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良い日旅立ち

丁度、世界樹 “永遠(アイオーン)” の天辺に登った頃合いで、東の空を見ると眩い朝日が姿を現し、古代の森を優しい陽光で染めていく。


「ッ、ウォオオォオオオ―――ンッ!!」


思わず、その光景に向かって遠吠えしたのは本能に根差す何かの琴線に触れるものがあったのだろう。ぐるりと周囲を見回すと、アリスティアの説明通りに相応の距離を空けて、聳え立つ三本の世界樹が小さく見える。


(確か、南東にあるのが世界樹 “慈愛(アフェクティオ)” で、その根元には都市エルウィンドがあるんだったな……)


さらにその先には、かつてエルフたちとフォレストガーデンの戦いを起こし、終戦後に平和の証として世界樹 “記憶(メモリア)” を送られたフィルランド共和国がある。ここからではその首都にある世界樹は判然としないが…… 西方諸国では唯一、それを保持する国家だ。


で、身体の向きを変えて北の方角を眺めれば、延々と森林地帯が俺達の棲むイーステリアの森まで続いている。


「グルァウ、ウルォアァウ… ワフ?

(あいつら、仲良くやって… ん?)」


不意に斜め後ろから影が射し、振り向くと……


「クァァアァ―――――ンッ!!(怒)」

「ワフッ!?(なッ!?)」


突如、上空から巨大な猛禽類が俺を鷲掴みしようと急降下してきた。


「ウオォオオッ!!(うおぉおおッ!!)」


ガシッ


何とか躱そうと倒れ込むが…… 俺の胴体は奴の左脚に掴まれた。そして、“蒼穹の王者” が朝焼け空へと舞い上っていく。


「ヴァルオッ、ガゥルウォーグルッ!!

(馬鹿なッ、キングイーグルだとッ!!)」


それはハーピーや昆虫系、鳥類系の魔物を獲物としている空対空に特化した大型の魔物だ。特筆すべきはその速度であり、竜種よりも速いために大空では天敵もいない。


また、世界樹などの大樹の天辺に “巣をつくる”。今も天高く持ち上げられる俺の視界へと木々の間に埋もれた白い大きな卵が……


「オフゥ、ウォオアッ! (待て、誤解だッ!)」

「クワァアァアァッ!!(怒)」


念話の効果を持つミスリルの仮面は腰袋の中で…… 当然にこちらの意図が伝わることも無く、凄まじい速度で世界樹が遠ざかっていく。


さっき卵を見たせいで親鳥に対する攻撃を躊躇い、無駄に足掻いた十分足らずの間に王都エルファストから結構な距離を離されてしまった…… キングイーグルは本気になれば時速 150㎞ 近くを出せるのだ。


(くッ、という事はもう既に20km前後は離されているということかッ!!)


そんな事を思っている間にも何処か遠くへと運ばれてしまう……


「ガゥオァアァンッ!!(悪く思うなよッ!!)」


幸い右腕が自由になっているため、キングイーグルの太い足を握り込み、風刃で斬り裂こうと風属性を帯びた魔力を掌に宿らせていく!


「クゥ!?」

「ワフィッ! (何ッ!)」


ところが、風の魔力に対して敏感な反応を見せた奴は俺をポイっと投げ出す。


「ウォオオオォ――――ッ!!」


当然に慣性及び万有引力の法則に従い、俺は放物線を描きながら高速で落ちる羽目に……


「ウォフ、ガルォッ!! (風よ、従えッ!!)」


咄嗟に風魔法で上昇気流を生み出して、落下速度を軽減し、適当な木の上に落ちる様に微調整も行う。


ガサッ ガササッ


「アゥッ、ウゥ…… (痛ッ、うぅ……)」


所々、身体をぶつけながらも何とか木の枝に引っかかり、もそもそと地上に降りる。


「………… ウォルガォン?

