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天使の仕事ほど嫌なものはない  作者: 大上丈
第三章 悪魔の求愛
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超絶かわいい清楚可憐な大天使美花ちゃんは笑顔の似合うとーっても心優しい女の子!

 そして──


 「ここまでですね」


 ラミアに捕食される寸前、そんな声が天から聞こえてきた。


 直後、俺の元へ隕石が落ちてくる。


 ドゴォォォォォォォォン!!!


 「うわぁぁぁぁ!!??」


 隕石が落ちてきた衝撃波によって、俺の体は勢いよく吹っ飛ばされた。


 しっかり地面から引き剥がされ、宙空に舞い上がり、満を持して木の幹に叩きつけられる。


 「ごっ──あぁ!」


 すでに死に体だった状態からの更なる追加ダメージに、全神経がとんでもない激痛を訴えかけてくる。まさかのオーバーキルに、俺は堪らず発狂しそうになった。


 「が、あぁ……!」


 ──なんだ!? いったい何が起きた!?


 体中に重く響き渡る痛みに苦しみながらも、力を振り絞って顔を上げる。完全にパニック状態となった脳を無理やり動かし、俺は途絶えかけている意識を前へと向けた。


 「なっ──!?」


 もくもくと立ち昇る土煙の中から、翼を生やした少女のシルエットが視界に映る。てっきり夜空に浮かぶ星の一つが落ちてきたのだとばかり思っていたが、どうやら落ちてきたのは隕石ではなく、俺のよく知る小さな天使様だったらしい。


 「あ…………」


 正直言って、今一番会いたくない人物。


 俺のことを何度も全殺ししてやると息巻いているらしい少女が今、目の前にいた。


 「やれやれまったく……散々お膳立ぜんだてされていたというのに、この程度の相手に負けてしまうとは……。情けないですよ、優さん?」


 風に土煙が流され、ニコニコ笑顔の天使が姿を現す。


 天童美花。


 そいつが、見る影もなく爆散したラミアの肉塊を踏みしめながら、こちらに向かってゆっくりと近づいてきた。


 「──ひっ!」


 怖い……超怖い!


 自然と体がガクガクと震えだす。たった今死ぬ覚悟をしたばかりだというのに、天童からは発せられる極悪なオーラに当てられて、胸の内は早くも恐怖心でいっぱいになった。


 なんで……なんでコイツがここにいる!?


 一応助けられたという形なのだろうが、生きた心地が全くしない。


 前情報として、環から天童が俺達のことを血眼になって探していると聞いていたからこそ、正直言って今は安堵感よりも絶望感の方が遥かに強い。


 「て、天童……」


 俺は震える声で、彼女に尋ねた。


 「な、なんでお前がここに……。いや……いったいいつから、ここにいたんだ?」

 「なんで?」


 天童はコテンと首を傾げ、パチリと目を開けた。


 口元は笑みを浮かべているが、目が全然笑ってない。猟奇的殺人者のような笑顔が……超怖いです。


 「おや? おやおやおや、おかしなことを言うんですね優さん。うふふふ、もしかして頭を強く打っておバカさんになっちゃいましたか?」

 「────」


 何もおかしなことなんて言ってないはずなのに、天童は小さな手を口元に当て、全然笑ってない目のまま上品な笑い声をあげた。


 おかしなのは絶対にお前の方だろと言いたいところだが、それを言った瞬間に肉体が爆散するような気がしたので、俺は黙って天童の声に耳を傾けることにする。


 天童は「うふふふふ」と悪霊を思わせるような不気味な笑い声を上げながら、ぎょろりと眼球だけを動かし、池の反対側にいる熊谷の方へと視線を向けた。妖怪かよ。


 「それともアレでしょうか? 向こう側にいる変態ゴミクズクソ悪魔と熱烈な接吻せっぷんを交わして、頭の中がお花畑にでもなっちゃいましたか? あらあらまぁまぁ、それは一大事ですね。これは一刻も早く、再教育してさしあげないと」

