それを俺にくれ
「ワフッ、キュ~ンッ♪ (わふッ、幸せ~ッ♪)」
「ご馳走さまでした」
こうして食事が済んだ後は皆、まったりとした時間を過ごす。
一匹だけ、ひたすらに大剣を素振りする奴もいたが……
「グォウ、グルゥアゥオッ! (一撃、それを極めるッ!)」
まぁ、バスターが大剣を持ってからはいつものことだ。
その様子を眺めつつ、適当な枝を拾って地面に文字を書く。
「ん、どうしたの? アーチャー」
“魔法について聞きたい。魔力量を増やすには?”
コボルトの魔力量は少ないからな…… 鍛えてなんとかできるならそれに越したことはない。
「ん~とね、とにかく魔法を使って魔力を空にするんだよ。それを繰り返すと魔力保有量が少しずつ増えていくの」
なるほど、集落に帰ったら周りの迷惑お構いなしで、魔力を伴う咆哮を響かせてやろう!
「ねぇ、私も聞きたいのだけど…… 人外魔法ってどんな感じなの?」
人外魔法? あぁ、基本的に人と魔物が使う魔法は一部系統が違ったな。人魔が共通して扱う魔法を除き、魔物だけが用いる魔法は人外魔法と呼称されている。
“そうだな、理屈じゃなく本能的に使い方を理解している感じだ。もしかしたら、人外魔法に限らず、俺たちは決められた魔法しか使えないのかもな……”
「アーチャー、試してみる? 私は火と水の魔法を扱うから、その系統なら教えられるよ?」
“いや、俺の系統は風と土だ”
「そう、残念だよぅ。コボルトの魔法適性を確かめる良い機会だったのに……」
ミュリエルは本当にしょんぼりとした表情をした後、気を取り直して革鞄に手を伸ばす。
「ところで、ちょっと確認したいことがあるの」
そう言いながら彼女は密かに狙っていた地図を地面に広げた。
「グゥオァン、ガルォ グルゥアオ (ミュリエル、これを俺にくれ)」
「何、どうしたの?」
ミュリエルが広げた地図は冒険者用のかなり精細なものであり、俺たちの集落がある森と川などの地形、周囲の村や町、都市の位置関係が分かるようになっている。
これがあるのと無いのでは情報量が全然違う。
先程は思わず話し掛けてしまったが、再び地面に木の枝を走らしていく。
“それを俺にくれ”
「え、無理だよ。私がウォーレンに帰れなくなるよぅ」
ばっと、彼女は地図を大事そうに抱き込む。
ちッ、仕方がない。できる限り内容を頭に叩き込むとしよう。
「ルァウ、ワォオゥアン (すまん、話を続けよう)」
俺が落ち着いたのを見計らって、赤毛のミュリエルが再び地図を地面に広げた。
「いま、私たちはこの辺なんだけど…… 君たちはどこに向かっているの?」
「…………」
それは集落の位置を教えることに等しいため、一瞬だけ言葉を失って躊躇するが、この後も彼女は付いてくるだろう。見捨てて森で野垂れ死にされても気分が悪い。
俺は腹を決めて地図の一点を指差す。
「……ワォン (……ここだ)」
その瞬間、集落に彼女を招待することがほぼ決まった。
「あ、やっぱりヴィエル村の近くなんだね」
ああ、近いな…… そんなところに村があったなんて初めて知った。
一度、ブレイザーと偵察に行くか…… あいつは隠れるのが大好きだからな。
幼い頃のかくれんぼで上手に隠れた奴を見つけられず、諦めて他の遊びをやりだしたらブチ切れていたなと、少し昔を懐かしみながらも地面に文字を刻む。
“ミュリエルはそのヴィエル村に?”
銀色のコボルト、アーチャーが器用に木の枝で地面に文字を書いて私に聞いてくる。…… 何度見ても不思議だわ。
「えっと、私が拠点にしているのは都市ウォーレンだから、その手前のグラウ村に行きたかったの…… うぅ~、ヴィエル村にまで辿り着けば何とかなるかな?」
そもそも、私は “バルベラの森” の特異な生態に興味があって、ほど近い都市で冒険者の経験を積もうと考えていたけど、今はこの風変わりなコボルトがとっても気になる。
「ん~、活動拠点をヴィエル村に近いゼルグラの町に移してもいいのかも?」
良い考えかもしれない!
ヴィエル村は規模が小さいから冒険者ギルドが無いけど、ゼルグラの町ならギルド支部がある。そこを拠点にすれば彼らの集落も近いからね。
などと、私が図々しくも奇妙なコボルトたちと関わりを持ちたいと考えていると、大柄なバスターが大剣を収めてこちらに戻ってきた。
「グルァ、ヴァルウォ グォオオン? (大将、夜の見張りはどうする?)」
「ルォ、クゥアオ グアォオンッ (先ず、お前とダガーに頼む)」
「ウォンッ、グルァ ガルゥアァーン? (分かった、大将はそっちの赤毛と?)」
まぁ、 意思疎通の関係上、その組み合わせしかないよな。
「ワフ (あぁ)」
「二人とも何話してるの?」
矢鱈と興味津々な目で赤毛の魔導士が詰め寄ってくるので、また木の枝を地面に走らせる。
“いや、ただの見張りの順番だよ。最初にバスターとダガーで次が俺達だ”
「コボルトが交代制の見張りとか、普通に驚くところよね?」
彼女の呟きを聞き流しながら樹に背を預け、俺の様子をチラチラと窺う視線を無視し、ショートソードを抱き込んで浅く眠ろうとするが……
「…… えいッ」
ポフっとミュリエルが可愛らしい声と共に飛びついてきた。
「ん、モフモフしてる♪」
森の中は多少冷えるからな……
体調を崩されても困るし、構わないとしておこう。
そのまま見張りの交代の際、ダガーに起こされるまで俺たちは眠りにつくのだった。
読んでくださる皆様には本当に感謝です!!
拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります。