世界樹の傍にエルフあり!!
こういう物語の繋ぎの部分は特に難しい気がします。
太陽が中天に差し掛かり、木々の合間から穏やかな木漏れ日が差し込む太古の森の中を一匹の銀狼が力強く疾走していた。
(ッ、感覚が先鋭化されていく…… これが獣化か!)
現状、俺の体は体長180cmほど(尻尾除く)、体高105㎝ほどの大きな銀毛の狼犬と化しており、四つ足で本能のままに爪を喰い込ませながら大地を蹴れば、面白いように加速するが……
「グォッ!? ワファッ! (うぉッ!? 危なッ!)」
調子に乗っていたら進行方向の樹木にぶつかりそうになり、慌てながら横っ飛びして体を躱し、減速して足を止める。
(くッ、森の中じゃ速度が出せねぇ……)
全力を出して疾駆すればどの程度の速度が出るのだろうか? もしかすれば鍛え抜いた軍馬に匹敵する速度を出せるかもしれない。
想像して思わずウズウズしてしまうが……
「ワゥ? (ん?)」
鋭さを増した嗅覚が風に紛れる獲物の匂いを感じ取り、走ることの楽しさに溺れていた俺に昼食の確保という本来の目的を意識させる。
レネイドたちも糧食は多少の余裕を見込んで用意していたものの、ゴブリンどもの村から救出した黒曜のエルフの娘たちは想定外だったらしい。
不足分を現地調達する必要が生じたため、彼女たちを川辺に残して装備を預けた後、新たに身体へと宿った獣化能力の確認も兼ねて近場への狩りに出たわけである。
その事を思い出した俺は気配を可能な限り殺し、嗅覚を頼りに風下から抜き足差し足で獲物へと慎重に近づいていく…… コッソリと草葉の陰から様子を窺うとそこには大きめのアナグマが一匹いた。
なお、穴熊と呼ばれているがイタチ科の動物であり、その肉は思わず涎が垂れそうなほどに美味しい…… じゅるり。
(肉付きは良さそうだし、持ち運ぶにもちょうどいいか……)
と思ったところでハタと気付く。
(弓が無い…… くッ、弓兵失格じゃないか)
今あるのは麻紐を輪にしたものに括り付けて首に掛けてある革袋に入れた貴重品だけだ。暫し瞑目して己の内側を探り、今の状態で魔法が使えるか否かを確認するも……
(無理だな…… 鍛錬すれば可能かもしれないが)
一部身体の構造が変化しているため、体内を流れる魔力の掌握が難しいので止めておいたほうが良い。代わりに獣化形態でのみ使える能力を見つける事ができたのでそれを試そう。
俺は四肢に力を籠め、勢いよく獲物目掛けて飛び出す!
「ッ、クワヮッ!?」
「ヴォルオァアァアァア――――――ッ!!」
放たれた咆哮が音速の衝撃波となり、有無を言わさずにアナグマを弾き飛ばして木の根元へと打ち付ける。
「ァッ……ワヮゥッ……ックゥ……………」
身体を痙攣させながらも力なく足掻き続けるアナグマに近寄り、喉元に牙を突き立てて絶命させ、少し裂いて血抜きを行う。
(ッ、途中で水浴びして口元の血を洗い流さないとな……)
自身の状態を少々顧みた後、頂いた生命に対する感謝を捧げてから獲物をカプっと咥え、レネイドたちのもとへと来た道を引き返した。
……………
………
…
「は~、アナグマの肉って結構いけるんですね」
「ガゥ、クルゥア ガゥオ ワォオ ガルァアァオォウ
『まぁ、猫人族や人族も普通に食べているくらいだからな』」
焼いて塩で味付けした穴熊肉を頬張るレネイドを眺めつつ、猫耳優男のウォレスがリズの好物だと言っていたことを思い出す。なんでも煮込み料理に合うらしい…… 今度、ルクア村と取引をする際に土産に持っていくのもありかもしれない。
「…… 美味しいかも」
「確かに……」
エルフ語は分からんが、他の連中も問題はなさそうだ。そもそも、肉を焼くだけなので素材さえ良ければ旨いのだがな…… 俺も枝を加工した木串に刺さった肉を噛み切って嚥下し、レネイドたちが持っていた木の実を摘まむ。
「弓兵殿、今日の夜にはエルファストに辿りつきますけど…… 勝手に世界樹を登っちゃダメですよ? リスティが怒ってました」
「クルウァ? グァ、ヴァルガゥ……
『リスティ? あぁ、世界樹の巫女か……』」
アリスティアならまだしも、何故に俺と縁が薄い世界樹の巫女の名前が出てくるのか頭に疑問符を浮かべていると聞き捨てならない言葉が耳に入る。
「私含めこれから暫くは一緒に暮らすわけですから、第一印象は大事です」
「………… ワフ? 『………… はい?』」
「世界樹のあるところ、即ちエルフありです!!」
何でも、ハイエルフの血を濃く受け継ぐ者が発芽させた世界樹の成長を見守るのは古来エルフたちの神聖なる務めで…… 余程の事情が無い限り、少なくとも安定期までは責任を持って管理するらしい。
そして、派遣が現状で確定しているのは世界樹の巫女リスティと護衛のレネイドということだ。
「あ、残りもコボ語ができる者たちが選抜されますので安心してください!」
白磁のエルフらしく陽光を受けて輝くブロンドのショートヘアから覗く笹穂耳をピコピコさせて、レネイドはぐっと両手を握り込みながら身を乗り出してくるが……
アリスティアが奴隷商に囚われた経緯からも分かるように、人族にとってエルフ族の希少性は高く、余計なトラブルになる恐れもある。
(俺たちの縄張りは聖域指定を受けているから人目を避けることはできるが……)
ヴィエル村の狩人は例外的に聖域の森に入っても構わない事になっている。俺たちと村の関係性は悪くないが、注意するに越したことはない。
エルフたちの受け入れ自体を断るのもありだが…… 彼らにとって古からの神聖な行為というのであれば勝手にやってくる可能性も否定できない、宗教的なモノはややこしいのだ。
(一度、アリスティアに確認する必要があるか……)
降って湧いたような話に思考を割いているうちに昼食の時間は過ぎ、再び俺たちは午後の日差しの中を歩き出すのだった。
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