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天使の仕事ほど嫌なものはない  作者: 大上丈
第二章 金なしゴールデンウィーク
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天使たちの秘密の話

 「あー、もうホントひっどいめにあったー!」


 酔っぱらった真里菜さんがそう言いながらバタンとカウンター席に倒れす。


 アルコールに強くないのかすでに顔は真っ赤で、普段の大人っぽい雰囲気はどこへやら、その見た目に似合わない子供っぽさを存分に表に出していた。


 こんな風になるのは、執筆作業がはかどっていない時以来である。先月から数えて大体二十回くらい。……結構あるな。どうやらラノベ作家のお仕事は、お酒を飲まなくても子供になれる素晴らしい職業であるらしい。


 見た目は大人、頭脳は子供。その名も、迷作家めいさっかマリナ!


 これを言った優さんと環先輩がバチクソに怒られていたのは、今となってはいい思い出である。


 マスターさんに連行されていったあの二人、ちゃんと生きて帰ってこれるのかなぁ……。あの二人を売った身としては、無事を祈らずにはいられない。


 とりあえず悪いことをしたなという想いはあるので、美味しいものでも作って待つことにした。今夜は寝かさないと言っていたから、思い切って時間のかかるローストビーフに挑戦中だ。腕がなりますね。


 「天童ちゃ~ん、ワインおかわり~」

 「はいはい」


 美味しく出来上がる予定のローストビーフに想いをせながら、子供の相手をする。子供にアルコールはいけないので、注ぐのは100%果汁のぶどうジュースだ。


 「ぷは~!」


 真里菜さんはそれに気づかず、ぶどうジュースをぐびぐびと一息にあおった。酔っぱらいはだまされやすくて助かります♡。


 「はぁ~」


 とはいえ、やはり先程の拷問が脳裏をよぎるのか、真里菜さんはワイングラスを置いて深い溜息をついた。


 「今なら私、すっごい恐いホラー小説が書けると思うわ……」


 恐怖体験はアルコールなんかでは簡単に忘れられないようで、美人なお顔がが台無しだ。私もさっきまでわんわんと泣いていたから、今は鏡を見るのがちょっとだけ怖い。


 「そうですね……私も絵里先生よりも怖い人なんて初めて見ました」


 思い出すだけで震えが止まらない。温厚な人が本気で怒るとあんなに怖いんだって、身をもって実感させられた。


 真里菜さんも気持ちは私と同じなのか、同調したような笑みが返ってくる。


 「あはは、絵里ちゃんは普段から怒ってるようなもんだからね。落差が違うよ、落差が」

 「結局ボコボコにされるのは、怒っていようがいまいが関係ないですからね」


 戦国時代生まれの人もびっくりな程のパワハラっぷり。


 絵里先生は口よりも先に、拳が出るタイプの天使なのだ。


 聞くところによると、それが原因で再起不能になった天使は数多くいるらしい。本人としては時代に合わせて手加減をするようになったと言い張っているが、それを信じている天使は片手の指で数えられる程にしかいない。


 「そうそう、私も絵里ちゃんに何度半殺しにされたことか……。人間の法律が天使に適用されないのが、悲しいところだよね」

 「あはは……」


 実際に人間の法律が適用されていれば絵里先生は間違いなく死刑にされていたことだろう。


 それから死刑を言い渡された絵里先生が反逆を起こし、天界が焦土しょうどと化すのまでがセットだ。


 天界の法律がゆるゆるで本当に良かった。もしかしたら神様も、それを見越して法律をゆるゆるにしているのかもしれない。絵里先生、マジ魔王。


 「まぁでも、意外と慣れるもんだよ? 修行を始めて10年を越えたあたりからは、もう挨拶みたいな感じになってたし」

 「えぇ……?」


 そんな何気なく呟かれた真里菜さんの一言に、私はドン引きした。


 アレが挨拶? 正気ですか?


 「凄いですね……。私、いくら殴られても全然慣れる気がしないんですが」


 それは例えるなら朝起きて顔を合わせた瞬間に戦車砲で顔面を打ち抜かれるようなもの。毎日繰り返し砲撃を受け続けるのが大前提だとしても、やはりたった10年ぽっちで慣れるとは到底思えない。


 いくら天使の能力で傷が治るとはいえ、痛いものは痛いのだ。慣れるよりも先に、心が音を上げると思う。


 ……あぁ、だから多くの天使が再起不能になってしまったんですね。絵里先生が時代に合わせて手加減をするようになったという話も、どうやら本当のようです。


 昔の絵里先生、マジ大魔王。


 令和のコンプライアンス、万歳!


