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プロローグ 「謹んで、辞退します。」

見切り発車、書き溜めなし。

 荘厳なる装飾で埋め尽くされた謁見の間に、4人の男女が跪く。各所に龍鱗(ドラゴンスケイル)で造られた防具を着け、両腰にそれぞれ光を放つ聖剣を帯びた勇者の少女。法衣を纏い、十字架の杖を背負う僧侶の少女。軽装の衣服の各所に短剣を括り付け、顔の下半分を隠すかのようにマフラーを巻きつける盗賊の少女。そして、黒いローブに頭からすっぽりと覆われ、腰に分厚い本を提げた魔導師の青年。世の中で勇者パーティと呼ばれる4人は魔王を討ち、王都へと凱旋したのである。

 見事魔王を討ち倒したことに対しアルスヴァーン王国の王、エウラルンド・シュナイド・フォン・アルスヴァーン3世による論功行賞が行われている。魔人族、そして魔物の国と国境を接するアルスヴァーン王国にとっては悲願でもあり、そして国民を憂う国王にとっても魔王の討伐という慶事。貴族出身者が一人しかいない勇者パーティに対して、王城の謁見の間で行われる褒賞授与は栄誉であり、そして国家の威厳を他国に広めると言った外交的な意味合いからしてみても、この授与式は厳かに進められていった。


「勇者フィリアに子爵を授与し、騎士団団長に任命する。家名として聖剣でも有るデュランダルを名乗ることを許す。これからはフィリア・フォン・デュランダルと名乗り、国の繁栄と防衛に尽力せよ。」


 低く、王としての威厳を示すようなその言葉に深く頷く勇者の少女。拝命致します、とその体制のまま声を上げ、その言葉に満足そうに頷く国王は続けて他の二人に対しても褒賞を告げていく。


「僧侶アリステア・エトランゼには引き続き聖女の称号を名乗ることを許可し、大神殿における大司教(アークビショップ)の役職に任命する。」

「盗賊ユフィには盗賊ギルドのギルドマスターとして王都にギルドを開くことを許可する。また、必要な資金は国庫からの出資とする。」


 僧侶と盗賊の少女にも、本人が望んだ褒賞が授与される。どれもが勇者パーティのメンバーを国に縛り付けるかのような褒賞であるが、勿論国家としては功績を挙げた勇者パーティの面々を国に残しておきたい、といった下心も見え隠れするのは当然の事では有り、それを少女達も理解している、と言った表情を浮かべている。

 そして勇者パーティの中で最大の貢献をした魔導師のみを残し、報酬授与は恙無く進んでいく。僧侶の少女も盗賊の少女も褒賞に異を唱えずに終わる。


「最後に、魔導師リカルド・レーヴァテイン・フォン・クロスハートに子爵と領地、そして魔導騎士の称号と騎士団の副団長の地位を授与する。」


 謁見の間に集まるアルスヴァーン王国貴族、そして他国から式典に招待されていた要人が絶句する。爵位と領地、即ち貴族として家を興す事が出来ると言う事はそれほどまでに珍しい事である。領地を持たない貴族とは基本的に一代限りの貴族籍であり、年金として給料が支払われるものの名誉職としての意味合いが強い。しかし、領地を持つ貴族と言う事はその家名が未来永劫引き継がれるということでもあり、国の要人としてこれからも残っていくという事と同義である。

 勇者が領地を持たない名誉貴族であるのに対し、魔導師が領地持ちの貴族となるということには勿論理由があり、魔導師リカルドは抜きん出た実力を持っていることも理由の一つでは有る。しかし、それ以上に重要な理由が名前にも入っているレーヴァテイン(災厄と轟炎の杖)にある。各世代において至高の才能と実力を兼ね備えた魔導師に宿り、その力を振るう杖に選ばれたと言う事実。そして、その名に恥じぬ戦果を挙げ勇者を勝利に導いたという事実。その二つの要素を鑑みた上での褒賞ということであれば最高の褒賞である。しかし、それはリカルドにとって希望のものであれば、と言う注釈がつく。


「受けてくれるな?リカルド・レーヴァテイン・フォン・クロスハート。」


 その王の期待に満ちた声に対しての返答は、ひどく冷めたものであったことはこの場にいる誰もが予想していないことであった。


「謹んで、辞退いたします。」


 瞬間、堰を切ったようにざわめく謁見の間。口々に不敬だ、等と叫ぶ貴族をよそに、リカルドはあっけらかんとした雰囲気のまま続ける。


「不敬と承知で申し上げます。私は自由を愛しており、色々な所を旅しながら魔法の研究に精進したいと思っております。貴族としての地位も、騎士団の地位も私にとっては荷が重く、そして何よりも…。」


 一度口を閉じ、顔を上げて王と目線を合わせるリカルド。この行為こそ不敬の極みと言うべき事では有るが、先程まで声を上げていた貴族も口を閉じ事態を見守っているとても静かな謁見の間に、続けて口を開いたリカルドの声が響く。


「何よりも、勇者たちが弱すぎてこれ以上サポートしたくありません。」


 物凄く嫌そうな表情のまま告げたその言葉に、国王はもう笑うことしかできなかった。そして勇者パーティの3人もまた、苦笑いをする事しか出来なかったのである。

パーソナルデータ


リカルド・レーヴァテイン・フォン・クロスハート

職業:魔導師

性別:男

年齢:21

武器:レーヴァテイン(厄災と轟炎の杖)

特徴:黒髪に蒼目で身長175cmのどこにでもいそうな青年。神託の勇者の一員として選ばれたが…?

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