表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使の仕事ほど嫌なものはない  作者: 大上丈
第二章 金なしゴールデンウィーク
42/79

恫喝する恋のキューピット

 「えっ……け、剣崎さん? どうしてあなたがここに?」


 カランコロンと鳴るドアベルが静まり、一瞬の間が空いたタイミングで、天童が驚きの表情を受かべながらそう呟きを落とした。


 何故だかはよく分からないが、酷く動揺しているご様子だ。


 「俺が呼んだからって、たった今本人がそう言ってたじゃねーか。てゆーか何お前、剣崎妹のこと知ってんの?」

 「知ってるも何も、私と同じクラスの人ですよ。ついでに言うと、席が隣同士だったりもします」

 「へー」


 剣崎妹のことを警戒するかのようにジッと見つめながら、天童はぼそりと小声で俺の問いに答えた。


 どうやら、天童と剣崎妹はすでに知り合いらしい。


 助かる。これは紹介する手間がはぶけるといものだ。  


 「あれ、天童さん?」


 そんな話をしていると、向こうも天童の存在に気づいた。


 剣崎妹も剣崎妹で、驚きの表情をあらわにする。


 「嘘……天童さんも、上月先輩と一緒にここのお店でアルバイトしてたの?」

 「えーと……まぁ、そうですけど……」

 「…………?」


 しどろもどろになりながら受け答えする天童に、少しの違和感を抱く。


 コイツはさっきからどうして、剣崎妹に対して酷く動揺しているのだろうか。


 クラスメイトで席も隣同士だというのにお互い名字呼びのさん付けだし、少なくとも仲良しって訳ではなさそうだが。


 「……へぇ」

 「──!?」


 そんな俺の疑念に答えるかのように、剣崎妹の目がスーッと細められた。


 途端に緊張が走り、ゴクリと唾を飲み込む音が嫌に大きく聞こえてくる。


 「いいなぁ……上月先輩と一緒なんて、羨ましいなぁ」

 「え、えーと……」


 剣崎妹の声音はどこまでも冷たかった。時折発せられる環や天童の冷徹な声音にも決して負けちゃいない、なまめかしくも背筋をゾッとさせるような、そんな冷たい声音だった。


 「うわぁ……」


 環と真里菜さんが、少し離れた位置から剣崎妹を見てドン引きしている。


 言わずもがな、俺もドン引きしている。


 俺達三人はこの地獄のような空気を肌で感じながら、けれど何も言えず、二人のやり取りをただ黙って見守ることしか出来なかった。


 「いや、別に全然羨ましくなんかないですよ? だってほら、私別に優さんと仲良しって訳でもないですし」

 「そういえば天童さん……お昼休みも放課後も、よく上月先輩と一緒にいるよね?」

 「あははは、何言ってるんですか。最近はそうでもないですよ?」

 「──あっ」


 あははとカラ笑いを浮かべながら必死にこの場を収めようとする天童の言葉を聞いて、俺はとある衝撃の事実に気づいた。


 最近疑問に思っていた事柄が思わぬ形で氷解して、胸の内がスーッと空いていく。


 なるほど、あれはそういうことだったのか。


 「お前急に学校で俺に近づいて来なくなったなと思ったら、剣崎妹に牽制されてたのかよ!? うわーそっかそっか、なるほどな! ハハハ、これが本当の毒を持って毒を制すってことだ──ぶがっ!?」


