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私はしがないエルフですので……

「人違いです、6匹のコボルトたちと森で楽しく暮らす私はしがないエルフに過ぎません…… イノシシの肉を焼く作業に戻りますので、どうぞお引き取りください」


「えッ!?」


お澄まし顔でスティアがそう言い放ち踵を返す。


「ち、ちょっと待ってくださいッ!」


だが、彼女は待たずに妹の狐火で灯した焚火へと戻っていった…… そして、取り残される第二の謎エルフと俺。


「がぅ、ぐるぅお、うるぁあうッ

(ねぇ、貴方、どういうことですッ)」


こいつもコボ語ができるのか? スティアは少し話せるだけと言っていたが、他の白磁のエルフたちはどうなんだろう。


彼女は知識人の印象を受けるし、一般的なエルフよりも教養がありそうだからな…… まぁ、このショートヘアのエルフ娘も軽装とはいえ立派な騎士鎧を身に付けているので、教養が高そうではある。


「ワゥ、オルゥウ『まぁ、落ち着け』」


「ッ、念話!?」


こちらの第一声が念話だったこともあり、やや混乱をきたす彼女にミスリルの仮面の効果とコボ語が苦手なら大陸共通語でも構わないことを伝えておく。


「それは正直、助かります…… 実はコボ語はあまり普及していない言語ですから、ごく基本的なやり取りしかできないのです」


いや、逆に話せること自体が驚きなんだが…… 侮れないな、白磁のエルフ族。


「…… グォウル、アァクルゥア ウォファ?

『…… ところで、アリスティアというのは?』」


逡巡した後、焚火で皆とイノシシの肉や果実をつまんでいるスティアを見て、何やら頷いたエルフの騎士令嬢が口を開く。


「アリスティア様も貴方たちにかなり気を許しているようですから…… 構わないでしょう。あの方は ”鎮守の森” を統べるエルフの女王です」


…… 知識や立ち居振る舞いから、それなりの立場かと思ってはいたが、また面倒な予感がしてきたぞ。そんな立場のエルフが奴隷商に捕まっていたこと自体、何らかの重大な事件が起こったという事だ。


よし、ここは俺もスティアに倣おう。


「グァオ ウアアァン、グルゥ ヴァウルクァオオゥ……クォッ!!

『きっと人違いだな、俺もイノシシ肉を焼く作業に……くぉッ!!』」


そのまま踵を返したところ、やにわに尻尾を掴まれる。仕方なしに振り向くと、そこには瞳を潤ませたエルフ娘が……


「うぅ、本当に大変なのですよぅ」


「ワフゥ…… グルゥオ ウォフル?

『はぁっ…… あんた名前は?』」


「レネイドです、コボルト殿」


「ワォア、ワォフッ ヴァウルクァオオァン

『じゃあ、とりあえずイノシシ肉でも食っていけ』」


追い返すのも可哀想なので、第二の謎エルフ改めレネイドを引き連れて焚火へと戻る。


「キュウ、グゥウ、ガルオゥ?(兄ちゃん、誰、そいつ?)」


「クルゥアゥ クォウァ、ハムッ「(スティアさんの同族だねぇ、はむッ)」


焼き加減がレアのイノシシ肉を齧りながらのんびりとアックスが呟く、どうやら彼女のことよりも食べるのを優先したようだ。


他方、バスターは目を細めて、レネイドの武装であるレイピアと軽装の騎士鎧、筋肉の付き方などを見流している。大方、あんな細い剣で何かできるんだとか、どれくらいの使い手かなどと考えているのだろう。


「……ぐおるぅあん (……お邪魔します)」

「ワゥ…… (あぁ……)」


腕黒巨躯のコボルトが横に少し動いて場所を空け、レネイドがスティアの対面に座って彼女と視線を合わせるのをチラ見しつつ、俺も妹の隣に座る。


「アリスティア様、いったい何があったのかは分かりませんが…… 一度エルファストに戻ってもらえませんか?状況は未だ逼迫しているのです」


…… 彼女の話を要約するとこうだ。


エルフたちは大賢者モロゾフの書にあった通り、白磁のエルフを頂点に階級社会となっていたが、どうやらスティアが女王になってから多くの改革を進めたらしい。


しかし、白磁のエルフで構成される中央議会に於いて、彼女の急進的な改革案は悉く否決され、勢いづいていた改革派は冷や水を浴びせられる。そして、一部の改革過激派が武器を手に中央議会を襲った事に端を発する混乱が続いているという。


(…… 何か、故郷である砂漠の国アトスの内乱を思い出すな。似たような状況からあれよと言う間に血みどろの状況になって、俺もその中で一傭兵として落命した)


その話を聞いていたスティア、もうアリスティアでいいか、そっちが本名だろうし…… ともかく、彼女は特徴的な笹穂耳をぺたんと寝かせて、重い溜め息を吐く。


「…… マーカス司祭が殺されたのですか、それは荒れたでしょうね。それにデルフィス殺害も改革派に容疑が掛かっていると」


「状況的に断定できる証拠はなかったのですが…… ゴブリンどもの仕業でしたか」


暫時、黙考した後にエルフの女王は問う。


「それで、レネイド、貴方は誰の指示で動いているのです? いくら私の侍従騎士と言えども勝手な行動はできないはず…… 状況的に宰相となったテオドール卿の指示ですか」


「いえ、その御令嬢がデルフィス卿亡き後の保守穏健派を纏めていますので、彼女の働きかけです」


女王が行方不明になった責任を取らせる形で謹慎を受けたレネイド達数名の侍従騎士の下へ件の令嬢の使いが現れて、アリスティア捜索へ加わるように依頼されたらしい。そもそも、謹慎自体が侍従騎士たちを動き易くするためのものだったとか。


「…… 分かりました、戻りましょう。少しの間ですが世話になりましたね、皆さんありがとう御座いました」


頭を下げて短く礼を述べると、アリスティアはすくっと立ち上がる。


…… この辺りにはGが出るし、エルフ二人では心もとない。加えて、一部の利や過激思想に囚われた者たちが自由や平等を謳いながらそれを求める民を煽り、彼らに血を流させるというのはどうにも好かない。


「オフゥ、グゥアオゥル…… ヴル、ウォルァン

『待て、今日はもう遅い…… 明日、出発するぞ』」


「ッ、ありがとう、アーチャー」


全ては状況次第だが、できる範囲で手を貸す事はやぶさかではないからな……

読んでくださる皆様の応援で日々更新できております、本当に感謝です!

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