 今の平和な時代に生まれてきて本当に良かったなーと、そんな風に私が内心ほっと息を吐いていると、


 「ふふーん! こう見えても私、寿ことぶき退社する前はラファエルやってたからねー! 大天使という肩書は伊達ではないのだよ、天童ちゃん!」


 『元』大天使である真里菜さんが、自慢げに胸を張ってそう言ってきた。


 寿退社……要するに堕天のことである。


 人間の男とまじわることによって神の怒りを買い、天界から追放されてしまうという厳しい罰。


 なのだが、そういう意味で捉えている天使はいない。


 罰どころか、今はむしろ無限の寿命と過酷な仕事を抱える天使の救済措置として使われていることが多い。


 人間との間に子を成し、無限の寿命が失われる。


 そして天使の仕事から解放され、人間として生きられることを、我々は寿退社と呼んでいるのだ。


 婚活するために人間界に降臨する天使は意外と多い。なんならみんなその為に天界で頑張っていると言っても過言ではない。


 ……少し話がれましたね。


 再び、真理菜さんの声に耳を傾ける。


 「君も毎日絵里ちゃんの悪口言ってたら、すぐに結界術と治癒術をマスター出来ると思うよ? 天童ちゃん天使としての才能ありありだし、100年もすれば大天使の仲間入りくらいは出来るんじゃないかな?」

 「あはは……ありがとうございます」


 本当に何を言ってるんだろうかこの人は?


 絵里先生に向かって悪口? 冗談じゃない……。冗談じゃない!


 流石に私にも、大魔王様に喧嘩を売ってはならないという常識はある。天使として生まれてまだ日が浅いとはいえ、絵里先生の怖さは十分に理解しているつもりだ。


 ていうか、ついさっきその話をしたばかりですよね?


 もしかしなくても、アルコールのせいで記憶飛びました?


 私は頭の上に乗っている絵里先生を落とさないよう注意しながら、真里菜さんに向かって頭を下げた。


 「すみません、確かにもっと上達したいなとは思いますけど、流石に毎日挨拶感覚で半殺しにされるのは嫌です」

 「えー?」


 ハッキリとそう断りを入れると、真里菜さんから不満の声が返ってくる。


 その際、頭の上に乗っかっている絵里先生が爪を立てた。


 ぐさっ。


 立てられた爪はしっかりと私の頭に食い込み、決して軽くない痛みを与えてくる。ハッキリと真里菜さんの提案を突っぱねたのだから、私に八つ当たりをするのはやめていただきたいものだ。


 「安心しなさい、美花」


 絵里先生は爪を立てたままの状態で、私に優しく声をかけてくる。


 本人を目の前にいろいろとぶっちゃけてしまったが、とりあえずそんなに怒っていないことに私はほっと胸を撫でおろした。


 あとは爪が引っ込んでくれたら言うことはない。安心してほしいのなら、まずはその鋭利な爪を早く収めてください、絵里先生。


 「結界術はともかく、治癒術は優を相手に練習をすればいいわ。今日もきちんと体を壊して帰ってきたことだし、わざわざあなたが私の悪口を言って半殺しにされる必要はないでしょう」

 「そ、そうですか……」


 なんとも反応に困る話だった。優さんだってまさか、私の治癒術の練習の為に毎日ボコボコにされているとは思っていないだろうに……。


 とはいえ、まぁそのおかげでだいぶ治癒術が扱えるようになったところもあるにはある。


 優さんがこのことを知ったらきっと激怒して飛びかかってくるので、これは私達だけの秘密の話だ。


 ……あっ、でも考えようによっては結界術の良い練習になるかもしれませんね。


 本気の優さんの拳はそこら辺にいる魔獣なんかよりもよっぽど強力なので、受ける側としてはちょうどいい。


 「またまたー、そんなこと言ってー」


 そんな中、酔っ払いの真里菜さんが無謀にも絵里先生を小馬鹿にするよう笑っていた。


 ぐささっ。


 それと同時に、頭に突き刺さる爪が更なる食い込みをみせる。いい加減頭蓋骨を貫通して脳にも到達しそうな勢いなので、軽率な発言をするのは是非ともやめていただきたいものだ。……殴りますよ?