 喜びでテンションが上がると、直後俺の顔面にエルボーが飛んできた。


 先程完治したばかりにも関わらず、俺は鼻血を噴き出しながら勢いよく後方へとぶっ飛ばされる。


 「余計なこと言わないでください、殺しますよ?」

 「ご、ごめんなさい」


 ぼたぼたと落ちてくる鼻血を手で押さえながら体を起こすと、ニコニコ微笑みながらも有無を言わさない、剣崎妹にも負けないほど冷酷な声が俺の頭に降ってきた。


 謝りながら顔を上げると、環と真里菜さんがゴミを見るような目で俺を見ていることに気づく。


 「今のは空気を読まない上月が悪い」

 「壊れた壁の修理代、優君のお給料から引いとくわね」

 「す、すみませんでした」


 更には冷たい言葉を浴びせられ、ちゃっかり減給されてしまった。金のない身としては、真里菜さんから言われた一言が地味にキツイ。


 壁の修理代っていくらくらいになるんだろ? せめて一万円を越えないことを願うばかりだ。


 しかし、俺の空気を読まない一言も、何も全てが悪い方向へと転がるというものではなかった。


 この地獄のような空気を作り出した張本人、剣崎妹が鋭い剣幕をいつの間にか潜めさせていて、先程とは対照的にニコニコと微笑みながらこちらに視線を向けていた。


 「良かった。上月先輩と天童さん、本当に付き合ってるって訳じゃないんですね。私てっきり、二人はもう恋人同士なんじゃないかと思ってました」

 「ははは、私と優さんがですか? 絶対にありえないですよ」

 「そうだぞ剣崎妹。俺が天童みたいなゴリラクソガキ女に好意を抱くはずないだろ。想像でもそんなおぞましいこと考えてんじゃねーよ──ぶげぇ!?」


 直後、俺の顔面に二度目のエルボーが飛んできた。


 先程と同じように俺の体は後方へと勢いよくぶっ飛ばされ、穴のあいた壁が更に大きな穴を作り上げる。


 なんで!? なんで俺今殴られたの!? 天童に思いっ切り同意してたじゃん!!


 訳も分からず顔を上げると、依然いぜんとしてゴミを見るような目を向けている環と目が合った。その隣で、真里菜さんが心底呆れ果てたような顔をして電卓をカタカタと叩いてる。


 「一言二言余計なのよ。バカなんじゃないの、アンタ」

 「天童ちゃんかわいそー。壁の修理代、追加っと」

 「えぇ……」


 よく分からないが、どうやら俺は天童にまた余計な一言を言ってしまっていたらしい。


 嘘偽りのない事実しか言ってないんだけどなぁ……何がダメだったんだろう?


 「それで……結局のところ剣崎さんは、どのような目的でうちのお店に?」


 ボコボコにされた俺に一瞥をくれることもなく、天童は前を向いて剣崎妹との会話を再開させた。


 そういえばどうしてうちの店に来たかは説明したけど、何をしに来たかまではまだ天童と真里菜さんに説明してなかったな。


 「えへへ……」

 「…………?」


 急に頬を染めて微笑みだした剣崎妹に、天童が怪訝けげんな表情を浮かべる。


 真里菜さんも首を傾げて不思議そうな顔をしている中、環だけが疲れ切ったような重い重い溜息を吐いた。


 ポッと紅潮する頬に片手を添えながら、剣崎妹がその答えを口にする。


 「cafeHARMONYの情報を教えてくれたら、上月先輩に、今度デートしてやるよって言われたから……えへへへへ」

 「………………………………は?」


 ピキーンと、何故だかは分からないが……剣崎妹のこの一言で、この場の空気が一瞬で凍りついたような、そんな感じがした。


 自分で提案しといてなんだが、何かマズいことをしでかしてしまったような焦燥感が、背筋を冷たい汗となって流れていく。


 おかしいなと思って天童の方に目を向けると、ゴゴゴゴゴと、天使にあるまじきドス黒いオーラが溢れ出ているような、そんな幻を見た。


 ……あれ? 俺また何かやっちゃいました?


 「……なるほど、よくわかりました」


 天童は一度瞑目してから、静かな声音でそう呟く。


 それから再び微笑みを顔に貼り直して、剣崎妹に対してそっと手の平を向けた。


 「すみません剣崎さん……申し訳ないんですけど、ちょっとだけ待っててもらえます?」


 そう剣崎妹に申し付けたかと思うと、今度は両手を頭上に掲げて、パンパン! と、高らかな音を鳴らした。


 「はいみなさん、集まってください! 集合! 集合ー!」


 その合図を皮切りに、環と真里菜さんが急ぎ足でこちらに駆け寄ってくる。


 迅速な反応だ。この二人はいったいいつの間に天童に調教されていたのだろうか。


 そんなこんなで環と真里菜さんがこちらに辿り着き、四人組の円が完成した。


 ちょうど剣崎妹の視界から隠れられるように環と真里菜さんを配置して、


 「ぐえっ!?」


 次の瞬間、ガシッと胸倉を掴まれる。


 蛙のような悲鳴が出てきたのは、強引に引き寄せられ、拳で首を圧迫するよう持ち上げられたからだ。


 「どういうことですか、優さん?」

 

