吸血妖樹 VS 森の猟犬達
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「グルォ、ヴォルァアッ!! (皆、征くぞッ!!)」
「ッ、ヴォルァアァン! (ッ、駆け抜けるわよ!)」
「「ウォオオオ―——ンッ (うぉおおお―――ッ)」」
咆哮を上げながら吸血妖樹へと迫る犬人たちの武器が淡い燐光を放ち、濃霧に覆われて薄暗くなった森に軌跡を描いていく。
その光は事前に仲間たちの武器に付与されたランサーの聖属性魔法 “ホーリーウェポン” によるもので、不死族・吸血種・悪魔族などの魂を焼き焦がす聖なる光だ。
と言えば凄そうに聞こえるが…… 実は初級の聖属性魔法で聖堂教会に認められた一人前の司祭ならば誰でも行使できる。
ただ現状での選択としては正しく、吸血種の樹精は純粋ではない闇色に染まった魔力を体内に宿すため、相反する聖なる燐光に怯んでコボルトたちに向けた蔦の動きを鈍らせた。
「ガルォウッ (邪魔だッ)」
その隙を突き、体格に恵まれたコボルトが斧術の先達より譲り受けた戦斧を斜めに振り下ろし、前方を塞ぐ夥しい蔦を纏めて切り裂く。
さらに彼は動きを止めること無く、振り抜いた戦斧に生じる遠心力のまま独楽のように旋回し、追撃として放たれた太い茨の鞭も切り飛ばして吸血妖樹の懐に飛び込む。
「オオォ オオォオォオ……」
「ウォルヴァッ、ワゥアオルァアァン!!
(樹の化け物ッ、木こりを舐めんなよ!!)」
戦場に似合わない気勢を吐き、樹の根元へと重い斬撃を振り下ろした!
なお、彼は蒼色巨躯の先達に木こりとして鍛えられ、師が不在の時はスミスら垂れ耳コボルトたちに木材をせがまれて、幾本もの木を切り倒してきたのだが……
渾身の一撃は不気味な声を響かせる吸血妖樹の動きを少々緩慢にしただけで、やはり痛覚が存在しないのか効果は薄いように感じられた。
「ガゥッ、グォルファオゥ (ちッ、気味が悪い奴だ)」
悪態を吐きながら即座に幹へと刺さった戦斧を手放し、体格の良いコボルトはバックステップで飛び退って樹上から降り注ぐ蔦を躱す。
先程、突き刺した長剣を手放すのに逡巡し、蔦に足を取られて逆さ吊りにされた人間の雄を観察していたことが、下ではなく逆からの不意打ちでも功を奏したようだ。
一方、同時に飛び出した彼と同世代の手槍持ちのコボルトは近接戦を挑まず、中距離から大きく脚を踏み出して肩をしならせ、身体全体で円運動をしながら握り込んだジャベリンを全力投擲していた。
空を切り裂きながら直線を描いて飛ぶ手槍が勢いのままに幹へと突き刺さり、効果が無いように見えても付与された聖なる光を迸らせ、吸血妖樹の体内を循環する闇属性魔力の流れを阻む。
「ォオオウ ウゥウゥウ」
初めて痛覚を持たない樹の化け物の声に焦りが感じられたが…… 直後に投擲から体勢を整えたばかりのコボルトを狙い、前方の地面が弾けて鋭い木の根が飛び出す!
「グッ!? ウオァアアッ、グウゥッ
(なッ!? うおぁああッ、ぐうぅッ)」
咄嗟に半身で倒れ込みながら躱そうとした若いコボルトの脇腹を木の根が抉り取り、痛みを飲み込んで地に伏した彼の身体へと次々に蔦が絡み付いていく。
「アウゥ~ (あうぅ~)」
暫しの後、そこには不服な表情でふてくされ、不機嫌な様子で尻尾を振る捕まったコボルトが一匹。本来ならば窮地であり、そんな事をしている余裕は無いはずだが……
頼まれた囮としての役目は十分に果たしたので、後は任せたという感じなのだろう。
そして、彼らと同時に飛び出した本命の二匹はと言えば……
「クゥ、ヴォルアゥウッ (くぅ、鬱陶しいわねッ)」
迫りくる蔦や茨をランサーが柄先を握り込んだ斬撃槍で斬り払い、疾風の如く駆け抜けて右側から吸血妖樹へと迫り、その動きと連携したブレイザーが彼女に劣らない速度で左側から挟撃を仕掛けていく。
「ガゥル クァオルウ、グルァアァッ
(群れの安全のためだ、仕留めるぜッ)」
慎重派の彼がリスクと天秤に掛けてでも、吸血性の樹精を始末すると決断をした理由、それは周囲に転がるゴブリンたちの死骸だ。
奴らが犠牲となる状況で放置すれば、生活様式や生息範囲が重なる群れの仲間たちも被害に遭う危険性は高い。つまり、群れの縄張りから排除しておく必要性があるのだが……
それは犬人たちの都合に過ぎず、吸血妖樹も自らの養分とするために長身痩躯のコボルトを絡め捕ろうと夥しい蔦を飛ばす。
即応したブレイザーは眼前に広がる蔦へと左腕を掲げ、濃霧の中ならば火災の危険性は低いと判断しながら獄炎を纏わせた爪撃を放つ。
「ガォアッ (しゃあッ)」
短い呼気と共に振り抜いた火炎爪で纏めて蔦を焼き払った直後、さらに彼は右手の黒剣で地面へと半円を描くような斬撃を繰り出し、落ち葉に隠れて忍び寄った蔦を切断した。
「オオォ オオォウ……」
「ガゥッ、グルクァア ウォルアゥ!
(はッ、それはさっき見たからな!)」
先程、ヴィエル村の者たちを一網打尽にした足元からの奇襲を潰し、勢いづいて吸血妖樹へと肉薄していく彼の頭上にふと影が差す。
「ガゥッ (ちッ)」
その正体を確認するよりも本能的に回避を優先し、脚に掛かる負荷を耐えてサイドステップで大きく躱すと、振り下ろされた樹木の左掌が地面を叩きつけて激しい音が鳴り響く。
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