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蜂蜜づくし

累積評価が約58万作品中の589位になりました!

読んでくださる皆様に心から感謝です!!


一方、銀色の弓兵(アーチャー)を探しに出た捜索隊が戻るまで、王城に留まることを勧められた三匹はというと…… 夕食に舌鼓を打っていた。


「ワゥ?クルォウ ヴァアルゥ!

(わぅ?ほんのり蜂蜜味だよぅ!)」


「クルァ~ン!

(美味しいね~!)」


焼き加減がレアのオックスステーキを手掴みで食べながら、蒼色巨躯のコボルトが幸せな雰囲気を王族専用の食堂に振りまき、狐しっぽのダガーも頬を緩ませた。


なお、隔世遺伝で先祖返りをして、ハイエルフの血を濃く受け継ぐ次期女王となったアリスティアは、幼い頃に親元から引き離され、身内と呼べるものを持たないためこの食堂を使う者は限られている。


密かに母親のように想っていた先代女王クローディアの崩御以降は、彼女が連れてこられた王城で出会った悪友のエリザ、式典でよく行動を共にする世界樹の巫女たちぐらいだろうか。


ただ、今日に至ってはここ一月近く寝食を共にした友人たちを招いていた。


「ぐるぉ うぁう くるぁおぉおおぅ、うぁうおるぁん ぐるぁああおぅ

(皆さんは蜂蜜が好物と聞きましたので、蜂蜜漬けにしたものを焼かせました)」


今日も今日とて、手間暇の必要な巻き髪を奇麗に仕上げ、ドレスを纏うエリザがお澄まし顔で料理の説明などを始める。


今話題となっている筋を包丁で取った後、はちみつ漬けにしておいた肉を焼いたステーキの他に、木の実をスライスして振りまいたハニートースト、蜂蜜酒まで…… 蜂蜜尽くしであった。


エリザは基本的に本の虫であるが、実は目新しいものに対する興味が強い。ただ、一応は名家のお嬢様でもあるので、不用意に出歩けないというジレンマに陥っており、そんなエリザにとってアリスティアが連れてきたコボルトたちは好奇心を大いに昂らせていたのだ。



(…… だからと言って、これはやり過ぎでしょう)


やや呆れながら、王城の主であるアリスティアは蜂蜜たっぷりのハニートーストを齧る。彼女とて甘いものは大好物なのだが…… 今テーブルの上には甘い物しかない。


(アックスとダガーの二人は喜んでくれているみたいだけれど……)


チラリと腕黒巨躯のコボルトを窺う。


(他の子たちに比べて彼との付き合いは浅いから、嗜好などはわかりませんが…… 甘い物はどうなのでしょう?)


「クァルウ グルグォウアルゥ…… ワゥ?

(匂いだけで腹が一杯になるぜ…… ん?)」


ちびちびとステーキを手で千切りながら口に放り込み、蜂蜜酒を飲んでいたバスターとアリスティアの視線が不意に絡む。


「がぉあるぉおおぅ?

(お口に合いますか?)」


「ワフォ ウォルァアアゥ…… ガォ クァルォオアァアン

(偶にはこういうのもいいさ…… 暫し世話になる身だからな)」


当初は三匹とも群れの長を探しに出ようとしたのだが、アリスティアの調整により復調しつつある王都周辺の結界のこともあって引き留められていた。


迷いの結界は王都を中心として広範囲に展開されているため、もし迷えば散々な目に遭ってしまう。エルフたちは迷いの結界の影響を受けないため、捜索隊が出立する際に同行するという手もあったが…… 万一、魔物の襲撃などのトラブルではぐれた場合が問題となる。


二次被害を避けるため、丁寧な説明を受けた三匹のコボルトはアリスティアの提案を受け入れて王城で2 ~ 3日ほど厄介になることを決めていた。


その判断の根っこには、銀色の魔犬ならば一匹でも大丈夫だろうという信頼が窺える。


それはアリスティア自身も同じであり、月光を背に立つ銀毛金眼の魔犬を初めて見た時に押し殺した恐怖は今や信頼に置き換わっている。


(彼のことは心配ないとして…… いえ、心配ですね、どこかで何かをやらかすかもしれません。勝手に世界樹によじ登って…… お陰で眠れなかったじゃないですか、もうッ!)


彼女が身体を這いまわる感触に悶えていたのは、世界樹と自身の感覚共有を解除し忘れたせいであるが、そこは考慮されないらしい。


色々な意味合いでアーチャーを心配するアリスティアではあるが、今はもっと重要な問題もある。まぁ、それは食事時に考える事でもないので後に回して、彼女は食事の場を楽しむことにした。


……………

………


王都エルファストから南東に二日ほどの距離に都市エルウィンドと世界樹 “慈愛”(アフェクティオ) がある。その都市に近隣国家であるフィルランド共和国の使者が来たのは王都で叛徒たちが暴れた時から3日前だ。


フィルランド共和国は600年前のフォレストガーデンの戦いで “鎮守の杜” と和平条約を結んだ、西方諸国で唯一の世界樹を保持する国家でもある。


だが、エルフたちが持つ階級的な氏族社会の概念にとって、共和国から急速に流入する新たな価値観が毒になると考えた先代女王クローディアは僅か数年で国交を絶ったため、今となっては特に繋がりもない。


当然に迷いの結界に阻まれて、使者がエルフたちの都市に近付く事はできないはずなのだが……


暗殺未遂事件の際、瀕死の女王を生き長らえさせるために世界樹 “永遠”(アイオーン) の生命力が大量に消費され、この都市の世界樹 “慈愛”(アフェクティオ) からも地脈を経由して生命力を譲渡したことが仇となる。


一時的に綻びを抱えた結界の隙を突かれてしまったのだ。


それでも本来であれば、人族など寄せ付けない効果が残っていたものの、やってきた使者は中途半端な耳の長さのハーフエルフたちであった。


彼らが訪れた都市エルウィンドから数キロ離れた森の中、共和国陸軍第2師団の野営地にて遠征軍2000名を従えるハーフエルフの共和国評議員レアドは先日を思い出しながら呟く。


「ふんっ、俺たちをエルフモドキ呼ばわりか…… 都市エルウィンドは仮にも母上の故郷だ、私としては最大限の敬意を払ったのだがな」

面白いと思っていただけたなら幸いです。

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