 天童の鬼のような形相が、鼻先数センチの距離に迫る。


 声を発するだけで吐息が掛かるような距離に、俺の心臓はうるさいくらいに警鐘を鳴らしていた。


 全てを飲み込むような暗黒の瞳が、俺の命を握り潰さん勢いで掌握する。


 何この子!? 超怖い!!


 「なんで剣崎さんとデートすることになってるんですか? は? 殺しますよ?」

 「なんでだよ!?」


 なんか知らんけどめちゃくちゃ凄まれた。


 先程とは一段階も二段階もレベルの違う殺害予告に、玉袋がキュッと締まる。


 絶対にエルボーなんかでは済まされない怒気に、俺の意識は危うく飛びかけた。


 マジでなんでこんなに怒ってんのコイツ!? 怖ーよ! ヤクザかよお前!!


 「ぶえっ!」


 なんでだよと言い返してしまったせいか、今度は万力のような握力で頬を鷲掴わしづかみにされた。


 その反論を一切言わせないまでの圧倒的な理不尽さに、俺は涙を流さずにはいられない。


 ごめんなさい全国のヤクザさん。貴方達なんかよりも、このクソ天使の方がよっぽど悪質でした。


 「なんでも何も、あなたには絶対に結ばれなきゃいけない人がいるんです。他の人に現を抜かすなんて、恋のキューピットであるこの私が許しませんよ」

 「ぶががっ!?」


 いや、これのどこら辺が恋のキューピット? 恫喝どうかつする恋のキューピットなんて聞いたことねーよ!


 そうツッコミを入れたいところだが、しかし口を塞がれて何も言えない。


 なんなら喉ぼとけを拳でグリグリと押し付けられ、圧迫感と痛みで呼吸さえさせてもらえない。


 この瞬間、俺はハッキリと自身の死を覚悟した。


 いよいよ限界が近づき、酸欠と恐怖心で意識が朦朧もうろうとしていく中、


 「ちょ、落ち着いて美花!?」

 「ステイステイ! 優君死んじゃうから!!」


 殺人を隠蔽いんぺいする壁となっていた二人が慌てて止めに入ってくれた。


 流石に環と真里菜さんに天使の力を振るうのは躊躇ためらいがあるのか、天童は俺の体から素直に手を放し、大人しく羽交い締めされてくれている。


 奇跡的に、俺の命は助かった。


 「ゲホッ、ガハッ! し、死ぬかと思った!」


 危なかった。本当に危なかった。


 あと少しでも止めに入るのが遅ければ、俺は間違いなく天童に殺されていたことだろう。それだけは確信できる。


 天童はむせ返る俺をバツが悪そうな表情で見下ろして、


 「すみません、少々取り乱しました」


 プイッとそっぽを向きながらも、殺しかけてしまった俺に対して一応の謝罪をしてくれた。


 ……いや、あれのどこら辺が少々?


 絶対に少々どころじゃ済まされないレベルで怒り狂ってたように思う。


 よく分からないが、どうやら俺は気づかぬうちに天童の逆鱗に触れてしまっていたらしい。


 まさか剣崎妹とデートしようとしただけで、こんなにも殺意を向けられるなんて思ってもみなかった。


 これからは絶対に女の子をデートに誘うのはやめよう。そう心に決意した。


 と、そんな風に俺が四つん這いの姿勢になりながら天童に戦々恐々とした眼差しを送っていると、


 「ね、ねぇ美花……」


 なにやらやたらとソワソワしている環が、ちょんちょんと天童の肩を指で小突いていた。


 「え、えーと……」

 「…………?」


 名前を呼ばれて振り向いた天童に、しかし環はすぐに言葉を続けず、しばらくの間一人でもじもじとしする。


 そして、ようやくのことで口を開いたかと思うと、


 「ちなみになんだけど……その、上月の運命の相手って──」

 「ストーップ環ちゃん! そんなこと、今はどうでもいいでしょ!」


 その先を言わせまいと、真里菜さんが慌てて二人の間に割って入ってきた。


 いや、そんなことって……。俺もちょっとは気になってるんですけど?


