古代の森のコボルト達
俺だけ元気よくピチピチと跳ねる魚を握りながら、現れた同族たちと話し合うのはさすがにシュールに過ぎるため勿体無いが川にリリースしてやる。
「ウォアッ (よっとッ)」
逃した魚が泳ぎ去るのを尻目に岩から立ち上がり、軽く脚に力を入れて銀色のハイ・コボルトの傍へと跳躍すると、その近くに立つ腕白尾長のコボルトと視線が交わる。
「…… グルゥ、ガゥア ヴァルウォアゥ?
(…… あんた、本当にエルダー種なのか?)」
彼から敵意は感じないが、訝し気な視線を向けられるのはあまり気分の良いものじゃないな……
「ン~、ウォアァン…… ガオンッ、グォルゥアアゥッ!
(ん~、確かにこう…… あれだッ、デカさが足りないッ!)」
「ウゥ、キュア、ガルヴァオ ウォルウァアン……
(うぅ、すまん、銀色しか確認してなかったぜ……)」
薄茶色の毛並みをした立て耳コボルトの一匹がシュンとその耳を伏せて、彼らを率いる薄茶巨躯のコボルトに詫びる。どうやら川辺に水を汲みにきた立て耳コボルトの一匹が俺を見かけたらしい。
「ワフゥ、グォルアゥ…… クァ、グルォウァル ウォルア ガルォ ヴォルオゥ?
(はぁ、デカさって…… この子、抑えているけど相当な魔力を纏っているのよ?)」
(…… この子扱いかよ)
その溜め息を吐いた銀色の雌コボルトが纏う雰囲気は落ち着いており、うちの群れの連中を尺度にすれば4~5歳くらいに思える。であれば、俺の倍近く生きているわけでその扱いも仕方なしだが……
(さすがに群れの連中で、面と向かってそんな態度を取るのはマザーくらいだから違和感があるが…… よく考えれば、群れの年長連中が若い長の俺に気遣ってくれているだけか)
改めて皆に感謝しつつ、勝手にあれこれと言われるのも癪なのでこちらから話を切り出す。
「グォアガゥル ガルグォルウォ アァウ…… グルォアフ?
(複数の群れが混在しているように思えるが…… 貴方がたは?)」
原則的に、屈強なコボルトは名乗ることを群れの皆から認められるため、それぞれ仲間を率いるこの者たちも名はあるだろう。
「ウァルォウァ、グルゥ ウォル ガーウァルォウ アルヴァ
(礼を失したわね、私は賢者ガーヴィの血族のシルヴァよ)」
「グルゥ アルォン~、クウォル
(僕はシロだよ~、若い賢者君)」
くすんだ銀色の彼女がシルヴァで、白フワの小柄なコボルトは見たままのシロか…… 因みに彼の言う賢者というのはエルダー種に対する敬称だと、アリスティアから聞いている。
「ガルヴォルアァオン、ウォルグアァウ…… ガゥアン、グルゥ ヴルァ
(その鍛え上げた体躯、賢者と思えないが…… まぁいい、俺はハスタだ)」
一瞬だけ、美しくポージングを極めた鋼の賢者の勇姿が脳裏を過った。因みに、奴の記した魔導書『剛力粉砕』には肉体を如何に美しく魅せるかの記述もある…… 勿論、読み飛ばした。
「ウ、ガルァグァウ。ウォア ウォ ヴァルウォアァン?
(で、儂がブラウだ。それでお主はエルダー種なのか?)」
「ワフ、アルファルォ ウォルォアアゥ
(あぁ、エルフたちからはそう言われたな)」
その返事を聞いた4匹のコボルトが互いに顔を見合わせるのを眺めつつ、気掛かりな疑問を解消するために複数の群れが混在している理由を問う。
「ワゥ、クルゥウォフ グルォアアァン~
(まぁ、確かに普通はあり得ないからね~)」
「…… ウォ、グルガゥル ガォファ グルォアァゥ、クゥウガオァウ
(…… 先日、俺の群れがゴブリン共に襲われてな、九匹も殺られた)」
聞くところによれば、最近になって古代の森北東部のゴブリンたちが活性化したらしく、その際に矢面に立ったのは小鬼族と縄張りを接するハスタの群れだ。
最初こそ落命する者も出ないような小競り合いから始まり、一週間ほど前に集落への襲撃があった。元々、精悍であるが少数の白黒コボルトたちは多勢に無勢の状況に追い込まれ、集落を捨てての退避を余儀なくされる。
その最中に雌と子供を逃がすため殿を務めた族長を含む9匹が落命したらしい。その後、傷つき逃げてきたハスタの群れに対して、交流のあったシロの群れが受け入れることになった。
「グルァ クォルキュア~ン、ウルガゥル クルァアンッ!
(僕らは小柄で弱いからね~、同族とは仲良くしないと!)」
ニコニコしながら、堂々と言ってのける白フワコボルトたちは小規模農耕と採取中心の生活を送り、ひっそりと暮らしているようであり、本来は縄張り争いに敗れて追い出される側に思える。
だが、治癒魔法に長けているため他の群れと協調して縄張りを認めてもらっているそうだ。故に手負いの白黒コボルトたちが向かったのが白フワたちの下だったのだ。
で、その交流範囲の広い白フワコボルトたちを経由して、古代の森北東部で最大となる賢者ガーヴィの群れやブラウ率いる立て耳コボルトたちの群れにゴブリン襲撃の知らせが届く。
ハスタたちの話によればGどもの数は集落にきただけでも80匹はいたらしく、正確な数を知るために偵察をおこなったところ、百二十匹を超えていたという……
「ウル ウォアルファ ガォファ ウォアグォル ヴォルゥウ……
(北の森から流れてきた奴らが元からの連中に合流したのよ……)」
ここから北と言えば、イーステリアの森しかない……
(……すまない、何気に心当たりがある)
数を増したG共に個々の群れでは最早対処できず、下手をすれば全滅させられる恐れもあるため、賢者ガーヴィの呼びかけで合同の討伐隊が組まれることになり……
「ウォア ガルァオォオオンッ!ウォルグルォ クルァウ ガォルァウッ!!
(それが儂らということだッ! 他の仲間たちは少し先で野営しておるッ!!)」
ということで、大体の事情は察せられたが……
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