熊谷のバックにはヤバイ奴らがいる
「わぁ……あのエイすっごいおっきぃ。かわいい……」
「そうだな」
「あっ見てみて上月君、なんか一匹こっちに近づいて来たよ、かわいい……。えーと、見覚えあるんだけど、なんのお魚だっけ、これ?」
「え? あぁイワシじゃねーのか? 珍しいな、群れからはぐれたのか」
「イワシってあのでっかい集団になって泳いでるアレでしょ? 群れからはぐれるなんてことあるの? 危ないじゃん」
「さぁ? まぁ外敵もいないし、単純に集団になじめなかったとかなんじゃねーの?」
「そっかぁ……。君も学校にいる時の上月君みたいに誰とも仲良くすることができないんだね。かわいそうに……。安心して、ここにいる上月君だけは君のことちゃんと理解してあげられるから」
「うるせぇよ」
某ハンバーガーショップで昼食を済まし、長時間にも及ぶ厳正な話し合いによる結果、俺達は水族館に来ていた。
「もう少し豪華なお昼ご飯が良かったーな」と文句を言う熊谷の手に引かれ、思ったよりも値の張るチケットに軽く驚いてからいざ館内へと入場。入り口付近にある淡水魚のコーナーを鑑賞して、優雅に泳ぎ回るアザラシの写真をたくさん撮って、今は海の中にいるかのような青暗い空間へと来ている。
目の前を沢山の魚たちが泳ぎ回る大水槽。熊谷は意外にも初めて来たらしく、子供のように目をキラキラと輝かせながら水族館を楽しんでいた。
その姿を見て、懐かしく思う。
俺も子供の頃は似たような経験をしたものだ。規模こそ違うが、お世話になっていた人に初めて水族館に連れて行ってもらった時は、今の熊谷と同じように神秘的な空間に目をキラキラと輝かせていたものである。
そして目を輝かせた直後に「あれが高級食材のフグ。あれがサメ。実はフカヒレのフカってサメのことなんだよ、知ってた? あっ、あれがタイ。刺身にしたら淡白な味ながらも奥に甘みが感じられて私好きなんだよねぇ。アジはフライ、イワシは煮つけとかが美味しいよねぇ」とかなんとか、延々と食材としての説明をされてドン引きしていたこともよく覚えている。
あれ以降しばらくの間は食卓に魚が並ぶたびに水槽の中で楽し気に泳ぐアイツらのことを思い出して悲しくなってたんだよな。
特に生きたまま首を落とされ腹を捌かれる姿は、当時母さんからトレーニングという名の虐待を受け始めていた頃だったから、物心の付かない子供ながらにリアルな痛みとして共感してしまって大変だったものだ。
あれから13年、
「イワシと言えば煮つけというよりもやっぱつみれ汁だよなぁ」
「はぁ?」
今では魚を捌くどころか、平気で魔獣を蹴り殺したり不良の手を踏み潰したりしちゃってる俺である。仲間になりたそうに見ているコイツだって余裕で美味しくいただくことが出来るのだ。
俺も昔に比べて随分と大人になったものだなとしみじみと思う。貴様もつみれ汁にしてやろうか?