 真里菜さんはそんな私の内心に気づいていないのか、グイっとぶどうジュースを呑気に呷り、アルコール臭の強い息をぷは~と吐きだした。


 そして、更なる余計な言葉がその酒臭い口から吐き出されていく。


 「本音は天童ちゃんに悪口言われたくないないだけなんでしょ? 絵里ちゃんこう見えて意外とメンタル弱かったりするところあるからねー、ひっく。そんなんだから36000歳にもなって処女なんだよ」

 「────」


 瞬間、空気が凍った。


 まさかの禁句が真里菜さんの口から飛び出してきて、ダラダラと気持ちの悪い冷や汗が私の全身をびちゃびちゃに濡らす。


 真里菜さん、それはダメです! それは絶対に言っちゃダメなやつです!


 その証拠に、絵里先生のしっぽが先程からブンブンと揺られ、私の後頭部を鞭のようにビシバシと叩いていた。


 不機嫌さの表れなのか、ちょっと洒落にならないレベルで痛い。


 どうして絵里先生は私にばかり八つ当たりをするのだろうか。頭の上に乗っかるのは構わないが、拷問をするのなら一刻も早く降りてほしいものだ。


 ──降りて!!


 「私が処女なのは今絶対に関係ないでしょ……あと、師匠のことをちゃん付けで呼ぶのはやめなさい」


 そんな私の心の叫びが通じたのか、ようやくのことで絵里先生は私の頭の上から降りてくれた。


 ぴょんと軽やかな跳躍でカウンター席に降り立ち、酔っ払いの真里菜さんと向き合う。軽く睨みつけるよう目を細めているが、真里菜さんはそんな視線に慣れきっているのか舌を突き出して反抗的な態度を見せた。


 「いーだ、もう弟子じゃないもーん。天童ちゃん、赤ワインおかわりー!」

 「はぁ……まったくあなたって子は」


 そう言って再び私にぶどうジュースを注がせる真里菜さんを見て、絵里先生は疲れたようにがっくりと肩を落とす。


 子供のように振る舞う真里菜さんと、母親のような顔をする絵里先生。血は繋がっていないが、こうやって見るとまるで親子のようだ。


 もしかしたら真里菜さんも、そんな絵里先生だからこそこんな子供らしい態度を見せているのかもしれない。


 短いやり取りしか見ていないが、不思議と師匠と弟子の関係を超えたような、そんな強い絆を感じた。


 「美花」

 「は、はいっ」


 なんてことを考えていたせいか、突然の呼びかけにビクッと肩を震わされる。うっかり落としそうになってしまったぶどうジュースを慌てて持ち直して、私は訓練を受けた軍人のようにピンと背筋を伸ばした。


 絵里先生は一瞬コテンと首を傾げたが、それでも特に気にした様子は見せず、猫の手を真里菜さんに向けながら私に言い聞かせるよう注意してくる。


 「間違ってもあなたはこんな風にならないように気をつけるのですよ。くれぐれも、絶対に、何があっても!」

 「は、はい」


 なんかやけに徹底して念押ししてくるな……。


 真里菜さんはぶどうジュースを飲みながら飄々としているが、絵里先生の顔付きは真剣そのもの。


 家族のような絆は感じるが……うーん、やっぱり私の気のせいだったかもしれない。


 二人の間で、過去に何かとてつもない嫌なことでもあったのだろうか? 少し気になるところだ。


 まぁそれでもこうしても面と向かって軽口を交わしているのだから、仲自体は良好だと思う。絵里先生がマスターさんに店の状況をチクった時は本気で『ふざけんなあのクソババア!』って言って怒ってたけど、仲が良いことに変わりはない。


 そう信じ込もうとしていると、


 「そんなことよりも、 だよ!」


 突然真里菜さんが強めの声を放ち、ダンと音がする程乱暴な手つきでワイングラスをカウンターに叩きつけるように置いた。


 びちゃっ。


 その際に、僅かに残っていたぶどうジュースが跳ね、絵里先生の可愛らしいお顔が赤く汚れる。


 ……うーわ。


 露骨にイラッとした表情を見せる絵里先生から私はそっと目を逸らし、何か拭くものを用意しなきゃなーと探すフリをしながら、こっそりといつでも逃げられるよう準備を整えた。


