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3匹、魔導士の少女に尾行される

「グルァッ!!(大将ッ!!)」

「クォンッ!(兄ちゃんッ!)」


魔導士の少女が近づいたことによりダガーとバスターが警戒を強める。まぁ、当然だ…… 二人にはこの赤毛の少女が喋る大陸の共通語が分からないわけだからな。


「グォルッ、ウォアウ ガルクヴォルファ (待て、どうやら害意は無いみたいだ)」


「クゥ、クォンッ! (でも、兄ちゃんッ!)」


自分の前で屈みこむ人間に妹は困惑するが、魔法で治癒してくれると言うのだから、ありがたく受け取ろう。などと考えていると少女はダガーの足首を手に取って触診を始めた。


「ワファッ!? (痛ッ!?)」

「あ、ご、ごめんね。大丈夫?」


 ニイチャン・コイツ・ナグッテイイ?


顔を顰めたダガーは彼女ではなく、こちらを向いて視線とジェスチャーを飛ばしてくるが、俺はゆっくりと首を左右に振って患部を確認する彼女の好きにさせた。


「ん、何とかなりそう…… 汝を苛む苦痛に癒しの光を、ヒーリングライトッ」


赤毛の少女は手を腫れ上がった足首に押し当てながら癒しの魔術を行使する。瞬間的に温かみのある乳白色の光が溢れ、患部に吸い込まれるように消えていった。


「ワゥ、ワフォン?(あれ、痛くない?)」

「よし、これで大丈夫だよ」


彼女はダガーの足から手を放して立ち上がる。


「それと、君も! そっち行くけど、怒らないでね?」


そして、恐る恐るバスターに近付いて腹部に手を伸ばしていく。


「…… グルァ (……大将)」

「ウォオフッ、グルァア (そのままだ、バスター)」


やがて、赤毛を持つ少女の手がバスターの切り傷と打ち身の部分に翳された。


「…… 汝を苛む苦痛に癒しの光を、ヒーリングライト」

「ウォフッ…… クルゥウ (これは……暖かいな)」


「これで、ニ匹とも大丈夫だね」


俺は彼女に向かって頭を下げる。

それを見た赤毛の魔導士は驚いた表情を見せた。


「ッ、お礼なの? 君、凄く賢いね… あっ、私も助けてもらったし、お互い様だよ」


よし、コボルトとしての礼は尽くした。

後は速やかに撤退あるのみだッ!


もう、俺の魔力が底を尽きそうだからな…… 犬人族の魔力量は少ないのだ。


「ガォオン、グルァッ (行くぞ、二人ともッ)」


「ワォン、クォン♪ (うん、兄ちゃん♪)」

「ワフッ (あぁッ)」


俺たちは急ぎ足でその場を後にするが、赤毛の魔導士は自然な感じで後からついてきた。


ザッザッザッ、ピタッ


こちらが歩みを止めると彼女も足を止める。


「ガォフアゥ (お先にどうぞ)」


先に行けと手でジェスチャーを行う。


しかし、彼女はふるふると首を左右に振るばかりだ。

くッ、このまま集落まで連れていくわけにはいかない…… 撒くか?


「ウォンッ!! (走れッ!!)」


俺たちはタイミングを合わせて駆け出した。

女魔導士ひとり撒くくらいは造作もない。


「ち、ちょっと、待ってよぅ、こんなところに放置されたら死んじゃうよッ!」


背後から切実な声が聞こえてくる。


「待ってよッ、うぁッ!?」


 ズサァッ


どうやらまた転んだか……


「……………… グッ (ちッ)」


俺は良心の呵責から足を止めた。


「ウォオンッ、グルァ? (いいのか、大将?)」

「ガォフゥ、ウォフ グァオアウゥ (構わん、妹が世話になったしな)」


溜め息を吐きながら来た道を戻り、倒れ込んだ赤毛の魔導士の前に座り込む。


「あっ……」


都合よく付近に転がっていた適度なサイズの石を手に取り、俺はこの大陸で一番普及している共通語の文字を地面に刻んでいく。


“俺はコボルト・アーチャーだ”


「は? う、嘘ッ、文字を書けるのッ!? しかも大陸の共通語ッ!」


愕然とする赤毛の魔導士に掌を差し向けて名乗りを促す。


「あ、うん」


彼女はキュッとその手を握り、可愛らしく小首を傾げてくる。


「………… グルォオアッ!! (………… 違うだろッ!!)」

「うきゃあッ」


握られたその手を振りほどき、さらに石で地面へと文字を刻む。


“名前は?”


「ああ、そういう意味ね…… 私はミュリエル・ヴェスト、魔導士かつ生物学者よ」


それだけ聞くと俺は立ち上がり、地面にへたり込むミュリエルに手を差し伸べた。


……………

………


私はくすんだ銀色の毛並みを持つコボルトが差し向けるモフモフの手を取った。

もう何もかもが規格外だ、私の常識が音を立てて崩れていく。


文字を書くコボルト? 意味が分からないんだけど…

多分、書けるということは会話が理解できるってことよね。


人類学的には言語によるコミュニケーションの後に象形文字とかが発明されたわけだし、子供も文字を書くよりも先に話すことから発達するもの。


そんなことを考えつつ、先程と同じように彼らの後を歩いていく。


「…… それにしても、三匹とも別個の系統に進み始めているのね」


銀色のコボルトは変異種のハイ・コボルトで、腕が発達した尻尾の長いのが亜種のウォリアーかしら? 脚を怪我していた子は…… う~ん、分からないよ。


「そもそも、私、コボルトの専門じゃないし」


そんな専門の生物学者がいるのかは知らないけど、この機に私がその分野を開拓しようかしら…… はッ!? 今はあまり余計なことに意識を割かれてはだめね。


私は方位磁針で方角を確認して、手持ちの地図に大まかな経路を書き込みながら犬人たちの後を追う。


所謂、コボルト達の “集落” は森の浅い所にあるため、このまま進めば森の外縁部までは出ることができそう。その周辺は彼らが居を構えることから分かるように脅威度の高い生き物はあまりいないはず。


そこまで行けば、地図と方位磁針、遠見の魔法を活用していけば何とかグラウ村に帰れるのかも…… まだ、先は長そうね。

”皆様に楽しく読んでもらえる物語” を目指して日々精進です!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 知的なコボルド、人間にとって絶対に殺さなければならない標的
[良い点] ツイッターから来ました( ´∀`) 犬派の自分としては、非常に興味深い作品です。 読みやすくて面白い作品だと思います。書籍化されたと言うことで、色々と勉強させていただきました。 [気になる…
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