(………… 此処は何処だ?)」


恐らく、状況的に王都から北東の方角に連れてこられたようだが……


精々 25~30㎞ 強程度しか距離は離れておらず、南西に移動しながら、嗅覚を頼りに王都エルファストへ流れ込むクラルスフルーメ河さえ見つければ帰還できそうだな。


(問題は都市周辺の迷いの結界か……)


まぁ、迷いの結界はエルフたちに効果を及ぼさないため、体内を巡る魔力の波動を感知して発動すると予測できる。であれば、結界を維持する世界樹由来の魔力に近しく偽装すれば…… 試してみる価値はあるな。


腰袋に手を当てて、世界樹の種に含まれる温かい聖属性と土属性の魔力を感じる。


それに結界の影響範囲にまで近付けば、仲間たちが俺を探してくれている可能性もあるし、狩りに出てきた黒曜のエルフと出会うこともあるだろう。


色々と不確定なこともあるが…… ここに留まっていても仕方が無い。嗅覚を研ぎ澄ませながら、俺はひとり古代の森北東部を歩き出した。


……………

………


王都エルファストから銀毛のコボルトが不本意な旅立ちを済ませた日の午後、姿を消した彼のためにひと騒動ありつつも、王城本館の謁見の間に主要なエルフたちが集っていた。


「女王陛下、良い報告と鬱な報告、どちらからに致しましょう?」


私的な場では、女王をアリスと愛称で呼ぶことも多い幼馴染のエリザであるが、ここでは臣下の一人として礼儀を重んじる。


「では、鬱な方から聞きましょう」


そのアリスティアの言葉に軽く頷いて、色素の薄い肌を持つエルフの令嬢は報告を始めた。


「先ず、昨日の騒乱における白磁と黒曜、双方の死者の数ですが……」

「そうですか…… 亡くなった者は白磁と黒曜の区別なく、丁重に弔いましょう」


報告によれば午前中に亡骸を麻袋に収めて、北門付近に安置しており、後は郊外の森で樹木葬を執り行う予定とのことだ。


「さらに鬱な話ですけど、亡くなった方よりも生きている御仁が問題ですわ」

「グレゴルですか……」


過激派の主導者は首の骨に罅が入っていたものの、致命傷ではなく、既に治療を受けている。その他にも気絶していただけの黒曜の魔術師アドレ、自ら治癒をおこなって命を繋いだブライトも存命であった。


「それもありますが、問題はそこではないですぞ」


傍に控える宰相テオドールの言葉に暫時、思考を巡らせた女王が言葉を紡ぐ。


「…… 約半数の改革過激派の者たちがどさくさに紛れて逃げましたからね」


「然りです、陛下の暗殺を企てた獅子身中の虫を含めて摘発する必要がございます」


意気揚々とした雰囲気を見せる宰相に彼女は軽くため息を吐く。


「テオドール、貴方がそれを行えば、やりすぎてしまう可能性を否定できません…… それに投降した改革過激派の者たちを収容するだけで監獄のキャパシティは限界です」


「では、どうなさるおつもりでしょう? 御咎め無しでは示しがつきませんぞ」


玉座に坐し、再度、瞑目して思考に耽る女王へとエリザが献策する。


「現実的に考えて…… 逃げた改革過激派のうち、危険思想が強い者を中心に改革穏健派の協力を得て取り締まりましょう。それと、一時的に監獄の過剰収容は容認して、新規建設を進めるという辺りですわね」


「任せても?」

「承りましょう」


その返事を以って、昨日の戦闘に係る事後処理の話は一応の収まりを見せる。その後は改革穏健派や保守穏健派との会合の日程など、一連の事態の収拾に係る議論がなされていく……



「…… ところで、良い報告というのは?」


弓兵(アーチャー)殿を捕捉しました。北東の世界樹 “揺籃(インキュナブラ)” と王都の “永遠(アイオーン)” を繋ぐ地脈の上で “世界樹の種” の反応が一瞬あったとリスティから報告が来ていますわ」


「では、そこに……」


シルバーブロンドの長髪を弄りながらアリスティアは小首を傾げる。

朝方に王都の世界樹を登っていたはずなのにと……


「彼には色々と助けられましたし、仲間たちも心配していますからね……」


理由はともかくとして、既知のレネイドを含む侍従騎士から捜索隊数名が選出され、その日のうちに古代の森北東部へと発った。


……………

………

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