表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
125/274

機動性を活かすなら散開戦術!

さて、主な遊撃隊の役割は ”戦線の外側からの強襲” だ。機動力を活かしてフィールドを駆け巡り、”局所的に優勢な状況を生じさせて各個撃破” を繰り返していく。


そのためには、体力を温存しながらも効率的に敵を仕留めることが求められる。その観点から、遊撃隊は武器効率の良い弓兵で構成し、狙撃を中心とした戦闘を行うつもりだ。


ただし、弓兵はシルヴァの群れに属する5匹しかいない。


恐らくはエルダー種である賢者ガーヴィが群れに弓矢をもたらしたのだろうが、そんなに器用ではないコボルト族が扱うには難しい現実があり、俺を含めても弓兵は6匹だ。


遊撃隊を組むには少々数が足りない。


「アルヴァ、ガルフ ウォアル?

(シルヴァ、魔術師はいるか?)」


「クゥルッ、クーアッ

(クセルッ、ノーアッ)」


彼女の呼び声に応じて、フード付きの外套を羽織って魔術師のグローブを両手に嵌めた雄と雌がこちらへと進み出た。二匹とも群れに於いて名乗りを認められている以上、相応の実力を持っていると考えてもよい。


「クゥル、ガルワォン ウォルォ

(クセルだ、よろしく頼む賢者殿)」


「クーアルォ、ガルォファアアン

(ノーラです、よろしくお願いしますね)」


ペコリと頭を下げる二匹に俺も挨拶を返しながら手短に確認する。


「ヴァルガゥア?(扱える属性は?)」


「グルゥ ガルグォ アルオゥ…… (俺は土属性と火属性だな……)」

「ン、クルァ ヴァルグォウァ (ん、私は無属性だけです)」


ノーラは答えながらも、掌に小さな淡い燐光を放つ魔弾を3つほど浮かべる。無属性は魔力をそのまま攻防に転じる系統で、魔力操作に長けた者だけが扱える玄人向けの属性だ。


「ッアゥ (っと)」


生じさせた3つの魔弾をくるりと掌の上で旋回させた後、握り込んで再び魔力を体内に取り込む。


器用な奴だな……


「アゥ、クゥオ ガルフォア ウォルアゥ……

(後、二匹ほど魔法を使える者が必要なんだが……)」


シロとハスタ、又はブラウの群れから選ぶという手もあるが…… 弓兵たちとの連携を考えれば、同じシルヴァの群れから遊撃隊を選出したい。


「ウゥ~、ウルガゥル クォルァ オゥファルォ

(う~ん、うちの群れだとあの子たちくらいかしら)」


そう言いながら手招きをするシルヴァに呼び寄せられたのは、若い雄のコボルトが二匹。おずおずと野営地の中央までやってきて頭を下げる。


「ガルォファアアン! (よろしくお願いします!)」

「ウォアウッ!!(同じくですッ!!)」


彼らは共に風属性を扱えるとのことで念のために魔力を瞳に宿して確認したところ、魔力量も何とか実戦に耐えうる水準を有していた。


「…… グルゥ、ガルァアゥ オルファ、 ルーファウ クゥアルァウ

(…… 俺さ、手柄を立てて名を貰ったら、幼馴染の娘と番になるんだ)」


などとやや心配になる会話が聞こえてきたが……


コボルト族の魔術師たちに加えて弓兵たちにも進み出てもらい、戦力的なバランスを配慮しつつ半々に分けて、自身を含んだ二つの遊撃班が構成できた。


ただ、敵方のGたちも愚かという訳でもないし、猟騎兵もいるために同じような局所的優勢を作り出す戦術を用いるはず…… 現にゴブリン達がハスタの集落を襲った際、皆を逃がすために殿となった族長たちは猟騎兵の側面突撃で均衡を崩され、討ち取られたそうだ。


「ヴルァ、グゥルガル フォルアゥ?

(ハスタ、相手の猟騎兵を押さえられるか?)」


「…… グルゥア

(…… 任せてくれ)」


静かに闘志を滾らせながら白黒混毛のコボルトたちが頷く。


そもそも仲間の仇である猟騎兵を討ち取るために全員が鉄槍の装備を揃えてきたのだろうし、ここは素直にハスタ率いる精悍な白黒コボルトたちに対処を任せておく。


ただ、遮蔽物の多い森では小集団同士の混戦を想定する必要がある。白黒コボルト4匹につきヒーラーである白フワコボルトを1匹加えたものを最小単位として五つの班に分け、それをハスタ班が統括する形に再編した。


「グォル~、グルァウ ヴァアルォオオン…… キュアン

(つまり~、僕たちはバラバラになるんだね…… くすん)」


「ガゥ、グルォ ウオァルォ クオルァウゥ……

(いや、お前らは固まっても仕方ないだろう……)」


聞けば、白フワコボルトの全員が聖属性の治癒魔法や防御魔法を使えるものの、逆に初級の攻撃魔法すら行使できるのは僅かで、どう考えても集団運用に向かない犬種だ。


ヒーラー集団とか、最前線でどう運用しろと……


「 ガルゥ、ガルァ ヴォルファオアァン?

(ふむ、儂らも班分けをした方が良いのか?)」


「グゥ、ガウルグァウ グルゥガゥウ グルァアゥ

(あぁ、そのうえでブラウが自身の犬族を率いてくれ)」


群れ単位の指揮は元からの纏め役に任せた方が余計な混乱を引き起こさない。これは遊撃隊を引き抜いた後のシルヴァの群れも同じで、同様に班分けを行わせて取り纏めは彼女に任せる。


暫しの後、三角立て耳のコボルトたちは白フワコボルトを加えた5~6匹構成の班を七つ、シルヴァの群れのコボルトたちも同様に五つの班を構成し、それぞれをブラウ班とシルヴァ班が統括する。


まぁ、シロの犬族は他の連中と頻繁に交流しているようだし、他は各群れのコボルトたちで組んでいるので、即興の班分けではあるけれど連携は取れるだろう。


彼らには森での混戦の際にも班は崩さない事、互いに護り合うなどを徹底して伝えておく。それと他班との連携や位置関係を意識して突出しない事なども注意し、さらにシルヴァとハスタ、ブラウには機動力を活かした散開戦術の基礎を理解してもらった。


「グァ、ヴォルァッ!! (では、征くぞッ!!)」


「「「ウォオオオォオオンッ!!」」」

「「「アオォオオオ――ンッ!!」」」


出立の掛け声の下、各班が少々の距離を空けて三列を組み、いつでも散集と半包囲が可能な陣形を維持したままゴブリンどもの村へと進行を開始する。


なお、途中で本隊の指揮をシルヴァへ渡して少し休憩を入れるように頼んだ後、その間に俺は遊撃隊を率いて迂回路を取りながら、目的地に向けて先行するのだった……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