 一触即発の雰囲気だ。


 気持ち二人から距離を置いて、出来る限りの安全を確保してから、私は改めて真里菜さんの話に耳を傾ける。


 どうせ酔っ払いの戯言たわごとだと思っていたのだが、


 「優君の周りをうろついてる悪魔をこのまま放置してていいの? 今日だって、その子のせいで不良グループに拉致られてボコボコにされたんでしょ? 絵里ちゃんが何もしなくていいって言うから私も気づいてないフリしてるけどさぁ、いくらなんでも迂闊うかつすぎなんじゃないの?」


 思っていたよりも真面目な話に、逃げようとしていた足が止まる。


 優さんにちょっかいを掛ける悪魔をこのまま放置してていいのか? 確かにそれは、私も思っていたことだ。


 流石に迂闊とまでは言わないが、あえて放置を選んだ絵里先生の意見も聞いてみたいところではあった。


 『彼女から気になる匂いがするからしばらく泳がせて様子を見たい』と言っていたが、結果としてボロボロとなった優さんを見て、もしかしたら考えを改めてくれているかもしれない。


 排除しろと命令が下れば、私はいつだって動ける所存だ。というか、優さんにちょっかいをかけるあの悪魔を一刻も早く処理したい気持ちでいっぱいだった。


 サキュバスだかなんだか知らないが、優さんに会うたびに吐き気をもよおすような気持ちの悪いフェロモンばかり出して……。


 ──あの悪魔、絶対に許さない!


 そう思い真剣に耳を傾けていたのだが、


 「はぁ? それのいったいどこが迂闊だというのですか? ボコボコにされたと言っても、優にとってはあんなのただのかすり傷。問題の内にも入りません」


 残念ながら優さんが殺されかけるのは、絵里先生にとって問題にすらならない些細な出来事だったらしい。


 絶対にかすり傷なんかで済ませていいレベルの怪我じゃなかったと思うんだけどなぁ……。


 たぶん、絵里先生は優さんがミンチにされても同じようなことを言うのだろう。


 「それに、いざという時にはこの私が動けばいいだけのこと。何者が相手であろうと、最悪の事態にはさせません」


 きっぱりとそう言い切る絵里先生は素直にカッコイイと思う。思うけど、同時にもう少し問題にしてあげてもいいんじゃないかなとも思った。


 優さんを立派な天使に育てるためとはいえ、絵里先生は少し厳しすぎる。我々天使と違って優さんは生まれつきの特別な力を封印されて生きているのだから、もっと積極的に干渉してもいいんじゃないかというのが私の率直な意見だ。


 ……あとついでに、あの憎きクソ悪魔に一刻も早く裁きの鉄槌を! 早く! 早く!!


 「ふーん、でもさ……」


 真里菜さんも私と考えは同じなのか(違う)、絵里先生にジト目を送りながら不満の言葉を並べていた。


 「優君が環ちゃんよりも先にその子と付き合い出したらどうするの? 冬までに優君と環ちゃんをくっつけろって神託しんたくが下ってるんでしょ? もうちょっと焦った方が良いんじゃない?」


 あまり想像したくない話だが、優さんとあのクソ悪魔がき合う可能性は大いにあると私も思っている。


 色々とこじらせているとはいえ、優さんだって思春期真っ只中の男の子だ。恋愛事に発生しなくても、サキュバスの色香にあてられて、抵抗むなしく体同士をくっつけてしまうこともあるかもしれない。


 …………想像するだけで吐き気がする。


 そんなことは許せない! 絶対に許しちゃいけない!!


 そうですよね、絵里先生!?


 「…………え?」


 私が熱の込もった視線を送ると、絵里先生はポカンと口を開けていた。


 そんなはずないのに、まるで鳩が豆鉄砲を食らったような驚きの表情を見せている。


 …………絵里先生?


 「環ちゃん優君にぞっこんなくせにあんな態度ばっかとってるから、このままだと普通に負けちゃうんじゃないかな? 思いのほか優君もその子に気があるみたいだし……そこんとこどうするつもりなの?」          

 「……は?」

 「いや、『は?』じゃなくて、どうするつもりなのかって聞いてんの?」


 煮え切らない返事に、真里菜さんは苛立ちをつのらせた。そのすぐ傍で、私も苛立ちを募らせる。


 絵里先生はうわごとの様に呟きながら、完全に固まっていた。


 「優が……悪魔の子に気がある?」

 「ねぇちょっと待って嘘でしょフリーズしないでよノープランなの? 神託が下ってるんでしょ? 優君を救うためにはこの方法しかないんでしょ? 気づいてなかったの? マジで言ってんの?」

