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中核都市ウォーレンにて

今回はミュリエル達メインのお話です。

あと、作中は初冬ですが、雪が積もるまで蟻の魔物は活動できる仕様です。


丁度その頃、ファリアス領の中核都市ウォーレン、そこの新興区画に建つ冒険者ギルド支部は喧騒に包まれており、併設された酒場の一角には若い赤毛の魔導士たちの姿もある。


「よう、とんだ災難だな…… せっかく、”黒鉄” に昇格したってのに」


「あ~、名誉の負傷?でも、これであたしは討伐隊への参加免除だし」


複雑骨折して包帯が巻かれた右手をプラプラさせ、苦笑いを浮かべた勝気な娘はミュリエルの友人であり、斥候を務める弓使いのミレアだ。気さくな性格と動きやすさを重視した露出度高めな装いもあって、所属ギルドの男連中には人気があったりする。


故に彼女を見舞ったのは目の前の厳つい大男で7人目だが、彼女は笑顔で応対していた。


(多分、内心では面倒だって思ってるよね……)


ただでさえ、グラウ村の住民たちを護りながらの撤退戦で負傷し、暫く弓矢が握れないために不機嫌なはずだが、そんな様子を微塵も感じさせないのはさすがである。彼女は暫しの後、話し終えた大男を送り出して仲間たちへと向き直った。


「というわけで、あたしはお休みってことで…… ごめんね」

「仕方ないさ、ミュリエルの治癒魔法も万能じゃない」


「うん、無理に治癒すると骨が変に癒着して、弓矢を握れなくなっちゃう……」


多少の時間を掛けて徐々に治癒していくしかないため、近日中に行われるヴァリアント討伐戦には間に合いそうに無い。


「しかし、ミレア抜きだと厳しいな、参加拒否は……」

「冒険者資格の一時停止と罰金だぜ?」


栗毛の髪を掻き揚げたアレスの呟きに、リベルトがすぐさま釘を刺す。


「ん、領主勅命の特例依頼だからね」


今現在、ギルド内を騒がしている特例依頼とは、領内の危機的状況に於いて、領主が強権を以ってギルドに発令する特別な依頼だ。


当該ギルドが所管する地域内の全冒険者が対象とされ、例外としてミレアのような負傷者や遠方に出ている者を除き、参加を強制されてしまう。


「まぁ、死なない程度に頑張るかぁ」

「アレスの言う通り、褒賞金よりも命だしな……」


「そうだね、ヴァリアント・クイーン討伐なんて私たちには無理だよぅ」


巨大蟻の女王は脅威度Bの魔物であり、とても “黒鉄” に昇格したばかりのミュリエルたちには相手できない。それに女王を護るインペリアル・ヴァリアントですら刺し違える覚悟で挑む必要があった。


幸い、大半の個体は脅威度E+のヴァリアントなので、彼女たちでも対応できるものの、上位個体と対峙した場合は逃げるしかない。


「…… 大丈夫なのか、今回の討伐」


思わず零したリベルトの言葉はここにいる大半が考えていた事でもある。


ヴァリアント・クイーン単体でも “金” の冒険者2~3名が討伐には必要となり、加えて取り巻きのインペリアル種や数の多い通常種もいるわけで……


「ヴィエル村の鼠駆除の時みたいに毒とかないの、ミュリエル?」


「うぅ~、毒耐性があって効くのが少ないよぅ」


ミレアの言うことはもっともだが、そんなに都合よく有効毒が用意できる相手でもない。一応、この都市には “金” の冒険者が3名いるが、彼ら全員が揃って参加しても厳しいものがあった。


なお、英雄である “緋金” やそれに次ぐ “白銀” の冒険者は一国に一人いれば良い方で、実質的に在野で最高位の冒険者は “金” となる。


その割合は冒険者の上位3%未満であり、続く “銀” は7%程度、一般的な “黒鉄” が60%程度、駆け出しの “鉄” が30%程度となっていた。


この都市ウォーレンでもその割合は変わらず、現在都市に滞在しており、参加可能な冒険者約六十名の分布も同じである。要するに大半がミュリエルたちと同じ “黒鉄” 以下なので、ヴァリアントのクイーンやインペリアル種を討つことは難しい。


だからこそ、皆どこか不安を隠せないのだが…… 放置するわけにもいかない。


「…… ここで倒さないと、きっとスタンピードが起きちゃうよね」


ミュリエルは決意した表情で皆と向き合う。


「あぁ、助けられない人も多かったからな……」

「あたしたちにできる事なんて知れてるわよ、リベルト」


生真面目な彼を気遣ってミレアが言葉を掛けるが、痛々しい彼女の治療跡を見て眉をひそめてしまう。彼女自身が言っていたように名誉の負傷ではあるのだが、遣り切れないものがあるのだろう。


二人のやり取りを眺めながら、ミュリエルは事態の推移を思い返す。


それは幾つかの貴重品などを纏め、都市ダグラスへと届けるニース商会の依頼を果たして帰還する途上、グラウ村付近で体長1.5m、体高1mほどの巨大蟻数匹と戦う四名の冒険者と出会ったことから始まる。


「…… あれは、助けた方が良いのか?」


「う~ん、下手に邪魔をするのはダメだけど…… 何か危なそうだよね」


既にニ匹の巨大蟻を倒しているものの、どうやらヒーラーの魔力が切れているのか、前衛の男女二人が負傷したまま後衛を護りながら戦っていた。


「この場合はいいんじゃない、のッ!!」


ミレアが矢筒から三本の矢を掴んで弓ごと握り込み、連射の構えで途切れなく三度撃ち放つ。


「ギッ、ギギ!?」


腹部に二本と頭部へ一本の矢を受けた巨大蟻は一瞬の硬直後、射手を視界に捉えてよろけながら向かってくるが、途中で地に伏して絶命した。


「ん~、耐久力はそれほどなし、脅威度は高くなさそうね」


力尽きた巨大蟻を一瞥したミレアが呟く間にも、彼女に気付いたもう一匹が気勢を上げながら予想以上の速度で這い寄る。


「ちッ!」


舌打ちと共に弓使いが飛び退り、入れ代わりでサーベルを脇に構えた軽装戦士が身を低くして駆けていく。


「せいやぁあッ!!」

「キシャアーー!」


飛び掛かってくる巨大蟻へと横構(よこがまえ)からの逆袈裟切りが振り抜かれ、額を深く切り裂いて仕留めるも、慣性のままに突っ込んでくる巨躯は止まらない。


「ッ!?うわあぁッ」


巨大蟻の死体に押し倒され、彼は尻餅を突いてしまう。


「痛ぇ……」

「締まらないわね、リベルト」


「その言い草は酷くないか?」


ちょいと拗ねた表情をする彼にアレスが手を伸ばして立たせてやる。


「大丈夫か?」

「あぁ、大した事はないさ…… それより」


此方(こちら)が二匹の蟻を仕留めている間、彼方(あちら)も二匹の巨大蟻を仕留めていたらしく。手を振りながら疲れ切った表情の冒険者たちが歩いてきた。

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