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青銅の地下隧道

工芸ギルド本部の屋根上から街路へと降り立つと、青銅のエルフに特徴的な藍色の長髪を革紐で後ろに縛った男が軽く会釈をしてくる。


「ぐぅあるがぅ、うぉあぅ…… がぉう くぁるあぅうぉる がーうぁおぅ?

(銀色の毛並み、ということは…… 貴方が噂に聞く賢者ガーヴィ殿?)」


「…… グルゥ、ウォア 『…… 誰だ、それは』」


軽く首を傾げる青肌エルフと暫し無言で見つめ合っていると、レネイドが “こほんッ” とわざとらしく咳払いをした。


「シェアド殿、こちらはイーステリアの森のアーチャー殿です。それと無理にコボ語を使わなくても大陸共通語が通じますので」


「失礼しました、この辺りでエルダーコボルトと言えばガーヴィ殿だけでしたので…… 別の森の方でしたか」


ふむ、太古の森にはイーステリアよりも多様なコボルトが居そうだな。


「私は青銅の氏族の族長補佐と工芸ギルドマスターを務めるシェアドと申します、立ち話も何ですのでこちらへ……」


そう名乗った男が無駄のない動きで先ほど駆け上った建物の扉を開く。


「シェアド、私たちは急ぐのですが……」

「女王陛下、結果的により早く王城に辿り着けますよ」


「それはどういう事でしょうか?」

「いえ、こういう事もあろうかと…… 用意しておいたモノがあるのです」


にやりと笑みを浮かべつつ、最後に付け加える。


「先日、保守と改革の双方の “穏健派” に助力する許可がやっと族長から頂けましたし、ここで陛下がギルド前に佇んでいたのも何かの縁です、力添えさせてください」


勿論、善意だけではない。


改革過激派に黒色火薬やら武器を売ったため、宰相テオドールの取り締まりで投獄された同胞の解放への協力を彼は保守穏健派に取り付けている。


それに気兼ねなく技術開発や工芸に没頭するには情勢の安定が必須なのだ。


「皆様どうぞ、こちらへ」


シェアドは俺たちをギルド1階の倉庫へと連れていき、室内にあった扉の前に立つ。彼はそこに取り付けられた二種類の形式が異なる鍵を外し、隠されていた地下への階段を露にした。


「…… これは?」

「王城へ通じる地下隧道への入口です」


質問に対する答えにアリスティアが翡翠眼をすっと細めて、飄々とした態度の青肌エルフを訝しげに見つめる。


「ち、ちょっと待ってください、何故そんなものがギルド本部にッ!?」

「何故って、我ら青銅の氏族が造ったからですよ、レネイド殿」


驚愕するレネイドの後ろでアックスがひくひくと鼻を動かす。


「ワフィ、ウォアルオァ ワォアゥ (あれ、水の匂いがするよぅ)」


「ウォンッ ウォア……『確かに水だな……』」


「そうッ! 王都エルファストの歴史の中で、我らが発展させた大規模な地下水路ッ! 水と共に王都の主要な場所なら何処にでも行けますよッ!!」


とても誇らしげに笹穂耳をピコピコさせて青肌長髪のエルフが力説するが…… ある意味、為政者からすれば脅威でしかないだろう。


若干引き攣った表情でエルフの女王が溜め息を吐く。


「はぁっ、王都の上下水道や施設管理は青銅のエルフたちに一任していましたが、地下でそのような事になっているとは……」


「警備の観点からしても、在り得ませんね」


もし、青銅の氏族が改革過激派に同調したらどうなっていた事か……


言葉を失うエルフ娘二人を無視して、シェアドが両掌をぱんッと打ち合わせて魔法の構築を始める。


集え(ザイド)燐光よ(エルファ)……我が(ギル)不明を(ラドゥ)照らせッ(セレスッ)


胸の高さで構えたシェアドの両掌の間に淡い光が集い、光源と成す。


「地下隧道は少々ややこしくなっておりますので、私が先導しましょう」


掌にフワフワと光球を浮かべたまま、彼は率先して階段を降りていく。


「ワゥ~、アオゥ (あぅ~、狭いよぅ)」


「グルォオオゥ…… アゥッ (動きにくいぜ…… 痛ッ)」


工芸ギルド本部そのものが大きな建物なので、地下に降りる階段もそこまで狭くはないが…… 筋骨隆々な巨躯を持つアックスとバスターの二匹は頭を低くして、窮屈そうにしている。


「ン、ウォルアゥ クル~ン (ん、ここからは広いね~)」


幸い、妹の言うように階段さえ降りてしまえば地下隧道はそれなりの広さがあった。80~90㎝の通路の横手には100㎝程度の幅を持った水路が流れ、横幅は2m弱といったところだ。


どうにかアックスの頭が天井に当たらない程度の高さがあり、先を見ると地上からの光が差し込む場所もあって、全てが天井に覆われているわけでもなさそうだ。


(土属性と水属性の魔法を駆使した驚嘆すべき地下隧道だな…… シェアドが誇らしげなのも理解できる)


大地の恵み、天からの陽光により蓄えられた世界樹の生命力を魔力に転じるエルフの真骨頂といったところか。


「…… ガゥォ『…… 凄いな』」

「まぁ、主要な経路以外は人が通れるほどじゃないがね」


暫し、無言で王城を目指して地下隧道を進んでいると不意にアリスティアが口を開く。


「…… シェアド、後でこの地下隧道の資料を提出してもらいます。どう考えてもこれは為政者として把握すべきものです」


「承知致しました (…… バレない範囲で幾つか隧道を隠蔽すべきか)」


一瞬、思案顔をするシェアドだが…… 先頭を歩く故、誰にも気づかれること無く進み、やがて通路の壁面に取り付けられた梯子が見えてくる。


「着きましたよ、少し離れていてください」


そう人払いをしてから梯子を昇り、シェアドは天井に取り付けられた木板をゆっくりと下に開いていく。


ザァアアァアァッ


どうやら地上部分は土で隠されていたらしく、土砂が傾いた木板の上を滑って地下隧道に落ち、地上からの光が射す。


(さしずめ、中庭辺りに出るといった感じか?)


流れ落ちる土砂が止まったところで、青肌エルフを先頭に地上へと出るとそこはちょっとした庭園だった。目を凝らして、木々の合間の先に視線を向けると巨大な幹が鎮座している。


「………… 世界樹の森、こんなところまで」

「中枢も中枢じゃないですかッ」


どうやら、青銅のエルフ達の地下隧道は王都エルファストの心臓部に達していたらしい……


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