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王城内にて

女王アリスティアとコボルト一行が青銅のエルフのギルドマスターに地下隧道を案内されていた頃、王城のロビーを兼ねた大階段室には付近にいた二十数名ほどの文官たちが集まっていた。


「ねぇ、叛徒の数はどれくらいなのかしら……」

「暴力を以って主張を通そうとする輩に同調する奴などそこまでいない、大丈夫さ」


根拠のない思い込みで自身を安心させようとする者もいれば、憤りを隠さない者たちもいる。


「ついに暴発しおったか、改革などを標榜する愚か者どもめッ!」

「その短絡さ故に黒曜の連中は我ら白磁より劣るというのだ」


そんな白磁優性を謳う保守過激派の貴族たちの発言を聞きながら、城内勤務の衛兵をロビーに招集したばかりの衛兵長ジストは深い溜め息を吐く。


(確か…… “社会的な仕組みを理解せず、ただ不満を述べる者たちを支配層は愚かと断じ、被支配層は不満のぶつける悪者を探して、自己を正当化する” だったか)


中々に的を射ているなと、巻き髪を弄りながら呆れと共にそう言っていた年若いエルフの令嬢を思い出す。


(女王陛下がお隠れになり、デルフィス殿が殺されてから、新宰相に就いた父親の七光りで表に出てきた小娘と思っていたが…… 予想外に優秀な奴だ)


その証拠にジスト自身や小隊長の過半数はエリザ嬢の画策した “穏健派連合” へ既に取り込まれていた。


「ジスト殿ッ!」

「噂をすれば何とやらか……」


二階へと続く大階段から声を掛けられて、ロビーに集った十二名の衛兵と共に上段を仰ぐと、青を主体に黒のアクセントを添えたシックなドレス姿の白磁のエルフがいる。


足元に気を配りながら階段を降りてくる彼女の背後にはリスティたち、世界樹の巫女と侍従騎士たちが続く。


「どうされましたか、エリザ嬢?」


「いえ、お父様は衛兵隊の報告を玉座の間にて待つとの事ですが、状況によっては王城から皆を退避させる必要があるかと……」


「…… 私も状況次第でそう判断すべきと考えていました」

「その際、経路は如何しましょう?」


暫時、ジストは物見台に上がっていた衛兵の報告を思い出す。


「そうですな、叛徒どもは南北の門を攻めておりますので、現実的には東西の門のどちらかになります」


「西門には抗議行進中の群衆が迫り、東門はあからさまに平静を保っているのが悩ましいですわ、少数の伏兵や狙撃兵の可能性も……」


改革過激派の目的は王城制圧と世界樹の確保により、黒曜の氏族を決起させることに思えるが…… 同時に王政側の要人の殺害・捕縛も意図しているだろう。


特に世界樹の巫女などは確保したいはずだ。


「それなら西門の方が良いかと、群衆はうちの第7~10小隊の連中が押さえています。それに彼らの一部と合流し、護衛についてもらう事も可能ですから」


「ん、わかりました。ではお父様に具申した後、王城に残る者たちを纏めて…」


「ッ、エリザ様! “世界樹の森” の感知術式に反応ありですッ!数は約二個小隊ッ!!」


“世界樹の森” はコの字型の王城に囲われた庭園を指し、中央には名称通りの巨木が座す。その区画を抜ければ王城の正面玄関に辿り着き、扉の向こうはロビーと大階段…… つまりここだ。


「何ッ!? 城壁が突破されたのかッ!くッ、早すぎるだろうッ」

「衛兵長ッ、どうしますかッ!!」


「そんなッ、ここに奴らがくるのですか、エリザ様!」

「さっき大丈夫って……え? 嘘ッ、に、逃げなくちゃ…」


途端にロビーが騒がしくなり、一部の者達がそのまま玄関から外に出ようとする。


「待てッ、退避なら西館からだ! この先にはもう叛徒がいるぞッ!!」


「は、はいッ」


それをジストが止め、衛兵たちに向き直って指示を飛ばす。


「数で及ばずとも入り口を固めれば、城の皆が逃げる時間ぐらいは稼げるッ! 衛兵としての責務を果たす時だッ、お前たちの命を俺に預けてくれッ!!」


「ッ…… 覚悟を決めるか」

「給料もらいながら、いざという時に敵前逃亡は…… したくないですね」


勿論、敵前逃亡は大罪であるが…… 長命種族なればこそ、自身の生き様を追求する白磁のエルフとして、現状での逃亡など己自身を許せなくなってしまう。


暫しの逡巡の後、各々覚悟を決めた表情を浮かべて彼らは互いに頷き合った。


「ジスト殿、我ら侍従騎士もご助力します」


「レイア殿…… 感謝致します」


本来であれば女王の盾となる彼女たちは常日頃、いざという時の覚悟を心掛けている。そのため、この様な状況でも腹を決めるのは早い。


「エリザ殿、これにて私たちは失礼いたします…… 城の皆のことを頼みますね」


「ッ、分かりましたわ、皆を退避させます」


エリザも当然に白磁のエルフとして魔法を扱うことは得意で、その実力はかなりのものであるが…… ここで戦って万一にでも落命したら、安定しつつある保守派と改革派、言い換えれば白磁と黒曜の氏族の対立が再燃しかねない。


故に彼女は軽く唇を噛んだ後、同意を示した。


「ジスト殿、レイア殿、ご武運を…… リスティ」

「はい、心得ています」


世界樹の巫女達が両手を胸の前で組んで祝詞を紡ぐ。


勇敢なる(ゼルネス)森の(フォレオァ)護り手に(エクスギア)世界樹の(ヴィエルァ)加護を(ル―ド)


「「その身を(ガディア)護る(エクト)銀の(シルヴァ)林檎を(イリス)与え給え(ハウルト)」」


彼女たちの言葉に応えるかのように淡い光が周囲を飛び交い、暖かな光で場を照らしながら霧散する。


「これは……力が漲ってくる」

「ッ、凄い!」


「こんな秘術があったのか……」

「……世界樹の鼓動を感じます」


その祝福を受けた者達は世界樹の存在を一層身近に感じ、身体に流れる生命力に思わず驚嘆してしまう。


「皆様と世界樹を繋ぐ霊的経路を強化しました。これで一時的に強力な魔法を扱えるはずですが…… くれぐれも無理はなさらないようにお願い申し上げます」


「ありがとう、リスティ殿…… 皆、玄関前に出て護りを固めるぞッ!!」

「「「応ッ!」」」



士気を高めて、王城本館の入り口を固めるジストたちの笹穂耳にやがて葉擦れの音が聞こえ、木々の合間からグレゴルが率いる改革過激派の数十名が姿を現す……


「はッ、思った通り、兵数が少ないッ! アドレッ!!」

「あぁ、任せろ、吹き飛ばすッ!」


鋭い目をさらに研ぎ澄ませたグレゴルの声に応じ、魔導士を連想させるフードを被ったエルフが両掌の間に火球を生じさせ、彼の部隊の者たちも風属性や火属性の攻撃魔法の術式を組み上げていく……

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