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一応、致死性じゃないんで~

都市エルウィンドの市庁舎も例によって世界樹“慈愛(アフェクティオ)”の根元に立っている。その中からやや疲れた顔の男女を先頭に数名のハーフエルフたちが出てきて、郊外の駐屯地へと向かっていく。


「…… エリザと言ったか、あれは若いくせに食わせ者だな」

「えぇ、正直疲れました、先生……」


先程の交渉を思い出して呟くレアドに護衛役のメリダがうんうんと頷く。


フィルランド共和国が提示した条件は大きく三つ、国交再開、第2師団の駐留、世界樹 “記憶(メモリア)” の治癒だ。対してこちら側から提示しているのは駐留兵が “鎮守の杜” の防衛を担うという内容であるが……


まぁ、他国の軍隊など信用はできないだろう。


「…… やっぱり、国交再開がネックになっていますよね」

「あぁ、さすがにこの政情不安の状況ではな……」


「先生!良いことを思いつきましたッ!!」

「一応、聞いておこう」


その言葉にメリダがにっこりとした顔で語り出す。


「いっそのこと、私たちで黒曜の氏族を煽っちゃいましょうよッ!」


「…… 微妙だな」

「え~、ダメですかぁ」


「“鎮守の杜” を混乱させたいならば良かろう…… だがな、我々が欲しいのは世界樹を制御できるハイエルフの血を受け継いだ特別な者たちの協力だ」


結局のところ共和国が保持する世界樹 “記憶(メモリア)” の延命と、国交の再開による国力増加が今回の遠征の目的だ。下手に混乱を助長させれば、その渦中で求める人物が命を落としてしまう恐れもある。


(にしても、やりづらい…… 子狸だなあれは)


明らかに相手の意図は引き延ばしなのであるが、エリザ嬢と話していると交渉が上手く纏るのではないかと錯覚させられる。


まるで化かされているようだが、国同士の交渉などそんなものだ。


「メリダ、王都周辺の結界の綻びを突いて斥候を出しておけ。他都市からの増援などの軍事的な動きがあった時点で、この都市を武力制圧する」


「で、世界樹 “慈愛(アフェクティオ)” を地脈から切り離して、巫女を引き剥がせば迷いの結界も維持できない…… でしたっけ、今からやりませんか?」


「穏便に済む可能性がある限り、交渉は続けたい」


(あくまで祖国の利益を優先するが、私たち自身がかつての戦争の犠牲者だからな)


などと考えながらも、駐屯地では師団長ラギエルと都市制圧について話を詰める。


その暫し後、丁度、夕食時で駐屯地でも忙しなく人が動く頃合いを狙って森の中に潜む者たちがいる。


……………

………


「ぐるぅ がるぉん?(本当に可能ですの?)」


ヒソヒソ声で話し掛けるのは王都より交渉担当として派遣されているエリザであり、その相手は蒼色巨躯のコボルトだ。


「ウ~、ガォウ ガルァオッ

(ん~、多分大丈夫かなぁ)」


応えるアックスの瞳は深紅に染まっており、彼に似合わない禍々しさを放って薄闇で煌々と光る。


蒼色紅瞳となった巨躯のコボルトはデュエルシールド(鈍器)の鋭角状の先端を地面へと突き刺してから手を放し、もう片方の掌に握り込んでいる戦斧をそこに立掛け、両掌を自由にした。


「グルォオ ヴルウォアン

(やるなら手早く頼むぜ)」


「ワゥオ (そうね)」


バスターは大剣を担ぎながら嗅覚に意識を集中し、ダガーが狐耳をぴこぴこさせて周囲の音を拾う。駐屯地から十分な距離があるものの注意は必要であり、長居は無用だ……


事の始まりはエリザが王都を立つ前に遡る。一緒に夕食を取ったことによりある程度仲良くなったコボルトたちに一応、現状を教えておいた方が良いと思い立ち、彼女は彼らに宛がわれた部屋を訪れた。


そこで思わず零した “はぁっ、何とか穏便にお引き取り願えないかしら” との愚痴に反応したのがアックスである。


“ワウ~、ガゥオァウ クルァアァン? ワフィオァアァン!

(う~ん、人だらけで困っているんだよね? 何とかなるかも!)”


という心根の優しい彼の言葉は疑わしいものだったが、もし上手くいけば交渉を有利に進められる可能性も高かったため、細部を詰めて今に至る。


「わぉあ、がるあぁん (じゃあ、始めますわよ)」


エリザは意識を自然の中に溶け込ませて、地脈に流れる世界樹の生命力を感じ取りながらそれをアックスへと繋ぐ。


勇敢なる(ゼルネス)森の(フォレオァ)護り手に(エクスギア)世界樹の(ヴィエルァ)加護を(ル―ド)


元々コボルト族は種族的に土属性のため、世界樹との相性は悪くない。故に自然な形でアックスと世界樹の接続は成され、地脈を経由して “慈愛(アフェクティオ)” から生命力を引き出すことが可能となる。


「ワゥ、ワフルァ~ン (あ、何か良い感じ)」


人族特化の病魔の血煙は増血効果もあって生命力の余剰がある限りばら撒くことができる。とはいえ、今のアックスでは一日に60 ~ 100人程度を感染させると貧血状態だ。そこでエリザが提案したのが世界樹との接続であった。


結果は上々で、勢いよく蒼色紅瞳となったコボルトの両掌から血煙が噴き出す!


【発動:病魔の血煙 (人族特効)】


因みに、アックスの穏やかな性格で呪いが緩和される事と幾分効力が落ちているので、特徴的な治癒魔法無効と即時行動不能の効果はあるが、致死性ではない。健康な状態であれば1~2週間ほど吐血しながら高熱にうなされるだけだ。


なお、銀色のボスから獲得した技能は試しておけと言われている事に加え、致死性ではないことを本能的に理解しているからこそ、性格的に優しいアックスでも血煙の行使ができている。持病があったり、体力が落ちているとその限りではないが……


「ッ、風よ(ヴィル)導きなさいッ(メイアスッ)!」


さらに噴き出した血煙はエルフ族のハイ・ウィザードであるエリザの起こした魔法の風に乗って駐屯地へと運ばれ、拡散していく。

面白いと思っていただけたなら幸いです。

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