「何言ってんの上月君、サイコパス?」
だが、そんなことをデート中にぼそりと呟けば熊谷からゴミを見るような目を向けられるのは当然な訳で、手を繋いだままながらもしっかりとドン引きされていた。
「…………」
心外すぎる発言だが、しかし不思議と今だけはこの視線もしっくりとくる。公園を出てからというものずっと普段とは違う質の視線を受けていたからか、ゴミを見るような熊谷の視線に妙な安心感を覚えてしまった。
「なんでサイコパスって言った途端に安心した顔になってんのよ気持ち悪いなぁ……。てゆーか、なんかさっきから妙にそわそわしてるようだけど、どうかしたの? どこかにストーカーちゃんでもいた?」
「いや、そういうんじゃなくてさ」
無論この場に剣崎妹はいない。というか、いたら見つかった瞬間に仲を引き裂こうと突撃してくるだろうから、そんなはずは絶対にない。
俺の感じている視線はそれとはまったく違うものだ。もっと生暖かくて、どこかむず痒いような、とても気持ちの悪いものである。
「今日はなんか全然ゴミを見るような視線を感じないなって思ってな。なんというか、暖かいというか、優しいというか……そういうのがなんかちょっと気持ち悪い」
「えぇ?」
熊谷はコテンと首を傾げ、それからジッと俺のことを見つめて、
「うーん、そうかな? ただの気のせいなんじゃない? 私はちゃんと、上月君のことゴミだと思ってるよ」
「おい」
「だから安心して一緒にお魚を見よ、ゴミ月君」
「誰がゴミ月君だ誰が」
と、優しい笑みを向けられながら新たな蔑称を授かってしまった。ドストレートな悪口に周囲からの生暖かい視線も一瞬で気にならなくなる。
『ゴミ月君』。とても使いやすそうな良い名前だ。環に教えたら明日から一生『ゴミ月』って呼ばれ続けられそうな気がしてシンプルに怖い。
「お前なぁ……」
流石に長年愛用し続けてきた『上月』という苗字を失うのには強い抵抗感を覚えるので、絶対に阻止するべく、俺は最近俺に対して調子に乗りまくっている熊谷に釘を刺すよう少し声のトーンを落とし、それから睨みつけるようにスッと目を細めた。
「可愛いからって何言っても許されるって思うなよ? 間違っても『ゴミ月』なんてあだ名が定着したら、一生お前のこと恨んでやるからな」
「ふふふ、可愛いだって」
しかし、俺の睨みも言葉も不発に終わったのか、熊谷はくすりと笑い顔を見せ、どこか嬉しそうな態度で言葉を返してきた。
睨まれて喜ぶとは……とんだドMちゃんだ。もしかしたら熊谷は俺以上にマゾヒストな性質があるのかもしれない。
……そんなわけないよね。
熊谷は都合よく『可愛い』という発言だけを聞き入れ、俺からスッと視線を外し、それから改めて周囲を見渡し口を開いた。
「まぁでも、マジレスすると今日はちゃんと容姿に気を配ってるからだと思うよ? 上月君性格は最悪だけど、顔つきとしては結構整ってる方だからね。彫像のようにじっとして黙ってればクールなイケメンだと勘違いして、意外と女の子達からモテるんじゃないかな。……まぁ奇跡が起きればだけど」
「…………」
果たしてそれはモテていると言っていいのだろうか。
顔が整っているなんて生まれて初めて言われた言葉だからか、にわかには信じがたい。彫像のようにじっとして黙っていればと熊谷は言うが、それはクールなイケメンではなくただのつまらない陰キャだと思う。
そもそも、まったく動かずにいるのは生物として不可能だし……てゆーか、思いっきり『勘違いして』とか『奇跡が起きれば』とか言われちゃってるしなぁ……。
少なくとも、ここで喜ぶのだけは絶対に違うだろう。
「じゃあ今のままでいいよ、毎日変装すんのも大変そうだしな」
色々と言いたいことはあるが、それらを全てごくんと飲み込んで、俺は平然とした態度で再び水槽に視線を移した。
モテようと努力したところで誰とも付き合う気がないのだから仕方がない。世間一般の男子高校生には必要だろうが、俺にはまったくもって不必要なスキルであり提案だ。これからも容姿に気を配る気は一切ない。
「むー」
そう言い返すと、水槽の中を泳いでいるフグが突然威嚇しながらこちらに向かって近づいてきた。
何気なく隣を見ると、同じくぷくーっと頬を膨らませて威嚇する熊谷の顔がある。どうやら俺は、気づかないうちに彼女らの縄張り争いに巻き込まれてしまっていたらしい。勝手にやってくれ。
とはいえ、がっちりと手を繋いでいるということもあって簡単に逃げ出すことは出来ない。というか、そのために繋いでいるまである。恋愛的な要素は一切なく、主にリードで繋がれている犬のような扱いを公園を出たところからずっと受けている訳だ。
ドキドキして煩わしいったらありゃしない。もう少し俺のことを信用してくれてもいいのに……。別に今更逃げたりなんかしねーよ。
「変装じゃなくて、お洒落ね! そこ間違えないで!」
怒りからか、俺の手を握る熊谷の力がグッと増した。そこ、そんなに重要なことですか?
