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小鬼達の顛末

今回は撤退するG達の物語です!!

森の中に荒い息遣いが響き、葉擦れの音を鳴らしながら数匹のゴブリンたちが一心不乱に駆け抜けていく。急いでいるが故に音鳴りの対策などする余地もない中で、薄茶色のコボルトたちは特徴的な三角耳をピンと立てて、聴覚を頼りに追い縋る。


「ウ、ウァオォン (ん、あっちだな)」

「ガゥ、ヴォルァッ!! (よし、征くぞッ!!)」


猟犬たちの吠え声が近づいてくるのを察して、負傷した友を担いだ大剣持ちのゴブリンと共に逃げていた古参の配下達が覚悟を決めた。


「………… ギギゥギァ、ラドレゥス

(………… ブレイブ様、御達者で)」


「クロノ イルレァス (時間を稼いできますわ)」


数匹のゴブリン・ファイターが言葉と同時に足を止めて反転し、腰元の鞘からロングソードを引き抜いて構え、迫りくる猟犬たちを睨む。


「ッ、ギァウォ…… ノイギラドレスッ

(ッ、お前ら…… 斃るんじゃねぇぞッ)」


振り返らずに背中で応える同胞たちを一瞥し、瀕死のソードを担ぎながら継続した治癒魔法を絶やさずにブレイブは木々の合間へと消えていった。


暫しの後、コボルト族の拳闘士たちがナックルガードで包まれた拳を振り上げ、咆哮と共に待ち構える小鬼族の戦士たちへと吶喊していく。


「「「ガルォアアァア―――ッ!!」」」


「ガゥガゥルギレスディッ、ガルギア!!

(ガゥガゥうるせぇんだよッ、犬ども!!)」


「ギ、ゼゥギズォ ルティア (あ、それ俺も思ってたわ)」


軽口を交わしながらゴブリン・ファイターたちが斬撃で迎え撃ち、小規模ながらも戦いが始まって金属を打ち合う音が森の中に響いた……


小鬼族の戦士たちにとって幸いだったのは銀毛の狼犬が “無理はするな” と言付けていたのと、勝ち戦に浮かれていた薄茶色のコボルトらが決死のゴブリンたちに気勢で負けたことだ。


もし、この追撃班に立て耳コボルトたちを率いる族長ブラウがいたなら違っただろうが、結果的に彼らはかろうじて生き延びることになる。


一方、仲間たちが足止めをしてくれたお陰で、安全圏まで落ち延びる事ができたブレイブたちではあるが…… 漏れ落ちていく命を留める事はできない。


「グゼアド…… ディスラッ、カハッ!?

(もういい…… 捨て於いてッ、かはッ!?)」


小鬼族の双剣使いが言葉の途中で吐血し、べちゃりと地面に赤黒い染みをつくる。


最早、継続発動させている治癒魔法ヒーリングライトの効果が途切れれば直ぐに絶命するだろう。それもあって先程も追手に対して戦うという選択が取れなかったのだが…… ブレイブの魔力残量も限界を迎えていた。


(ぐッ、諦めろということかッ!!)


脆弱な魔物に生まれて、戦いの中で多くの仲間を失ってきたが故、冷静な部分では既に友を救う手立てが無いことは理解している。だが、納得できるか否かは別の問題であり、小鬼族の勇者は()()()()()()仲間の死に納得したことなどない。


「ギゥウァアアア―――ッ!! (くそがぁあああ―――ッ!!)」


憤りの籠った絶叫が結果的に彼らの運命の方向性を少々ややこしくする。


叫びが森にこだました暫しの後、森の奥から何処にでもありそうな村娘の服装をした、しかし、場違いな黒髪灼眼の若い女性が忽然と現れる。


「ふむ、何やら煩いと思えば鬼人ですか、珍しい」


「ッ、ギオスッ!? (ッ、人間だとッ!?)」

「ん? 人語を話す知能も無いと……」


彼女は可愛らしく小首を傾げながら無遠慮に二匹の小鬼を観察すると溜息を吐いた。せっかくの同胞かと思えば、姿形が似ているだけで此処ら一帯に生息する餓鬼(ゴブリン)の類でしかなかったという事実に落胆してしまう。


(まぁ、鬼人は大和(やまと)にしかおりませんが…… 遠縁の眷属と言えなくも?)


一瞬だけ、かつての滅びた故郷を思い出しながら改めて二匹の鬼人モドキを見遣り、大柄な鬼人モドキが瀕死のもう一匹に治癒魔法を施していることに気付く。


「あははッ、いいです!そういうのは嫌いじゃないッ!!」


目前の鬼人モドキが今までどのような生き方をしてきたかは別として、仲間を想うその一点で彼女は二匹の眷族に救うべき価値を見出した。


「ふふっ、私は拾える命ならば全て救いたいって思う欲張りなんです」


突如として笑い出す異様な人間にブレイブは警戒を強めるが、彼女は飄々とした態度で話し掛ける。


「ソレル、ギゥレクト! ガルギィド ギル ディスレイディア

(その命、助けてあげましょう! 対価に私の暇を潰してもらいますけど)」


「ッ、ギゥラド…… (ッ、何者だ……)」


人の姿で鬼族の言葉を用いる相手に更なる注意を払いながらブレイブが糺すと、彼女の前髪を押し上げて二本の角が伸び、下半身が大きな蜘蛛と化していく。



名称:楓 (♀)

種族:鬼人族

階級:鬼蜘蛛

技能:魂喰い(喰らった魂の数だけ強くなる)

   鎮魂(アンデッド消滅)

   反魂(アンデッド生成※自主規制中)

   縛魂 鬼火 上級魔法(土) 魂魄治癒

   不殺の誓い(()()()殺生の否定) 角隠し(人化) 

称号:七つの災禍(百万の魂を喰らいしモノ)

武器:蜘蛛の糸 蒼月(短刀)

武装:村娘の衣装



あまりに圧倒的な魂の質量に押しつぶされるような恐怖を感じたブレイブが我に返る間もなく、彼女の掌から溢れ出した蜘蛛糸がソードを絡め捕り、裂傷をふわりと覆い隠して繋ぎ止めながら手繰り寄せていく。


「よいしょっと……」


それをさも軽そうに取りまわして自身の蜘蛛の背中にべちゃっと固定すると、唖然とする銀髪に浅黒い肌の鬼人モドキへと視線を向けた。


「ニル デストラゥゼ、キュレウ クロノデスタル…… ガレウスァ

(魂魄が死にかけているので、回復に時間が掛かります…… きなさい)」


「ギッ、ゼルクレイアス……

(ちッ、行くしかないのか……)」


片手で頭を掻いた後、小鬼族の勇者は去りゆく蜘蛛女の後を渋々追いかける。こうして変異種の二匹はゴブリンとしての生き方を踏み外していくのだった……

”皆様に楽しく読んでもらえる物語” を目指して日々精進です!

ブクマや評価などで応援してくれれば、本当に嬉しく思います!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] やっと倒したはずの敵が何度も息を吹き返すエンドレスな展開はちょっと辛いです…。 [一言] 面白い可愛いです。特に妹キツネ、かわゆす。
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