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エルフ達の諸々とお買い物

「ウゥ~、ワフィオンッ、グァ!!

(うぅ~、何なんだよッ、もう!!)」


「ワゥウッ、ガァウファ~♪

(アックス、どんくさい~♪)」


おでこを押さえて涙目で唸る食いしん坊コボルトへと、我が妹が容赦ない言葉を掛けるのを聞き流しながら、少し離れた場所へと移動する。


そこで革鎧を外して上着を脱ぎ棄て、ズボンに関してはそのままに尻尾用スリットの位置を意識して人化状態から狼混じりの犬人に変貌を遂げていく。


(ぐッ、ぅ、相変わらず身体が造り替わるこの感覚……)


正直、キモチワルイがこれを経なければ本来の姿に戻ることができない。人化を行う頻度がそれほどまでに高いとは思えないが、いつかは慣れる日がくるのだろうか?


「クオゥ ヴォルオォ (日々精進だな)」


声帯がコボルト族のそれへと切り替わって大陸共通語の発音が不可能となり、身体が毛に覆われて犬歯と爪が伸び、ズボン背面のスリットからはフサフサした尻尾が垂れた。


この尻尾用の穴…… ルクア村で購入できる衣服には完備されており、狼犬姿の時は丁度良いのだが、人化した際は無用な長物となる。


(外套を羽織れば問題ないし、着心地は悪くない)


服の生地は猫娘たちが腰織機と呼ばれる道具で冬の間に織った麻布で、これは俺たちも購入させてもらって腰布の素材としていた。お陰でうちの集落ではチクチクすることも多い腰蓑から腰布への切り替えが起きている最中だ。


その事もあって麻布織りに興味を示した小柄な垂れ耳コボルトのスミスが腰織機を欲しがっていたので、石材加工用の平鑿(ひらのみ)などと併せて買って帰らないといけない。


(腰織機は木工品だからグリマーが製作していて、鉄の工具類はバラックのとこか…… 後、ジョセフのところで鶏を可能ならば売ってもらう)


腰の革袋に手を当てて、金貨や銀貨の重みを確かめる。


一応、ルクア村は近隣にある約二千名の人口を有するフェリアス領ウィアルドの町を通じて、領内の経済圏に組み込まれているため、ディオル通貨が使えない事はない。


強いて言えば、森に暮らす猫人の特質から自給自足の側面が強い村故に、流通量が少なめで使える場所が限られている事に注意しなければな……


ざっと頼まれた買い物について纏めた後、古代の森から随伴してきた世界樹の巫女殿にアースヒールによる治癒を受けているアックスの傍に寄り一言詫びておく。


「グルヴァアゥ…… ウルァオゥ

(不可抗力だが…… 悪かったな)」


「ワォン、ウォルウ グゥア ヴァアガゥオォン

(いいよ、今度から隠れて蜂蜜食べるからさ)」


そうは言うものの、奴はしゃがみ込んだまま尻尾で不機嫌そうに地面を叩く…… 俺たちの感情は尻尾や耳の動きに出やすい。何か後で機嫌を取ってやるべきかと考えていたら、不意に腕の毛を軽く引っ張られる。


「クォン、クルアゥ ガゥルァン♪ ワフィグァアン?

(兄ちゃん、そろそろお昼だよ♪ 何か狩ってくる?)」


「ワォアン (そうだな)」

「うぉる、ぐるぅうぉおぅ…… (なら、私も行く……)」


樹上の枝に座って幹に背を預け、模擬戦を観ていた小柄な黒曜のエルフが ”ざんッ” と飛び降りてきて、手に持った大きなエルフィンボウを掲げた。


両肩に編み込んだ銀糸の髪を垂らし、厚手のショートパンツとロングブーツの間に健康的な小麦色の肌を晒すのは巫女の護衛を務める狩人のセリカだ。


黒曜一の射手(いて)としてエルフたちの間では知られているらしく、結果的に()()だったが…… 一連の改革過激派が起こしたマーカス司祭射殺の狙撃犯として疑われ、息苦しい暮らしを送っていたところに護り手の白羽の矢が立ったらしい。