すでに鋭い一括を受けてしまったわけだが、もちろんこれだけで熊谷の文句が終わるはずがない。ぷくーっとフグのモノマネをしたまま、ジト目で俺を睨んできた。
「てゆーか、私としては上月君にはもう少し頑張ってくれた方が、学校に行くモチベーションが上がって大助かりなんだけどなぁ」
「はぁ?」
何を言い出すのかと思えば、予想以上に自分勝手なことを言われて俺も困惑が浮かんでくる。
「なんでお前のやる気なんかのために頑張らなきゃいけないんだよ、モチベーションなら他のイケメンでも見て勝手に上げてろ」
自分の為ならともかく、他人の為にあんな面倒臭いことをする気には流石にならない。毎朝毎朝メイクして髪型を整えて…………どうせ環や天童にボコられて崩れることになる顔だ、やる気を出したところでさほどの意味はないだろう。
「上月君じゃなきゃ意味ないの」
だというのに、熊谷はなおもしつこく食い下がってきた。
「メイクや髪型はともかく、せめてもうちょっとさぁ……活き活きとした顔してくんない? その顔で適当なことされると、めちゃくちゃ残念がる人がいて私としても超困るんだよね」
「はぁ? 残念がる人?」
割とガチ目なトーンで不満を言われてしまったわけだが……はて、残念がる人とはいったい誰のことだろうか? パッと思い浮かんでくるような人物は出てこない。
「──あ」
誰なのか気になって訝し気な視線を俺が送ると、熊谷は目を見開き慌てて口元を押さえた。それからきょろきょろと視線を宙に彷徨わせ、ゆっくりと俺の方に視線を移してくる。焦りからか、その額からは小さな玉汗が何個も滲み出ていた。よくわからないが、どうやら失言だったっぽい。
「えーと……み、実ちゃんだよ?」
動揺を隠しきれてない声で熊谷は返事をする。それが嘘なのは火を見るよりも明らかだ。
「いや、アイツの残念がってるとこなんか見たことないんだけど」
「実ちゃんだよ?」
「…………」
明らかなのだが、なおも熊谷は剣崎妹を盾に嘘を貫き続けた。
「……いや、だから」
「実ちゃんだよ」
「でも──」
「実ちゃんだよ」
「…………」
「実ちゃんだよ」
「もういいやそれで」
途中までは気になってその人物の特定をしようと思ったのだが、流石にこうも頑なに同じ言葉を返されると心も折れる。
剣崎妹、便利な女だ。俺に好意を抱いているというだけの理由で知らない誰かの秘密を守れたことを、警察官の娘として誇りに思ってほしい。
熊谷の隠したがっている人物が誰なのかは果てしなく気になるところではあるが、これ以上追及したところで暖簾に腕押し。俺は剣崎妹と違ってプライベートを侵害するような悪辣な人間ではないので、大人しく諦めることにした。
熊谷の失言をなかったことにして、「そういえば」と、話題を変える。
「再会した時からずっと気になってたんだが、なんでお前、変装なんかしてんだ? せっかくお洒落してきてたんだし、さっきまでの恰好で良かったじゃん」
なんだかんだでタイミングを逃しうやむやになっていたが、これもこれで気になる話だ。このままスルーし続けても良かったが、せっかくだし聞いてみることにした。
「いや、だからこれは変装じゃなくておしゃ…………あー、まぁ変装かぁ」
流石にこれをお洒落と言い切るには熊谷としても無理があったらしい。ムムムと、失言した時と同様に難しい顔をしていたが、それでも先程隠し通した秘密ほどのものではないのか、特に頑なになることもなく、ゆっくりと訳を話すため口を開いた。
「いやー、これはあれだよ。ちょっとこっちの方が私にとって都合がいいかなーって思って」
「あぁ、なるほど…………まぁ確かに、せっかく俺を見捨てて警察に捕まらずに済んだんだもんな。警察の目を逃れるためにも、変装は必須だったってわけか」
「そ、そこまであくどいことは考えてない!」
なんてことを言っているが、実際見捨てたことに違いはない。熊谷が変装なんてしてる間にどれだけ俺が辛い思いをしていたのか、懇切丁寧に小一時間くらい説明してやりたいくらいである。