 「とりあえず今はまず先に、待たせてる実ちゃんをどうするかについて話し合いましょ?」

 「う、うん」


 環の問いを半ば強引に止めて、真里菜さんは無理矢理話題を元に戻した。


 運命の相手が誰なのかはぶっちゃけ俺としても気になるところだが、確かに真里菜さんの言う通り、今は待たせている剣崎妹の方を優先すべきだろう。


 それに、どの道聞いたところで天童が素直に話してくれるとも限らない。


 こんなことで余計な時間を使うのは、待ってくれている剣崎妹に失礼というものだ。


 「来てもらったのに申し訳ないとは思いますが、彼女にはお引き取り願いましょう。cafeHARMONYの情報提供さえ受けなければ、こちらも優さんを支払う義務は発生しないと思います」


 初めに声を上げたのは天童だった。


 やはりと言うべきか、先程の怒りは嘘ではないらしく、天童としては何が何でも俺と剣崎妹のデートを阻止したいらしい。


 「うんうん」


 それに同調するように、環がコクコクと首を縦に振る。


 おい、お前は俺の味方じゃなかったのかよ。


 まさかの裏切りに俺が驚愕していると、


 「でも、現役の店員さんから得られる情報はかなり大きいんじゃない? せっかくの機会を失うのは、私はちょっともったいないなーって思うな」


 意外にも、真里菜さんは全面的に俺の味方となってくれるようだった。


 「えぇ!?」


 その隣で、ガーンとショックを受けたような表情になる環。


 なんだコイツ……さっきからめちゃくちゃムカつくな。


 環のリアクションに俺がちょっぴりイラッとし始めたところで、天童はあからさまにムッとした表情となり、少し語気を強めた口調で真里菜さんに突っかかっていた。

 

 「……別に、情報なんてなくても経営自体は問題なくできるじゃないですか。そもそもあちらと張り合おうとすること自体無謀な話なんですよ。どれだけ有益な情報を得ようとも、勝つことなんて絶対に不可能です」

 「そうだね。それは私もそう思う」


 天童の意見を素直に認めて……それでも冷静に、淡々と、大人らしく、真里菜さんは天童の言い分を潰しにかかった。


 「だけど、それで何も聞き出さずに追い返すのはちょっと違うんじゃないかな? やけに環ちゃんが向こうを敵視して意気込んでるようだから天童ちゃんも勘違いしちゃってるのかもしれないけど、本来のうちの店の目的はcafeHARMONYに勝つことなんかじゃなくて、このゴールデンウィークを赤字を出さずに乗り切ることだよ?」

 「…………」


 真里菜さんの言葉に、天童は何も言い返さない。


 言い返せないのだ。


 真里菜さんの言っていることの方が正しくて、自分の方が子供の我儘わがままのようなことを言っているのを、天童は十分に理解している。


 それは、悔し気に唇を噛み締める表情が如実に物語っていた。


 抜けてるところもあるが、天童は環と違ってバカではない。


 この状況で何を優先するべきかは、きっと誰に言われなくても分かっているのだろう。


 ただ、納得がいかないだけ。


 この中でバカなのは環だけだ。


 「cafeHARMONYの裏側を知ることによって、うちの経営の何が悪いのか気づくことが出来るかもしれない。お客さんを奪い合っている相手との差別化をはかれるかもしれない。常連さんだけでギリギリ成り立ってるような状態を打破して、新規顧客の開拓にもつながるかもしれない。そうでなくても、私達は全員経営者としてはずぶの素人なんだよ。経営自体は問題なく出来るってさっき言ってたけどさ、このままじゃいけないってことは天童ちゃんだって気づいてるよね?」

