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耳に痛い事を聞いてしまった……

「…… ガゥォ、ウォル ヴァルクォン ガゥア

(…… 凄い、あれで魔法も使えるって反則よね)」


木々の合間から零れる月明かりを受けて銀毛を淡く輝かせながら、拳を突き上げたエルダー・コボルトをシルヴァが見つめる。確かにその姿は雄々しくて英雄的だが……


「クゥ、ウォル ワゥオルァウ? (でも、賢者と言えないかも?)」


エルダー種は古代の森のコボルトたちにとって、知恵と魔法に長じた知の英雄であり、殴り合いでコボルト族の戦士たちに勝てるわけではない。


にもかかわらず、アーチャーは洗練された戦士の如き戦いで二匹の猛者を制してみせた。その事実に彼女は驚きを禁じ得ないが、圧倒的な力を示した彼が皆を纏めるのであれば討伐戦の役割で揉めることもないだろう。


「ウ~、ヴルァ、ギャオァン…… アルヴァ、グルォ クォルゥ?

(う~、ハスタ、負けちゃった…… シルヴァ、僕らは後衛だよね?)」


早速、小柄なシロが上目遣いにシルヴァを見つめ、自分たちの配置を気に掛ける。


「ウォオン グルゥアゥ、ガォル

(決めるのは私じゃなく、彼よ)」


「ワゥ、ウォアルァ~

(まぁ、そうだよね~)」


歓声の中、突き上げた拳を降ろして呼気を整える銀毛のコボルトへとシロは視線を向けた。


……………

………


「フウゥウッ…… (ふうぅうッ……)」


ゆっくりと息を吐き出しながら、俺は体内を駆け巡る土属性の魔力を鎮める。金剛体によって盛り上がった筋肉は緩やかに通常の状態へと移行し、事後の筋肉痛がやってくるものの初めて使った時ほどではない。


しかし、この金剛体は魔術師が扱うには求められる基礎的な身体能力が高すぎるな。それも『剛力粉砕』が売れなかった理由の一つか……


「ウォルウォアゥ…… (それはさておき……)」


徐々に喧騒は静まり、輪になって観戦していた同胞たちの視線が集まるのに合わせて宣言を済ませておく。


「ガルォルア グルゥ ウォルウォアォオオンッ! ガオアルォンッ!!

(今回の戦いでは俺が指揮を執らせてもらうッ! 異論はないなッ!!)」


「「「ウォオオオォオオオッ!!」」」


再度の歓声にて、この同族たちの連合を取り纏める事が了承されたところで、シロがおずおずと片手を上げた。


「アウ~、クルアゥ ヴルァ クルァアン?

(あの~、そろそろハスタを治療しても?)」


「ワフッ (あぁ)」


少し場所を空けてやると、シロが屈みこんで仰向けに伸びているハスタの腹に手をポフっと乗せ、掌に聖属性の魔力を収束させた。


「ガゥッ、クルアォ~ン (えいッ、癒しの聖光~)」


暖かな光が身体へと吸い込まれて傷を癒していくが、目覚める気配は薄い。


「ウ~、ガルァアァウゥ、ウォアゥ ガゥアッ!!

(も~、しょうがないなぁ、ついでに覚醒ッ!!)」


「ッ、ウッ、ァ…… (ッ、うッ、ぁ……)」


さらに覚醒(アウェイク)の魔法を重ね掛けされたハスタから呻き声が漏れて瞼が開く。


「クッ、グァオアゥ…… (くッ、負けたのか……)」


「ワゥ、グォルフ ガルフォア (まぁ、勝負は時の運だ)」


シロの犬族から治癒を受けるブラウを視界の端に収めながら、短く言葉を交わしたハスタに掌を差し向け、伸ばされた手を握って身体を引き起こす。


「……アルォ、ルァウッ、グルォ クルァオォウゥ

(…… シロ、すまない、皆が世話になっておきながら)」


「ワォルオァアオ~ン、グルォ クォアルァウ

(気にしなくても良いよ~、僕らも助かっているし)」


本気で落ち込んだ様子から察するにハスタは義理堅い性格のようだな……


「ウ、ウォアゥ クルォ ワフォアン……

(ん、そっちは奇麗に納まったようね……)」


先ほど傍に歩み寄ってきたシルヴァの言う通りにこちらは良い雰囲気だが、ブラウの方は仲間たちに怒られまくっていた。


「ワフィ ヴォルアォンッ、グルァ!

(何で瞬殺されてるのよッ、族長!)」


「グルゥオ ガルオアァアン…… ギゥルアゥ

(自分から喧嘩を売ったのに…… カッコ悪いぜ)」


「グルルッ、グルォ ガルォグルァアァ ウォルアァアァンッ!!  

(ぐぬぬッ、貴様ら儂に文句があるなら掛かってこいやッ!!)」


一方的に責められていた薄茶巨躯のコボルトがキレて、何やら乱闘が始まりそうな空気になってやがる……


「ガウッ、ヴォア ファルグァウ!

(もうッ、 雄って馬鹿ばかりね!)」


(何気に耳に痛いな……)


探求心を抑えられず世界樹を登頂しようとした結果が今の状況に繋がるわけで…… きっと妹やランサーからすれば俺も同類だろう。


ともあれ、シルヴァがやや呆れた表情で仲裁へと向かい、三角立て耳のコボルトたちを諫めて今夜の騒ぎは終わりを迎えた。



翌日の正午近く、夜警を担当していた者達が目を覚ますのを待って討伐戦のブリーフィングを行う。昨夜と同じく野営地中央の開けた場所に立つ俺とシルヴァを百数匹ほどの同族たちが囲んでいた。


「ガルゥグルァウ クォアルオゥ ウオルァウゥッ、ヴァルガ ウォルァアァンッ!

(敵は俺たちより少し数は多いが恐れることはないッ、機動性はこちらに分があるッ!)」


一般的にコボルトとゴブリンの強さはほぼ互角であるが、器用さでは劣るものの素早さは俺たちのほうが上だ。


なお、森での集団戦ならば総勢がぶつかり合う平原での戦いと異なり、小集団に分散しての戦いとなるために機動性が物を言う。


さらに弓や魔法などの遠方からの攻撃手段を持つ者、特に長距離狙撃(スナイプ)が可能な手練れの射手は森中では有効な戦力となるので、シルヴァの群れにいる極僅かの弓兵は遊撃隊として編成させてもらう事にしよう。


(……傭兵時代に仕込まれた事と経験が役に立つな)


暫し瞑目して、堅物の副長殿(エヴァンス)に感謝を捧げておく……

”皆様に楽しく読んでもらえる物語” を目指して日々精進です!

ブクマや評価などで応援してくれれば、本当に嬉しく思います!!

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