熊谷は俺の発言に慌てて周囲を気にするよう視線を動かし、それから誰にも聞かれてないと安心したのか、ホッと胸を撫でおろし息を吐いた。行動が犯罪者のそれなんだよなぁ……。
「も、もう……誰が聞いてるかも分からないのに変なこと言わないでよ。これはね、全然違うの。まぁ確かに、変装して初対面のフリして近づけばさっきのこと全部なかったことにして自然な流れで上月君とのデートを再開できるかなーって思ったりもしたけど…………思っただけだから、全然そんなつもりじゃなかったし」
「ごりごりに実行しといて何言ってんだお前は。てゆーか、それは十分にあくどいことした内に入るだろうが」
ついでに頬を紙やすりで削り、ペットボトルの水で溺死させかけたこともあくどいことの内に入れてやりたい。あくどいことっていうか、軽く殺人未遂だっただろアレ。
「でも聞いて、メインはそれじゃないの」
「はぁ?」
驚くことに、それらは全ては熊谷にとっては『ついで』で行われたものだったらしい。
俺を見捨てたことも、見捨てたことをなかったことにしようとしたことも、紙やすりで頬を削ったことも、溺死させかけたことも、全部が全部、このあと語られる本当の目的のための副産物。
熊谷は神妙な面持ちとなって、その本当の目的とやらを語りだした。
「これにはね、光の届かない深海よりも深いふかーい事情があったんだよ。水族館だけにね」
「まさかそれで上手いこと言ってるつもりか?」
かと思いきや、急に変な前置きをされて出鼻が挫かれる。全然面白くないのに大ウケしたかのようなドヤ顔をされて、思わず手が出そうになった。
ステイステイ。暴力はダメ。ゼッタイ。
自分にそう言い聞かせて、心を落ち着かせる。暴力を振るうのは誰も見ていないところでだ。
「実はね……」
熊谷はスベッたことに対して特にダメージを受けない性質なのか、俺のツッコミを華麗にスルーして、緊張感のある面持ちで話を続けた。なんでまだ緊張感のある演技ができるのか、不思議でならない。
ええい、リア充のメンタルは化け物か!? 真剣な表情をしているので、一応俺も身構えておく。
「……この街にね、私の知り合いがいたの」
「…………」
「…………」
「…………で?」
「以上だよ」
「あっっっっっっっっっっさ!!」
思っていたものの数百倍浅い話が出てきて、思わず声が出た。深海よりも深いとかいう前置きは何だったのか、あまりの浅さに開いた口が塞がらない。
熊谷はそんな俺の反応を見て不服に思ったのか、またもやぷくーっとフグのモノマネをし、文句を言ってきた。
「浅くなんかないし! てゆーか、ただの知り合いじゃないから! 私がこの街にいたら、もしかしたら命を狙われちゃうかもしれないような、そんな知り合い! 命が懸かってるんだよ、こっちも必死だよ!」
バンバンと胸を叩き、必死に自身の主張を訴えかけてくる熊谷。見たところ噓を吐いているようには見えないが、
「どんな知り合いだよそれ? ヤクザかなんかなの?」
どう考えても嘘を吐いてるようにしか思えない。命を狙われるかもしれないような知り合いってどんな知り合いだよ? 素直に信じろという方がどうかしている。
「ヤクザ……」
しかし、どうやら俺の適当に言った発言は意外にも的を射ていたらしく、熊谷は俺からの疑わし気な視線を真正面から受け止めながらも、ふむと考えるように小さく頷いた。
「うん、あながちヤクザってのも間違いじゃないかもね」
「間違いじゃないんだ……」
できればそこは間違いであってほしかった。ヤクザみたいな知り合いなんて、いったいどんな波乱万丈な人生を送っていれば出来るというのだろうか。もしかして産まれた時から? こんな普通に可愛い女の子のバックに裏社会の人間が潜んでるかもしれないなんて嫌すぎる。
これ、熊谷に手を出したらコンクリ風呂に入れられて海の底に沈められちゃう流れなんじゃないの? 「わりゃあうちのお嬢に何手出しとんじゃボケぇ!」って感じで、どこからともなく強面のおっさんが現れたりしない?