 「…………」


 無言の返事に、真里菜さんは頭痛を堪えるよう頭を抱えた。私も頭を抱えたい気持ちでいっぱいだ。


 「「はぁ~」」


 私と真里菜さんが同時にクソデカ溜息をつく。


 絵里先生は「み、美花まで……!」と言いながら私達に酷く動揺した視線を送った。


 「そんなんだから絵里ちゃん36000歳にもなって処女なんだよ。こじらせすぎ。恋のキューピットの仕事舐めすぎ」

 「しょ、処女なのは今関係ないでしょ!?」

 「大ありです、絵里先生」

 「なっ──!?」


 私の発言に、絵里先生はあんぐりと口を開けて固まってしまった。二の句が継げないでいるのか、驚愕の表情のまま口をパクつかせている。


 こんな風にショックを受けている絵里先生を見るのは初めてだ。もしかしたら私は今、とてつもなく珍しい光景を目の当たりにしているのかもしれない。


 ……まぁ、そんなこと今はどうでもいい。


 私は制服のポケットに入れていた天使のメモ帳を取り出し、中を開いてカウンターの上に置いた。


 「これを見てください」と言ってトントンととある項目のところを指さし、絵里先生に一つ具申ぐしんする。


 「本日、例の悪魔の干渉によって優さんの悪行ポイントが30も増量しました。これは由々しき事態です。このまま奴を放置していれば、コツコツと貯めてきた善行ポイントが全て無駄になってしまうことでしょう。一刻も早く、奴を排除しなければいけません」


 そう言うと、絵里先生は悔し気に顔を顰めた。


 「──くっ!」


 どうやら言い返せる言葉はないらしい。そんな先生の様子を見て、私は畳みかけるよう話を続ける。


 「優さんを立派な天使に育てるためにも、邪魔する悪魔の排除は是非ともこの私に──」

 「いやでもこれ」


 させてくだい! と言おうとしたところで、思わぬ邪魔が入った。


 舌打ちする私の隣で、真里菜さんが天使のメモ帳に記された優さんの個人情報を真剣な目つきで覗いている。


 「確かに30ポイント増えてるけど…………むしろそれ以上に善行ポイントが昨日に比べて2万増えてるんじゃ」

 「真里菜さんは黙っててください!」

 「えぇっ!?」


 案の定余計なことを言われたので、カウンターの上に置かれたメモ帳を私は競技かるたをするかのように強く弾き飛ばした。


 そして、真里菜さんの甘っちょろい考えを改めさせるため、ビシッと指を突きつけお説教をする。


 「どうせいくら善行ポイントを稼いだところで意味なんてないんですから、たかが2万増えたところで悪魔を許す理由にはなりません!」

 「さっきから言ってることめちゃくちゃだよ天童ちゃん!?」

 「優さんは絶対に環先輩と結ばれなきゃいけないんです! だから、優さんを誘惑するあのクソ女は絶対に殺さなきゃいけないんです!!」

 「お、落ち着いて天童ちゃん!? ちょっ、とりあえず深呼吸しよう! はい、すーはー…………ってうわぁぁぁ待って!! 一応あれでも環ちゃんの友達みたいだから! いきなり天使化して殺しに行こうとしないで!!」

 「うぅ……とうとう美花まで、私のことを……!」

 「そんなところでメンタル病んでないでアンタも止めろぉぉ!!」










 ……なんて、暴走する天使を落ち着かせようとぎゃーぎゃーと騒ぎになる店内にて、怒れるままに弾き飛ばされた天使のメモ帳が、冷たい床の上でひっそりと開いていた。



 上月優──善行ポイント 230860

      悪行ポイント 300045630



 少年を巡る天使たちの苦難はまだ……始まったばかりだ。

 ここまで読んでくださりありがとうございました。これにて第二章『金なしゴールデンウイーク編』完です。


 この作品が少しでも面白いと思っていただけたなら、下記の☆☆☆☆☆をタップしていただけると執筆の励みになりますのでうれしいです。感想やいいねなんかもしていただけるとありがたいです。


 仕事仕事仕事……。仕事が終わればまた仕事。削られる睡眠時間、消滅するボーナス、増える体重……。唯一の癒しは脳死でアニメを見て爆笑すること。恋人なし。友人は一人。その友人とも交流は半年に一回会う程度……。


 なーんて☆ そんなつまらない人間から生まれてしまったのが、この『天使の仕事ほど嫌なものはない』という作品です☆


 誰か僕に元気をください!

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