一見するとクールな美人さんだが負けず嫌いで、道すがら一緒に狩りへと出かけた際に俺が彼女よりも先に野ウサギを仕留めて以降、対抗意識を燃やしてくる。


実際のところ狩猟の腕は恐らく彼女の方が上なのだから、先に獲物を確保しては ”ふっ” という笑みと共に見せつけてくるのは止めてほしい。


まぁ、今回は用事があるので昼ご飯の確保は頼むとしよう。


「グァン セルァオォン、ウォファ グルァアォオウゥ 

(狩りはセリカに任せる、妹とバスターを連れていけ)」


「…… 張り合いの(ヴィトラァ )無い(ロゼ)


エルフ語で何やら呟いた彼女は踵を返して森の奥へと歩を進め、その後ろに狐しっぽをご機嫌に揺らした妹と大剣を担いだ腕黒巨躯のコボルトが続く。


「ウォアォオンッ、グルァ (行ってくるぜッ、大将)」

「クルァウゥ グァアオォン~♪ (美味しいの狩ってくるね~♪)」


「ワフ、クゥオァアン (あぁ、期待させてもらう)」


軽く頷いて食料調達班を見送った後、ズボンのベルトに引っ掛けていた魔法銀製の仮面を手に取って被る。先程のセリカは狩猟中にコボルトたちと出くわすことも多々あるため、争いを避ける意味もあってコボ語に長けていたが、皆がそうだとは限らないので念話も必要だ。


「ワゥ、グルォ オァルクァアゥ…… クァルォウ ワフオァアァン?

『さて、俺たちは村で買い物だが…… エルフの皆はどうするんだ?』」


「そうですね、猫人族の村は珍しいので見物させて頂こうかと」


森人を代表して、小型猛禽類(ハイタカ)の使い魔を肩に留まらせた巫女リスティがそう答えながら、確認を取るようにウォレスへと視線を投げた。


「勿論構わないよ、僕らの祖先も古代の森に棲んでたからね、君らは良き友人だ」

「じゃあ、私が案内するね!」


猫耳をぴんっと立てて申し出るリズに謝意を述べるリスティの傍、寄り添う青肌エルフの新婚さんがぐっと拳を握る。基本的に青銅のエルフたちは好奇心旺盛だからな……


「ん~、私は猫人たちのお薬事情が気になるのですぅ」

「ミラはいつもそれだね、いいよ俺も付き合おう」


「ありがとうなのです、アスタ~♪」


ぎゅっと夫の腕を胸元に抱き込んでいるのが青銅の薬師ミラで、成すがままになっているのが青銅の鍛冶師アスタだ。聞けば幼馴染で互いにあまり意識してなかった状態から、アスタが改革過激派に武器や火薬を売った罪で投獄されて、その事件を切っ掛けに急展開したらしいが……


(思わず砂糖を吐いてしまいそうな仲睦まじい姿を見せられてもな)


ふと視線を逸らすと独り身のレネイドも同じように視線を逸らしていた。ともあれ、暫し彼らの惚気を聞き流してから、ルクア村に入って各々の時間を有意義に過ごす。


途中、荷物持ちのアックスが猫人幼女(リーリア)捕獲(ゲット)されてモフられる事案が発生したが、俺たちも目的の物を買い終えて野営の場所へと引き返し、仕留めた猪を指差して誇らしげに薄い胸を反らすセリカに迎えられる。


その彼女や妹と調理をしながら皆の帰りを待って昼餉(ひるげ)を済ませた後、ここから残りニ日間の道程を経て、久方ぶりの集落に帰還するのだった。

人物紹介


通称:セリカ・グリーンウッド (♀)

種族:黒曜のエルフ

階級:エルフアーチャー

技能:十里眼(5.4km先がハッキリと見える) 初級魔法(水・風)

   気配遮断(中) 跳躍力強化(中 / 効果は一瞬)

   6連射(毎秒1射で命中率80%)

称号:樹上に潜む狩猟者

武器:エルフィンボウ(主) クリスタルダガー(補)

武装:弓兵の胸当て 弓籠手



”皆様に楽しく読んでもらえる物語” を目指して日々精進です!

ブクマや評価などで応援してくれれば、本当に嬉しく思います!!

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