

「ッ、不味いかも…… いつ頃の話ですか?」


「三日前です、それで自警団が警戒していたところに昨日も……」


 (うぅ、さらに危ないよぅ)


最初の偵察型ヴァリアントが偶然にグラウ村へと辿り着いたのであれば、昨日の個体群は明確な意思の下で遣わされた斥候隊の可能性が高い。


しかも、“撃退” したという事は、全滅ではなくて何匹かが生きてコロニーに情報を持ち帰っているのだ。現状を整理して溜息を吐いたミュリエルはアレスに向き直る。


「できるだけ早くウォーレンに戻って、行政庁に連絡だね」

「そうだな、今ここで俺たちができる事も少ないだろう」


一通りの話が付いたところで、窓の外に視線を向けると既に日は落ちかけており、いつまでも村長宅にお邪魔する訳にはいかない。


「レヒテ村長、お時間頂いて感謝します」

「いえ、こちらこそフェリアス領行政庁への報告をお願い致します」


手短に別れの挨拶を交わし、グラウ村にある宿屋へと向かう。ここは中核都市近郊の村ということで相応に立派な宿屋があり、ミュリエルたちも何度か利用したことがある。


その ”豊穣の祈り亭” で別れたばかりの冒険者たちとまた顔を会わせ、先に夕食を食堂で取った後、彼女は借りた二人部屋に入ってベッドへとダイブした。


「う~、何か疲れたよぅ」


突っ伏す赤毛の魔導士の隣にミレアが腰掛けると、彼女はもぞもぞと蠢きながら魔導士の外套をポイっと脱ぎ捨て、装備を外して下着姿となり、毛布を手繰り寄せる。


「起きてると余計なことが気になるから、もう寝る」

「ん、おやすみ、全部が気苦労で終わると良いね」


さっさと眠りにつくミュリエルの頭をポフポフしつつ、前向きに物事を考えるミレアだが…… 上手く事は運ばない。


翌日の早朝、他の仲間よりも早く目覚めた小柄な魔術師エイナは散歩の途中、昨日出会った赤毛の魔導士が言っていた話をふと思い出す。少々気になった彼女は村の東端まで歩き、遠見の魔法を宿した瞳で森の奥を見通した。


「何も無いわ…… いったい、私は何をしてるのかしら」


馬鹿らしいと思いながらも、”ついでだから” と北端まで左回りに移動して平原を見渡すと……


「ッ、まさかッ!」


北側の平原に見えるのは黒い無数の点、意識を集中して瞳に籠めた魔力を高めれば、それが巨大な蟻たちだと理解できてしまう。瞬時に彼女は身を翻して冒険者たちの集う宿屋へと駆け出した。

※人物紹介


名称:アレス(♂)

種族:人間

階級:ソードファイター

技能:フルスイング パリング

   腕力強化(中 / 効果は一瞬)

称号:”黒鉄” の戦士

武器:ロングソード(主) メイルブレイカー(補)

武装:バンデッドアーマー


名称:リベルト(♂)

種族:人間

階級:フェンサー

技能:三連斬 受け流し

   脚力強化(中 / 効果は一瞬)

称号:”黒鉄” の剣士

武器:サーベル(主) マインゴーシュ(補)

武装:ハードレザーアーマー


名称:ミレア(♀)

種族:人間

階級:イエーガー

技能:近接弓術 罠解除 罠設置

   DEX増加(中 / 常時)

称号:”黒鉄” の狩人

武器:ショートボウ(主) ハンティングナイフ(補)

武装:ハードレザーアーマー


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