 「ちょっ!?」


 ゴキゴキと、これ見よがしに指の骨を鳴らす天童。果たしてその力に満ち溢れた手でいったいどんな再教育を施すというのだろうか。想像するだけで玉袋が握り潰される思いだ。


 「ま、待て天童! 本当にちょっと待て! ごはっ! た、確かに俺は熊谷とデートをしたが、別にやましいことなんて何一つとしてしてない! 信じてくれ!」


 熊谷と接吻なんてしたこともないのに、天童の勝手な妄想だけで玉袋を握り潰されてしまっては堪らない。


 俺は(物理的に)血を吐く思いで、必死になって天童に訴えかけた。


 「はあ、そうですか。『別にやましいことはしてない。信じてくれ』それはそれはなんともまぁ、斬新な遺言ですね」

 「ちょ!?」


 ダメだった。問答無用で遺言にされた。


 天童はニコニコと恐ろしい笑みを浮かべながら、俺の目と鼻の先にまで歩いてくる。


 手を伸ばせば届くというような距離にまでなって、天童はぶるぶると震える俺を覗き込むような形で顔を近づけた。


 どうやらすぐには殺してくれないらしい。


 人差し指をピンと立てて、こんなことを問うてくる。


 「さて、そんな脳内お花畑な優さんに問題です。いったい私は、いつからあなた達のことを見ていたでしょーか?」

 「…………へ?」


 それが、俺の最初の質問に対する答えに繋がるものだと気づいたのは、たっぷり五秒程間抜け面を晒した後だった。


 「────あ」


 頭の中がパニックになる中、天童からの『早く答えろ殺すぞ』という圧に負けて、ようやくのことで俺は口を開く。


 「え、えーと…………俺が死にかけてる時……とか?」


 脳をフル回転させて、彼女の質問に答えた。


 「…………」


 しばしの沈黙。


 天童はニコニコと微笑みながら顔を離し、怯える俺に向かって盛大な拍手を送る。


 「わぁ、すごい! ピンポンピンポンピンポーン! 大正解です優さん! わーパチパチパチ! やっぱり優さんは賢いですね! 正解したご褒美に、顔面キックを差し上げます!」

 「はっ!? ──ぐぼぁ!?」


 次の瞬間、宣言通り本当に顔面にキックを入れられた。


 俺の頭はサッカーボールの如く勢いよく後方へぶっ飛び、背後にある木をドシン! と大量の木の葉を舞い散らさせるくらい強く揺らした。


 「あ──うぅ……」


 未だに首と胴体が繋がっているのが不思議なレベルだ。


 もしかしたら俺は、自分でも気づかない内にもの凄く頑丈な肉体を手にいれていたのかもしれない。


 ……こんな感じで自分の成長を実感したくなかったぜ。せめて意識くらいは飛んで行って欲しかった。


 「うん!」


 天童はそんな満身創痍な状態になっている俺に向かって、やはりニコニコと満面の笑みを浮かべている。


 「やっぱりドMな優さんには暴力これが一番のご褒美ですよね? 喜んでいただけましたか、優さん?」

 「うぅ……」

 「はいっ、喜んでいただけたようで何よりです! 心を天使にして蹴った甲斐がありました!」

 「…………」


 なんか知らんけどうめいてる間に喜んでることにされてしまった。どうやら今の天童には、俺のぐちゃぐちゃになった泣き顔が喜んでいるように見えているらしい。


 マジでメンタル大天使。たぶん、地獄にいる鬼の方がまだ良心的な性格をしていると思う。

 

 ……誰か助けて?


 「どうですか、優さん?」


 当たり前の話だが、当然の如く俺の願いは誰にも届かない。


 天童は俺と目線を合わせるようにその場にしゃがみ込み、ツンツンと、俺の頭を指で小突いてきた。


 そして、聞くまでもないことを楽し気な様子で聞いてくる。


 「痛いですか? 苦しいですか? 早く楽になりたいですか? なりたいですよね、そうに決まってますよね? 安心してください優さん、私がすぐに楽にしてさしあげますね!」

 「あぅ……」


 そう言いながらも、天使の力で治療してくれる素振りは微塵もない。


 代わりに両手をガッと前に突き出し、天童は俺の首を万力のような握力で締めあげた。


 「よいしょっ、と」

 「ごっ、あっ──!?」


 首を掴んだまま、軽々と俺の体を持ち上げる。気道がしっかりと圧迫されて、超苦しいです。


 「思えば、今日は本当に酷い日でした」


 なんか語り始めた。


 「今朝、優さんが私を見捨ててあのクソ悪魔女とデートをしに行ったあと、何があったのかわかりますか? それはそれはもう──語るのも辛い出来事にさいなまれていたんです。私……穢されちゃいました。何度思い返してみても、怒りが込み上げてくるような、そんな恐ろしい目に合ってたんです。優さんがゴミクズ変態クソ悪魔とデートを楽しんでる間に、一人恥辱にまみれたことをされていたんです。──でも………でもでもでも、喜んでください優さん。見ての通り私、ちっとも怒ってないんです。だからそんな怯えたような顔をしなくていいんですよ? そんな顔されたら、まるで私が悪魔のようなことをしてるみたいじゃないですか? 失礼だなぁ。私の今の顔を見てください。にこー。ほら、笑ってるでしょ? 私は天使なんです。だから、とー-っても優しいんです。普通の女の子ならあんな酷い見捨てられ方なんかしたらこうはいきません。もしも私にしたことと同じことを他の人にすれば、きっと優さんは死よりも恐ろしい拷問を受けたのち、生きたまま焼かれ、壮絶な最期を迎えることとなるでしょう。安心してください優さん。私はそんなむごいことは絶対にいたしませんから。なぜなら私は天使だから。天使っていうのは、昔から優しい心の持ち主だと相場が決まってるんです。だから私は、とー-っても優しい心を持ってるんです。なので、喜んでください優さん──」


 ──ゴギン!!


 「────あ」

 


 「絶対に苦しまないよう……一瞬で殺してあげますから♡」



 「────」


 …………いや、これのどこら辺が一瞬?


 そう思いながら、最期に首の骨が砕ける音を聞いて──ようやく俺は命を落とすことができた。

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