熊谷ってクラスでめちゃくちゃモテててたりするけど…………そう考えれば熊谷に好意を抱いているであろう男子達が不憫でならない。うちの学校で殺人事件が発生するのだけはご勘弁だ。
……てゆーか、もしかしなくてもこれ、俺が一番危険だったりしますよね?
コンクリ風呂で海に沈められるのは絶対に嫌だ。
「じゃあ尚更この街に留まり続けるのは良くないんじゃねーのか? そのヤクザみたいな知り合いにバレたら大変だろ」
主に俺が。
例え相手が俺のことを知らなくても、こんな不本意な形でお近づきになりたくはない。熊谷と仲良くしているだけで勘違いされて襲われるとか、それどんな拷問だよ。
「ううん、それは大丈夫」
しかし、そう俺の心配する気持ちが伝わったのか、熊谷はゆっくりと首を横に振って、安心させるように離れそうになっていた手を優しく握ってきた。
「一番隠したかったことはもう普通にバレちゃったし……それでもなんだかんだで始末せずに見逃してくれたみたいだから、この街でデートするのにはなんの問題ないよ。むしろ助けてもくれたしね」
「…………」
いったいそれのどこら辺に問題がないというのだろうか。見逃してくれたとかじゃなくて、泳がされてるって言うんじゃないのか、それ。
「……根本的な問題は何も解決してねーだろうが。てゆーか、おい……これどこからどこまでが作り話なんだよ? ……作り話だよな? いい加減頭がおかしくなってきたんだけど」
これが本当の話だったら大変なことである。ここまでのノリに付き合ってきたが、流石に限界というものはある。ヤクザが出てきたところから頭はショート寸前。混乱の極みに達していた。
「何言ってんの? 上月君の頭がおかしいのはいつものことじゃん。もしかしていつもの奇行に自分で気づいてないの?」
「うるせーよ、お前はお前でもう少し自分の頭のことを心配しろ!」
まるで自分だけは正常だと思っているかのような言いぐさに怒りを隠せない。なんでこの状況でそんなに自分の発言に自信が持てるのか理解に苦しむ。あと俺の奇行のことは今関係ないだろうが。
「失礼な、私はいつだって正常だよ? 今言ったことも全部本当の話だし」
「だからそれが信じられないんだって」
「……まぁ確かに、初対面のフリして近づけばってところらへんは、上月君を相手に心優しい私が考えるはずがないって、信じられないのも無理はないんだけど」
「そこじゃねぇよ! むしろそこだけは100%信じてるわ! あと紙やすりで削られたことも忘れてねぇからな!」
『ピンポンパンポーン』
と、そんな風に俺と熊谷の言い合いが迷惑レベルにヒートアップしてきそうになったのを防ぐように、タイミングよく館内アナウンスが流れた。
『まもなく、本日最後のイルカショーが開演いたします。ご覧になられるお客様は、スタッフの案内に従い、イルカスタジアムの方へと──」
「あっ、もう少しでイルカショーが始まるんだって。行く?」
「行く」
沸き上がってきた怒りはどこへやら…………熊谷と一緒に見たイルカショーは、お互い初めてということもあってかめちゃくちゃ楽しかった。




