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エルファスト騒乱

実はアックスは幼い頃から寝言が多い。

そして寝言というのは得てして意味不明だ、そう今のように……


「ワァーン、グルゥ ウォァルォオオン……キュウゥン……zzz 

(うわーん、僕が魚に釣られちゃったよぅ……しくしく……zzz)」


「ウォアルァ、グルクァアァンッ、ガルオゥアァーン……zzz

(待っていろ、いま助けに行くッ、コボルトパーンチ……zzz)」


ゲシッ


「アゥ~~ (あぅ~~)」


何故かアックスの寝言に反応したバスターがパンチと言いながら蹴りを放ち、助けると言いつつアックスの脇腹を軽く蹴とばした。


「…… 断片的にしか理解できませんが、かなり意味不明なことを言っていますね」


「グオゥ ガルクァォオオン、アァクルゥア

『あまり気にしないでやってくれ、アリスティア』」


焚火に乾燥した木片をくべつつ、炎の向こう側のアリスティアと向きあう。侍従騎士のエルフを加えて4匹と2人となったため、3交代制で野営を行っている。今はちょうど、一番手のアックス&ダガーから見張りを代わり、一刻ほど経過したくらいだろうか?


「ウォルァウ、クァルオルァ グゥアウルオアァン

『それにしても、エルフというのも難儀な生き物だな』」


少数の白磁のエルフが支配階級として世界樹と生活環境を維持し、その恩恵の上で多数派の青銅や黒曜のエルフが労働階級として働く。伝統的にその構造が肯定されているうちは良いが、最大氏族である黒曜のエルフがいつまでも低階級の扱いに納得するとも思えない。


「ガルルウォフ、グァングル ヴァルアフ?

『そもそも何故、氏族単位の階級構造を?』」


揉め事の温床にしか思えないが……


「端緒はハイエルフの血を残すためです。白磁のエルフと他氏族が交わると血は薄れて、世界樹を御する力を損ないます。故に私たちは他氏族との婚姻を禁止し、過ちが起こらないように居住区を分けたのですが……」


“それが血統主義を生み、氏族別の階級構造になったのです” と彼女は付け加えた。


「ガゥァルォウ……

『そういう事情か……』」


中々に根が深そうだな。揉め事になる要因は元からあって、そうなるべくしてなったのか…… との考えに耽っていると視線を感じる。


「力を貸してくれる理由を聞いても良いですか?」


軽く小首を傾げつつアリスティアが暗闇でも輝く翡翠眼をこちらに向けた。


「ヴァ、ガァルンヴォルオ ウォルオアァゥ……

『昔、似たような状況を見たことがあってな……』」


見たことがあるというか、当事者の一部に含まれていたわけだが。


「オワフォオゥ グルァオル

『放っておくのも気が引ける』」


「貴方、実はかなりのお人好しですね。改めて感謝を……」


シルバーブロンドの髪を揺らして深々と頭を下げてくる彼女に “まぁ、できる範囲の事しかしないけどな” と返しておく。一度、大きなうねりが起こってしまえば抗い難い。そうなれば、俺たちはイーステリアの森に帰るだけだ。


(さて、そろそろ頃合いか……)


木々の合間から、西の空に浮かぶ月の位置でおおまかな時間を判断して、俺がバスターを起こし、アリスティアがレネイドの体を揺さぶる。


「ッウ、グルァ、オゥルアフ……

(ッう、大将、交代の時間か……)」


「…… おはようございまふ、アリスティア様」


寝ぼけまなこを擦る二人に夜警を引き継ぎ、俺たちは再び眠りに就く……


そうして朝を迎え、大皿へと溜まったゴールデンビーの蜂蜜を革の水筒へと回収した後、一日と少しの日程を掛けて王都エルファストを目指すのだった。


……………

………


そのコボルトたちが夕刻前に王都へと到着する日の昼過ぎ、普段より規模の大きい黒曜のエルフを中心とした王政への抗議集会が行われていた。


「「「俺たちに職業選択の自由をッ!」」」


「「「黒曜の氏族だけ、多少とはいえ税率が高いのは不当だッ!!」」」


などと声を合わせて叫びながら白磁のエルフの居住区、ひいては世界樹と一体化している王城を目指すが…… 例によって白磁の居住区の手前で衛兵たちに押し留められる。


宰相テオドールの娘エリザと黒曜の氏族ジーベルの二人を中心とした穏健派連合は改革過激派へと参加する者たちの抑えとはなっているが、抗議集会そのものを止めることはできない。


しかし、暴力を是とする風潮を抑え、改革過激派の勢力増大に対しては効果を上げており、武器を取ってでも改革を辞さない決心でグレゴルの傘下に集まった者たちも焦りを覚えていた。


「…… 今や、穏健派に改革の流れが引き戻されつつある」


「グレゴル、このまま王政と改革穏健派で合意が為されれば俺たちに日の目は無い」


現実問題として、水面下で幾つかの合意が保守穏健派と改革穏健派を中心に進んでおり、保守側の過激派も連日の抗議運動に折れて、その動きを容認しているのだ。


「それどころか、これまでやってきた暴力行為や破壊行為の責任を取らされる可能性もあるからな……」


そんな事は言われなくても、グレゴル自身が分かっている。中央議会襲撃事件やマーカス司祭暗殺を主導したのは彼自身なのだから……


その鋭い目つきをした黒曜のエルフは片手を小さく上げ、側近たちの言葉を遮り、森の中に密かに集めた約三百余名の弓やサーベルで武装した同志を見渡す。


時間が自分たちに不利に働くとみた彼は現時点での王城襲撃と占拠を画策し、規模の大きな抗議集会に合わせて戦力を整えていた。


「皆、白磁の衛兵たちは抗議集会の対応でかなりの人数が出払っているッ! 今が攻め時だッ! 目標は王城の制圧と世界樹の巫女たちの確保ッ!!」


元々、エルフたちの都市周辺は世界樹を中心に展開される結界で守られているため、王都の常備兵の数は少なく、実戦経験も無いに等しい。


結界の外で魔獣などと戦いながら狩りをする彼ら黒曜のエルフの方がまだましであり、人数的にも常備兵の数をやや上回っているため勝ち目はある。


「事を成してしまえば多くの黒曜の同族は俺たちを支持し、白磁の連中も従うはずッ! ここが正念場だッ!! 皆ッ、征くぞッ!!」


「「「「おぉおおおッ!!」」」」


グレゴルの指揮の下、抗議集会が行われている反対の区画側から王城を目指して、改革過激派の侵攻が開始された……

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