雷撃の双剣士
白黒混毛のコボルト槍兵たちがゴブリンの猟騎兵どもと死闘を繰り広げていた頃、弓兵らと別れた遊撃隊の魔術師たちも若きエルダー・コボルトに先導されて左翼へと駆けつけていた。
彼らは気配を隠して少し離れた木陰から戦場の状況を窺う。
(ッ、不味いな…… シロの奴、押されてやがる!)
元々、白フワコボルトたちが争いに向かない事を考えれば健闘しているが…… 相手が悪い。
(それに、強くなっている……)
俺の視線の先では、いつか見た姿よりも人間に近くなり、灰白色の長髪から二本の角を覗かせた小鬼族の双剣使いが猛威を振るっていた。
「ギィ、グゼァ ゼトラスッ! ガルン!!
(はッ、狙いが甘いんだよッ! 犬っころ!!)」
腹部を目掛けて突き出された鉄槍に対して、双剣使いのゴブリンは左足を斜め後方に退いて半身で躱し、さらに右足を前方に摺らせて剣戟の間合いまで距離を詰める。
「ワフィッ!? (何ぃッ!?)」
咄嗟に飛び退る白黒コボルトを出し抜いて、小鬼族の双剣使いは凶刃を閃かせて喉元を裂く。
「カハッ、ウ、ゥウァ……ッ」
「ウォルガオォッ! ガルァウ クルォオオン!!
(死なせないよッ! 大地の癒しをここにッ!!)」
即座にシロが治癒魔法を展開して傷を塞ぎ、血飛沫を飛ばしながらも後退してきた仲間の命を繋ぐ。
同時に彼らを庇うように白黒混毛のコボルトたちが立ちふさがるものの、旗色は悪くなる一方であり、勢いづくゴブリンどもに皆が押し込まれている。
「ウ、ウワァアン~、アルヴァルォ……
(た、大変だよぅ~、シルヴァたちは……)」
救援を求めるように中央で戦うシルヴァの群れを窺うが、時折眩い閃光が奔って同族たちの悲鳴が聞こえてくるあたり、向こうにも脅威度の高い個体がいて苦戦しているのだろう。
その現状を僅かな時間で判断するシロであるが、思考に意識を割いた一瞬の隙を狙われる。
「ゼレドレゥ ヴェゼアスッ、リガルッ!!
(さっきからうぜぇんだよッ、白犬ッ!!)」
切り倒しても直ぐに治療されてしまう面倒さに苛立ちながら、原因であるシロを狙って双剣使いのゴブリンが紫電を纏わせたスローイングナイフを投擲する。
煌めく刃が立ち塞がる白黒コボルトの合間を掻い潜って、シロの眉間に吸い込まれていく。
「ギャン!? (痛ッ!?)」
なお、投げナイフ自体は補助武器であるため、殺傷能力は低くて頭蓋骨を滅多なことでは貫通できない。故にシロも無事ではあったのだが…… 軽く刺さった直後に雷撃が彼を襲う。
「ッ…………キュウ~ (ッ…………きゅう~)」
一瞬で意識を飛ばされたシロが情けない鳴き声を上げて仰向けに倒れていった。
下手をすれば紫電に脳を焼かれて死ぬところであるが、上位種のコボルト・プリーストである彼は魔力耐性が高いために気絶で済んだようだ……
「ギゥ、ギァウォ、ギゥレドラッ!!
(よし、お前らッ、畳み掛けるぜ!!)」
「「「ウォオオオォッ!!」」」
気勢を上げてゴブリンたちが襲い掛かり、倒れたシロに動揺を隠せない白黒コボルトたちが迎撃のために槍を構えた瞬間、森の中に雄叫びが鳴り響く!
「ヴォルファッ、ガルウォアオォァンッ!
(唸れ征嵐ッ、有象無象を吹き飛ばせッ!)」
風属性の魔力を帯びた渦巻く旋風を両腕に纏わせ、両掌を突き出した俺は吹き荒れる嵐撃を放ち、無数の風刃でゴブリンどもを切り刻む。
「グハァッ、ウァアァッ!」
「ギャァアァアッ、ァアッ……」
「グゥゥウッ!?」
嵐に巻き込まれた数匹のゴブリンが血煙を撒き散らして吹き飛ばされ、その奥で双剣を交差させて暴風を凌ぐ小鬼族の双剣使いと視線が交差した。
「ゼノギルガッ、ジクス!! (また貴様かッ、銀色ッ!!)」
何やら叫ぶ長身痩躯のゴブリンを標的と定め、俺は両脚に旋風を纏わせて吶喊する。
「レドス、ギゥルァ!! (待てや、こらぁッ!!)」
「ゼルギアスッ!! (迎え撃つッ!!)」
素早く反応したゴブリン・ファイターたちが征嵐の魔法で生じた空間に割り込もうとするが、その機先を制して、木々の合間に隠れていたコボルト族の魔術師たちによる援護射撃が飛ぶ。
「ヴァルクォアゥッ!(穿て魔弾ッ!)」
「「ウォファアンッ!! (風の刃よッ!!)」」
「ギッ、グァアァッ! (なッ、ぐぁあぁッ!)」
「ギャオォッ!! (ちいぃッ!!)」
死角から襲い掛かるノーアの連続魔弾を躱しきれず、右肩と脇腹に致命傷を負ったゴブリンの一匹が後によろけて倒れていく一方、名も無きコボルト・メイジたちの放った風刃は諸共にロングソードで斬り捨てられてしまった。
だが、足止めをするという目的は達しており、その隙に俺は長身痩躯の双剣使いへと肉薄して、魔力を攪乱する魔犬の咆哮と共に速度を乗せた斬撃を放つ。
「ウォオオオォアァアア―――――――ンッ!!」
「グッ、ギレゥド (ぐッ、見切った!)」
鞘走らせながら抜き放った渾身の袈裟切りに合わせて、奴は振り上げた双剣を曲刀に叩きつけて受け止め、瞬間的に刀身へと雷属性の魔力を纏わせていく。
「ギゥッ、ギウスッ!? (もらッ、何ッ!?)」
しかし、ハウリングノイズの影響で体内を巡る魔力が乱れ、小鬼族の双剣使いを耐えがたい不快感が襲う。
「グウゥッ (ぐうぅッ)」
「ガゥオオゥ…… (対策済みだ……)」
シロたちには悪いが、機を待っている間に観察させてもらったため、紫電を纏った双剣の厄介さは理解している。故に先んじて対策を取らせてもらった。
一応、念のために曲刀を持つ右手に魔力を収束させ、仮に雷撃が発生した際の被害低減も画策していたが、杞憂に終わったようだ……
ただ、これで対等に打ち鳴らし合うことができるだけで相手の殺意は微塵も衰えておらず、鍔迫り合う俺たちを取り巻くように周囲でも両種族が刃を交えていく。
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