 「…………」


 苦虫を噛み潰したような顔をする天童に、真里菜さんは容赦なく自論を叩きつける。


 剣崎妹を返してしまえば喫茶店RINGが危うくなると、まるで人質を取ったかのようにして問い詰めてくる。


 もしかしたらそれは、天童にとっては脅しのように聞こえていたのかもしれない。


 譲れないもの同士を天秤てんびんにかけられ、答えの出せない答えを迫られる。


 どちらを選んでも自分にとって不都合となる展開に、天童は微かに体を震わせていた。


 小さな拳が、ぎゅっと握りしめられる。


 「でも私は……私には、神様から与えられた大切な使命が──」

 「それなら、別に気にしなくても良いと思うわよ」

 「──えっ」


 なんてことないように、真里菜さんは天童の悩みを否定した。


 「だって一日デートしたところで……優君が誰かを好きになるなんてこと、あるわけないじゃない」

 「──!?」


 悩む必要など初めからないのだと、天秤にかけるほどのことでもないのだと、確信に満ちた視線でそう告げられる。


 天童は驚き目を見開いていた。


 その表情を見て、真里菜さんが「ぷぷっ」と噴き出す。


 「天童ちゃんは優君のことを甘く見過ぎ。この子の攻略難易度はSSSクラスだよ? とびっきりの美人がどれだけアプローチしたって絶対に靡かないし、どんな素敵な告白をしたって、問答無用であっさりと振っちゃうような頭のおかしいヤバい奴なんだから」

 

 ケラケラケラと、お腹を抱えながら笑う真里菜さん。


 眦に溜まる涙を指で拭いて、同意を求めるよう俺に視線を寄越よこした。


 「ねっ、そうでしょ? 優君」

 「……まぁ、そうっすけど」


 事実だが、頭のおかしいヤバい奴は余計だと思う。


 俺は至って普通の人間だ。


 とびっきりの美人がアプローチしてきてもなびかないのは、単純に俺から見て美人じゃないからだし、どんな素敵な告白をされたって振るのは、そもそも俺に誰かと付き合いたいという意志がないからだ。


 それを頭のおかしいヤバい奴だなんて、失礼にも程がある。


 母さんや環や円香さんや天童や剣崎妹なんかと、一緒くたにしないでもらいたい。


 「……ほ、本当ですか……優さん?」


 信じられない想いは変わらないのか、天童は胡乱気な眼差しでそう問うてきた。


 ぶっちゃけ信じられようが信じられまいがどっちでも良いが、話をスムーズに進めるためにも、ここは素直に事実だけを伝える方が無難か。


 「あぁ、もちろん。というか実際、今月だけですでに十回は振ってるしな」

 「えっ?」

 「うそ?」

 「マジ?」


 何気なく答えると、三人から似たような反応が返ってきた。


 しかし似ていたのは最初だけで、そこからは三者三様、別々の言葉が返ってくる。


 「何それ、私聞いてないんだけど?」

 「なんでいちいちお前に報告しなきゃいけないんだよ」

 「自分を慕ってくれてる人を十回も振るなんて……。最低ですね、優さん」

 「なんでちゃんと振ってんのに最低呼ばわりされないといけないんだよ。ていうか、結局お前の意見はどっちなの?」

 「うわぁ、実ちゃんのメンタルえっぐぅ……。この積極性が、ほんの少しでも環ちゃんにあったら……」

 「ちょ、ちょっと!? 今はその話関係ないでしょ!」


 悲しそうな視線を送る真里菜さんに環がわーきゃーと騒ぎ始めたところで、天童は静かに瞑目して、覚悟を決めたように一人コクンと頷いた。


 「……わかりました。それでは、cafeHARMONYの情報と引き換えに、優さんの体を売ることにしましょう」

 「お、おう」


 天童のその一言で、騒いでいた環や真里菜さんも、天童に同調するよう首を縦に振った。


 とにもかくにも、結果として俺の目論見は思った通りに事を進めることになる。


 けれど、最後にちょっとだけ複雑な気分にさせられた。


 『cafeHARMONYの情報と引き換えに、剣崎妹に俺の体を売る』


 いや、間違ってないんだけどさぁ……安易に体を売るとか言わないでね?


 なんかもの凄い卑猥に聞こえるから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