庭園に響く咆哮
「ッ、魔法攻撃がきますッ! “盾無” 六層で展開ッ!!」
「「「はいッ!」」」
王城本館の入口を半包囲するように動きながら、両掌の間に魔力光を宿らせる改革過激派のアドレ隊に対して、レイア率いる侍従騎士隊の総勢六名が即座に術式の構築を行う。
主に守勢を目的とするため、後手に回らざるを得ない防御魔法は堅牢さと同等以上に発動速度を重視され、術式としての完成度を高められている。
結果、僅かに白磁の女性騎士たちの “盾無” が機先を制し、属性を持たない純粋な魔力で構成された青い燐光を放つ魔法の結界が六重の半円状に展開され、そこに攻撃魔法が殺到する!
ドォオオオッ ドウウゥウッ
「だ、ダメです、持ちませんッ、うぁッ!!」
ガラスの砕ける様な音と共に最初の結界が雷撃と二つの焔を受け止めて弾けるが…… 本来は展開速度に重きをおいた結界魔法で受け止められるのは精々一撃に過ぎないことを考えると上出来だ。
それだけ、世界樹の加護を受けた効果が高いという事だろう。
「ッ、いけます! 気迫を見せなさいッ!!」
「うぅッ!」
「やってやりますッ!」
次々と飛来する岩弾や風刃を受けて “盾無” の結界が一枚、また一枚と弾けていく…… だが、最後の一枚を残して、アドレ達が放った全ての攻撃魔法を受け止めてみせた。
「ば、馬鹿なッ!? 多層とは言え、この数の攻撃を受け止めるだとッ!!」
「まじかよ……」
「ッ、アドレさん、反撃きますッ!」
一瞬動きを止めてしまった過激派の魔術師隊を狙って、侍従騎士たちの後ろで攻撃魔法の準備をしていた衛兵隊が彼女たちの前に出る。
「いまだッ、撃てーッ!!」
「うぉおおぉ!?」
「ちいぃッ!!」
衛兵隊長の指示の下、十二名の衛兵たちが放った風刃がアドレを含む魔術師隊を狙うが…… 地面から勢いよく土塊の壁が複数枚せり上がり、風の刃を受け止めて砕ける。先程の攻撃に加わらなかった過激派のエルフたちの展開する土属性魔法 “グランドウォール” だ。
「ッ、すまない、ブライト」
「構わないさ、しかし意外に厄介だな」
こんなところで、足止めを食っている暇はない。
グレゴルたちの目論見では、要人を捕縛した後に王城内部から火を放って狼煙を上げ、西門に向けて抗議行進を続ける千名以上の黒曜の氏族を扇動して決起させる事になっていた。
そのために少なくない数の人員を抗議集会に紛れ込ませ、今も群衆を煽り立て、警備の衛兵たちと率先して揉め事を起こして暴動を誘発しているが…… 時間が自分たちに有利に働くとは限らないことも確かだ。
一瞬だけ、王城本館の入口を半包囲したまま双方が睨み合うものの、そこにグレゴルの指示が飛ぶ。
「世界樹の加護を受けているようだが、奴らにも術式行使の負荷はあるッ! 次の攻撃魔法を準備しろッ! 不用意に近づく必要もない、このまま圧し潰すぞッ!!」
過激派は守勢と攻勢に役割を分け、再びアドレの率いる魔術師隊が攻撃魔法の構築に入る。ただし今回は多少の時間を割いて、初撃よりも威力の高い中級以上の魔法を構築していく。
「くッ、させるなッ!!」
「ふん、それはこっちの台詞だぜッ」
再度、衛兵隊が放つ風刃や雷撃が叛徒たちに迫るが…… 多勢に無勢のため、ブライト隊が土魔法で補修した先程の土塊の壁に阻まれ、逆に叛徒たちの反撃を受けてしまう。
「くッ、うぅッ、ジスト殿、このままでは結界に限界が来ますッ!!」
「ッ、レイア隊長ッ、あれを見てくださいッ!」
部下の注意喚起に従い土塊の壁に護られた一角に視線を向けると、そこでは強大な魔力が生じていた。
「「悉くを貫く雷槍をここにッ」」
「「この一閃、誰も止めること能わずッ」」
叛徒たちの魔術師隊を指揮する男が他三人の黒曜のエルフたちと共に、上級雷撃魔法の “蒼穹の雷槍” を複数人の術者が互いの力不足を補う共鳴魔法として組み上げていく。
(…… 城内に叛徒どもを踏み込ませる事になるが、仕方あるまい)
稼げた時間は数分程度であるが、城内の百余名の文官たちにとっては貴重な時間だ。
それに白磁優性思想に囚われた保守過激派でもあるまいし、いくら覚悟をしているとはいえ己の部下たちに死ねとは言えない。それに女王陛下直参の侍従騎士であるレイアたちをこんなところで死なせる訳にもいかないのだ。
一瞬だけ、音の流れを制御する風魔法を行使したジストが撤退命令を伝達する。
「皆、ここまでだッ! 城内に退いて西館から、ッ!?」
「ウォオオオォアァアア―――――――ンッ!!」
【発動:ハウリングノイズ】
空気を震わせながら、魔犬の咆哮が庭園に響き渡るッ!
「なんなのッ、術式が崩れて……」
「そんなッ、“盾無” が維持できないッ!!」
魔力を帯びた咆哮による干渉で魔法術式が阻害されて、結界 “盾無” が明滅を繰り返して減衰し、侍従騎士たちから悲痛な声が漏れるが…… 何故か叛徒たちの攻撃魔法も減衰して霧散していく。
「何だとッ!?」
「なッ、術式がッ!」
「ぐッ、維持に全力を尽くせッ、暴発したら死ぬぞッ!!」
「そんな事は分かってますよッ!」
上級魔法 “蒼穹の雷槍” を組み上げていたアドレたちに至っては、暴発すれば必死のため全力で魔犬の咆哮に抗っている。
「馬鹿なッ、何故こんなところに犬人族がッ」
「しかも、変異種のエルダーコボルトだとッ!!」
その場にいる白磁と黒曜の双方のエルフたちが一様に、少し離れた木陰で咆哮を上げる銀色の毛並みのコボルトを凝視した。
……………
………
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