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3匹、旅先でカモシカを狩る

それはともかくとして、この三匹の目的地を確認しないとッ!

今後の予定を立てるためにも他の二匹を従えるアーチャーに近付いて声を掛ける。


「あ、あのッ! アーチャ、モゴッ!? (に、肉球がッ!?)」


俺は小走りに寄ってきた赤毛の魔導士ミュリエルの口を右手で塞ぐ。

そろそろ、日が暮れるというこのタイミングで晩御飯が現れたからだ。


コボルト・ダガー(妹)に視線と左手で合図を出す。


アソコ・エモノ・イルゾ!

ウン・ニイチャン・ワカッテルヨ


バスターからも手振りによる合図が来た。


タイショウ・オレガ・マワリコムゼ


腕黒巨躯のコボルトはそのまま姿勢を低くして葉擦れの音を最小限に抑えながら、草をむしゃむしゃと貪るカモシカのやや斜め後ろ側に大回りに移動する。


そして、ダガーが二本の短剣を流れるように抜き放ち、姿勢を低くして距離を空けた状態で獲物のやや斜め前に位置取った。


丁度、バスターとダガーで挟み込む形だ。

その位置から二人は接近できる限界まで身を伏せてカモシカへと近づく。


なお、俺は状況を理解して静かになったミュリエルをその場に置き、獲物の側面に移動して片膝を突きながら弓に矢を番えた。一応、俺の矢が本命でダガーとバスターは保険だ。


「ウォフ、ガルヴァ (風よ、導け)」


思い付きで矢に魔法の風を纏わせ、威力を向上させて放つ。


「ギィッ!?」


風魔法で加速した矢は狙い過たずにその腹に刺さって、カモシカを撃ち倒す。


「ワァウ、ワァウ、ガゥワァウ! (ごはん、ごはん、晩御飯!)」


例によって妹が獲物に止めを刺して、死後硬直が起こる前にその場で血抜きを行う。


「グルァ、ウォルアゥ グルゥオファウゥオ

(大将、ここのところ俺の出る幕がねぇぜ)」


ふっ、いつもショートソードを振り回すだけのコボルトじゃないのだよ。


基本、近接戦が多いから初撃以外は振り回すんだけどな…… 矢を番えて、狙いを付けてなどの予備動作が多いんだよ、弓矢は。


「す、凄いよぅ、初めてコボルトの狩りをこの目で見たよ! ううん、こんな経験をしたのは生物学者(見習い)として私が最初かも?」


何故か赤毛のミュリエルは興奮しているが、ダガーの血抜きが終わったようなのでバスターにカモシカを運んでもらって場所を変える。血の匂いに引き寄せられる生物や魔物は脅威度の高い種族が大半だ。


落ち着ける場所を見つけて腰を下ろすと、手早くダガーが短剣を用いてカモシカを捌く。


たまたま、短剣を扱うために仲間内で獲物を捌くときはダガーが担当になっており、経験を積んだ妹の手際は中々のものである。


それを眺めているミュリエルは、ここの部位がどうやらと指示をだしている。そういえば、普通の女性はこういうのは苦手だが、冒険者はあまり気にしない者も多かったな。


「それにしてもダガーは捌くのが上手いね。あ、因みにカモシカはシカじゃなくて、実は牛の仲間なんだよ」


「ワフィアァオン? ガルワゥアン

(何か言ってるの? これは肉だよ)」


などと言う彼女達の会話?が聞こえてくる。

部分的には妹にも聞き取れているようだが、意味は分かってないんだろうなぁ……


ともあれ夕餉の時間となり、ここに移動する道すがら見つけて確保した水分を多く含む果実を齧った後、

ミュリエルにも同種のものを渡した。


「あ、クレミア梨だね、ありがとう」


彼女は梨をナイフで切り分けて、一口サイズにして小動物のようにちょっとずつ口に運んでいる。


そして今晩のメインディッシュ、カモシカの肉である。

広義で考えれば立派な牛肉だ。


「…… ごめん、無理」


血の滴るほど野性味あふれているからな……

しかし、俺たちだけ食べるのも気が引ける。


「ウォアオォン (アレを使うか)」


俺は近場にある石を使って適度な穴を掘り、其処に腰の道具袋から蔦で縛ってある複数本の小枝を取り出して入れる。


さらに事前に作っておいた木片のチップ、乾かした草を細かく裂いて纏めた火種を取り出して穴の中に放り込む。周囲にある燃えそうな草木もついでに投入した後、冒険者から入手した火打石を手に持った。


カチッ、カチッ


「クッ、グルォウファ ウォルオ ワゥオアッ

(くッ、火打石以外は有り合わせだからなッ)」


なかなか、火が付きやがらねぇ……


「クォン、ワフィアン? (兄ちゃん、何してるの?)」


「グルァ ガルゥオ ウォルアゥフ… (大将のやることは分からねぇな…)」


ぐぅ、バスターとダガーの視線が痛い。


数分ほど悪戦苦闘して頑張ったが火は着かず、少し考えるために作業を一時中断した瞬間、横合いからミュリエルが手を翳す!


「えぃッ、ファイア」


なん、だとッ!?


俺が手を引っ込めた隙に赤毛の()()()ミュリエルが最も基本となる火属性魔法 “ファイア” で火種と木片チップ、小枝などに炎を灯した。


「ガルアァウ ヴォル グルアォウ!!

(できるんならもっと早く言えよ!!)」


「きゃうッ」


火打石で火は着かなかったが、俺の心には火が着いたようだ…… くッ、火属性魔法さえ使えればッ!


「クァーン…… (奇麗……)」


はッ!?


「オフ、オファウォフッ (待て、待つんだ妹よッ)」

「キュウッ!? (熱ッ!?)」


一足遅く、火に向かって手を伸ばしたダガーが軽く火傷をする。


「グルァ、ガォン? (大将、これは?)」

「ウォアンッ (火だ)」


ダガーの火傷をバスターに見せて危険性を伝え、カモシカの肉を焼いて食べさせることでその活用法を示す。因みにコボルトの味覚でも焼いた肉はそれなりに旨い。


「グルァ、グァウガルオゥ クルァアッ

(大将、偶にはこんなのも良いなッ)」


「ン、クルァウゥ (ん、美味しい)」


というのが二匹の感想で、ミュリエルもまんざらではないようだ。


「結構おいしいね。カモシカが牛の類だからかな?」


…… 色々とあったが、やっとミュリエルを含む全員で夕食を取ることができた。

読んでくださる皆様には本当に感謝です!!

拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります。

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― 新着の感想 ―
火の便利さと脅威を知らない文明レベルか… 雷で森林火災起きたら逃げ後れそうだな
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