3匹、集落へ帰還する
集落から少し離れた森の中、木漏れ日の中を子犬のような幼い仔ボルトが四つ足で歩く。まだ二足歩行ができないようだ。
親と離れてしまったのか、それとも勝手に集落を抜け出して迷子になってしまったのか? ともかく、こんな場所にいるには不自然なほど幼い。
「クキュウ、キュアーーン♪」
その幼い仔ボルトは楽しそうに森の中を進む。
自身を樹上から狙う怪しい影にも気づかずに……
丁度、樹の傍へとコボルトの幼体が近づいた瞬間、バサバサッと羽音を立てて鳥型の魔物であるヤタガラスモドキが頭上より飛びかかる!
「クカァアアーーーッ!!」
その強靭な脚で幼い仔ボルトを鷲掴みにして空に攫おうというのか、若しくはこのまま地面に押さえつけ、鋭い嘴で止めを刺す気なのか……
「カッ!? ガァ……、アァ……ッ」
しかし、哀れな獲物と化したのはヤタガラスモドキだ。
先程まで、子犬サイズの仔ボルトの幼子がいた場所にはくすんだ黄金色の体毛とモッフモフの尻尾を持つ、狐のようなコボルトの成体が立っている。
その狐混じりの犬人、ダガーはヤタガラスモドキの喉元に噛みつき、鋭い牙を突き立てていた。
【幻術(初):縮小変化】
【効 果:自身の身体を縮小させることが可能、その際に多少の形状補正もできる】
なお、彼女は腰蓑を含む武器防具の一切を身に着けていない。幻術で幼い仔ボルトに変化した際、着ていた装備などが全て脱げてしまったからだ。
所謂、真っ裸であるが…… まぁ、ただのモフモフでしかない。
「クォンッ、キュアウ オアァーンッ! (兄ちゃん、お土産を確保したよッ!)」
俺は万一の時のために構えていた弓矢を降ろし、伏せていた木々の間から姿を現す。同様にダガーから一定の距離に潜んでいたバスターも姿を晒した。
「グルァアッ、ウォフ! (見事だッ、妹よ!)」
「グアォルゥウ、ガルゥオウ (ダガーの幻術、侮れないな)」
二匹でヤタガラスモドキを仕留めた妹の傍に行く。
少し離れた位置で待機していた赤毛のミュリエルもこちらに駆け寄ってきた。その手にはダガーの装備一式と腰蓑が両腕に何とか抱かえ込まれている。
「コボルトがッ、コボルトが幻術って…… ううん、もう私は驚かないわッ!」
そんなことを言いながら、ミュリエルがダガーに装備一式と腰蓑を手渡す。
なお、俺たちはレザーアーマーを地毛に装備している。そもそも集落では雄雌かかわらずに腰蓑一着だ…… 毛皮があるから必要ないし、時期によっては暑いだけだしな。
それでも身を護る防具の着用は必要となるため、いそいそと装備を着込んでいく妹に一声を掛ける。
「ウォフ、クゥガクァルオ (妹よ、短剣を借りるぞ)」
「ワォン (いいよ)」
受け取った短剣で大鴉の首筋を切って血を抜き、必要な処置を施した後にバスターへ獲物を渡した。もう少しで集落に辿り着くという場所で俺達が何をしているかというと、居残り組へのお土産の確保だ。
決して、目的である山脈に辿り着けずに帰還するという立場上、気まずくなってお土産で誤魔化すわけではない…… つもりだ。
因みに大地を駆ける俺たちコボルトにとって、空を飛ぶ鳥は狩る機会が少ない。いいお土産が手に入ったので、上機嫌で俺たち三匹と一人は集落に向かって足を進めていく。
……………
………
…
「ウォゥ…… グルォウァアゥ (あれは…… 知らない連中だな)」
昼餉の後の腹ごなしと集落周辺の警戒を兼ねて、いつもの如く俺が相棒のロングソードを手に森をふらついていた時、遠目に見慣れない同族の姿をふと見かけた。
先頭に目立つ銀色のコボルト、次に狐っぽいコボルト、そして何故か冒険者という奴もいる。その最後尾は大きな体躯を持つコボルトだ。
たとえ、散歩中であっても気配を消すことに余念がないため、まだ連中はこちらの存在には気づいていないようだが…… まぁ、正対するような位置関係でもないうえに風下だからな。
発動:気配遮断(中)
効果:自身の気配を気取られにくくなる。
俺はさらに気配を殺して身を低くし、相手の様子を探るために音もなく近付く。
勿論戦うつもりは無く、連中が何なのかを確認するだけだ。多勢に無勢で戦うとか馬鹿だからな、見つかったらここは逃げの一手だろう。
そして、慎重に接近する途中で気づいた。最後尾の大柄なコボルト…… 二の腕までの毛並みが黒くなっているが、あれはバスターだ。
(あれ?ということは御頭ッ!)
……………
………
…
「ッ、ガルァ…… (ッ、これは……)」
気配は無いけれど、俺のケモ耳が微かな足音を捉える。実はこの銀色の毛並みになってから聴力は上がっていた。
しかし、記憶にあるよりも奴は気配を殺すのが上手くなっているな……
「ワゥッ、ワオァンッ! (おい、ブレイザーッ!)」
「ワゥァン、グルァッ!! (やっぱり、御頭かッ!!)」
少し前方の茂みから身を起こしたブレイザーの姿は俺の知るものより若干変わり、長身痩躯となっていた。そのことの確認も含めて互いのいきさつを話し合う。
「ガォン、グルゥオア…… (そうか、グレイベアを……)」
「クッ、グルゥガォアァオオンッ (くッ、俺が奴を切るはずがッ)」
俺の横でバスターが膝を突いて凹む。気持ちはわからないでも無い、グレイベアは幼い頃の俺たちに共通するトラウマだからな……
「ヴ、グルゥオアォルアゥ、ワォウファン ヴォルファウォオン
(で、グレイベアを倒した後、気が付いたらこの身体になっていた)」
「グルォ ウォアクゥオァアーン (あたしたちも同じような感じだよぅ)」
話を聞けば、アックスの毛並みも蒼くなっているらしい。
外見的変化の度合いで言えば、俺や妹と同様に大きく変わった部類だな。
「グルァ、ガルゥガオァ? (ところで御頭、そっちの人間は?)」
「クルァ…… クォアルオオォン (客人…… 仲間のようなものだ)」
集落にコボルト以外が訪れることはなかったため、俺はミュリエルに対して仲間という表現をした。
読んでくださる皆様には本当に感謝です!!
拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります。




