兵どもが夢の跡
戦闘の事後描写も無いと不自然なので……
「ワフィ、ガゥアオ ウォルオァアァアン~、ガルアゥ!
(なんで、目が覚めたらこんなに忙しいんだよ~、頭痛いし!)」
先程の戦闘で紫電を脳に喰らって倒れたシロは外傷的には大したことなく、治療優先度が低いために放置され、つい先ほど自然に覚醒したが……
いつの間にか制圧したゴブリン村の南入り口付近まで運ばれており、周囲には負傷した同族たちが溢れ、犬族である白フワコボルトらが忙しなく駆け回っていた。
ある意味、“戦闘終了直後こそが彼らの主戦場” であり、シロも起きた直後から犬族たちに引っ張られて治療活動に参加している。
なお、投げナイフが軽く刺さった額の傷は仲間たちが判断したように軽傷なので、適当に手当を済まし、犬族の白フワコボルトらが扱う聖属性魔法では対処できない重傷者の治癒に当たっていた。
重傷者の中には暫くの間、継続的な治癒が必要で日常生活に支障をきたす者もいるが、群れのために戦い負傷した戦士は手厚く扱われるので、何とかなる範疇だろう。
どうにもならないのは落命してしまったコボルト族の戦士たちだ。
「ウォガゥル クォルァアォオン…… ガルゥ クアゥワオォアン
(どの群れも似たような感じだけど…… 数匹の犠牲が出ているわ)」
「ワォン、ヴォルファウ クルゥオ……
(そうか、勇敢な戦士たちに感謝を……)」
俺は暫し黙祷し、家族や群れの未来のために命を燃やした戦士たちに祈りを捧げる。現在、彼らの亡骸は仲間たちの手で樹木の根元へ丁重に埋葬されている最中だ……
厳しい自然の中では生きる事そのものが闘争であり、争いを避けるだけではやがて生活の場を失って飢え死ぬため、結局はどこかで戦わねばならない。
それは森の中で打ち捨てられたままのゴブリンたちも同様であり、彼らも “生きることに真面目” であったと言える。他のヒューマノイド種族の雌を攫って襲わないと繁殖できないという特性上、色々と目の敵にされるのはやむを得ないが……
(難儀なことだな…… 奴らの雄単性が進化過程で得た異種交配能力の対価だとしても)
かつて傭兵団長殿が言っていた “誰もが自分たちのために戦っているだけで善悪など無いのかもな” という口癖を思い出し、心の片隅で少しだけ事切れた小鬼達の冥福も祈っておく。
「ワフィオゥア ガルアァウゥ、ガゥオン……
(何か物思いに耽っているところ、悪いのだけど……)」
シルヴァの呼び掛けに応じて視線の先を追うと、座敷牢から解放された黒曜のエルフの娘が三人、冒険者の娘一人が汚れた身体を清めに行った川辺から戻ってきていた。
本当はもう一人、冒険者の若い娘がいたらしいが…… 彼女は一度逃げ出そうとしてゴブリンたちに脚の腱を切られた後、手酷く扱われて自害したそうだ。
(相変わらず、戦いの後は酔いが醒めれば憂鬱だな……)
それは傭兵の頃から変わらない。だからこそ後始末を全て終えたら仲間内で馬鹿騒ぎして、先に死んじまった奴の思い出話に花を咲かせていく…… まぁ、今は生き残った彼女たちのことを考えよう。
腰元の革袋から久しぶりに純ミスリル製の仮面を取り出し、顔に押し当てるといつもの如く形を変えて自然な感じで吸着した。
「ブッ、ワフィオァアァン (ぶッ、なんじゃそりゃあ)」
「…… グォルファオゥ (…… 似合わないわよ)」
(似合っても困るだろうがッ)
目ざとく仮面を付けた俺を見つけて笑うブラウと、微妙な表情のシルヴァに内心でつっこみを入れつつ、コボルトたちに囲まれて疲れ切った表情の黒曜のエルフ娘たちと向き合う。
「クァルクァ ガルォウァン、ヴォルァアゥオオォ
『エルフ語は理解できないので、一方的に言わせてもらう』」
突如、心に響く念話に周囲の同族含め、一斉に視線が集まって何故か居たたまれない気持ちになりながらも、破れた衣服の隙間から健康的な小麦色の肌を覗かせるエルフ娘たちに言い放つ。
「ウルファウオァウ ヴォルアァアァン
『エルファストになら連れていってやる』」
「ッ、お願いします」
「うぅ、た、助かるの?」
ばっと俯いた顔を上げて徐々に喜びを滲ませていく彼女たちと対照的に、慌てながら取り残された冒険者の娘が声を上げ、涙目で縋り付くように迫ってくる。
「あ、あの! わ、私はどうすればッ」
冷静に考えれば、コボ語が話せないとしても種族的な交流があるエルフたちはともかく、人族の彼女からすればゴブリンもコボルトも大差の無い魔物だからな……
「ガルゥ…… アルヴァ、ガオァルゥ ウォルン?
『ふむ…… シルヴァ、人間の村まで送れるか?』」
「ウ~、ワォアァン…… ウォアルオ ガルア ガォオルファ
(ん~、できるけど…… そこまでする意味が分からないわ)」
不思議そうな表情の彼女を見て、自身の思考が人寄りであることを自覚するが…… このまま森に放り出して死なれたら寝覚めが悪い。どうしたものかと考えていると背後からハスタの声が掛かる。
「ワフルォウ グォルファオン、アルヴァ…… グルォ ガゥオアァン
(理由なんてどうでもいいだろう、シルヴァ…… 俺たちが引き受けよう)」
「クウォルァ ヴァアルゥアォオオァン
(若い賢者殿には世話になりましたからね)」
何気にハスタを含む白黒コボルトたちの義理堅い性格は有難いな…… 俺と同じく結構な負傷をしていたから、治癒魔法で傷は塞がっても血を流し過ぎて貧血気味のはずなのに。
彼らと人族の冒険者の扱いを少々詰めて、ゴブリンたちの村に囚われていた者らの件は何とか良心の痛まない方向で解決した。なお、黒曜のエルフたちを連れていけば、王都エルファスト周辺の迷いの結界も一緒に通過できるという素晴らしさ!
なんて事を思っていた数時間後、アリスティアが遣わしてくれたレネイドを含む捜索隊が大勢のコボルトたちの足跡を辿ってきた。
そこで多少の騒動もありつつ、そのまま村で一泊した俺は肩を並べて戦った同族たちに別れを告げ、迎えのエルフたちと共に王都への帰路に着く。
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