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天使の仕事ほど嫌なものはない  作者: 大上丈
第二章 金なしゴールデンウィーク
40/81

他人の金で爆食いする

 「ふぅ、ようやく席に着くことが出来たわね」

 「…………」


 剣崎妹との一悶着ひともんちゃくが終わり、俺と環は熊谷に案内されたテーブル席へと二人並んで腰を下ろしていた。


 出されたお冷を口に含み、ゴクゴクと水が喉を通っていく音がすぐ隣から聞こえてくる。


 いつもならテーブル席に案内されれば横並びではなく対面して座るところだが、今日は俺の目が使い物にならなくなっているということで、環にはそんな俺を介護するという形で隣に座ってもらっている。


 ……まぁ、本当に介護してくれるかどうかは怪しいところだけど。


 「それじゃあ気を取り直して」


 そんな声と共に、隣からパサリとメニュー表が開かれる音が聞こえてきた。


 メニュー表をスーッとテーブル上でスライドさせながら「上月、何にする?」と、問い掛けられる。


 「…………」


 やはりこのアホ女は、俺の介護をするつもりなど一切ないらしい。


 何にするもなにも、こっちはほとんど何も見えないレベルで視力が低下してるんだっつーの。


 他ならないお前のせいでな!


 「あぁ、そっかそっか。見える訳ないか。私が潰したんだったもんね。ごめんごめん」


 と、そんな風に俺が潰された目のことを持ち上げると、環はあっけらかんとした口調で謝ってきた。


 なめとんのか。


 なんだその適当な謝罪は? いずれ治るものだとしても、俺の目を潰したんだぞお前? 


 もっと反省しろもっと。誠心誠意をもってしてな。


 「なぁお前……俺の目を潰したこと、本当に悪いと思ってる?」


 十中八九悪いとは思っていないだろうが、今は音でしか物事を判断できない状態なので、念のため確認をとってみた。


 本当は申し訳なさそうな表情をしているのだとあわい期待を胸に抱きながら、環の答えを待つ。


 「思ってる思ってる、思ってるって。悪いと思ってるからこそ、こうして隣に座ってやりたくもない介護をやってあげてるんじゃない。悪いと思ってなきゃ、アンタなんか放置してさっさと帰ってるわよ」

 「…………」


 それは、ヘリウムガスよりも軽いトーンで言われた言葉だった。


 とりあえず、まったく反省していないことだけはこれで確信をもって理解することができた。


 テーブルの下で、拳をグッと握りしめる。


 少しでも反省しているようならこのことは水に流してやろうかと思っていたのだが、どうやらその必要は一切ないらしい。


 目潰しの件に関係なく、もともと今日は環の奢りだ。


 なので、俺は情け容赦なく高いものを注文して、環のお財布の中身をすっからかんにしてやろうと決意した。


 メニュー表に何が書かれてあるのかはまったくわからないが、とりあえずといった感じで、環に注文をお願いする。


 「それじゃあ、この店で一番値段の高いやつを頼む」

 「それでいいの? わかった」

 「…………?」


 意外にも、環はあっさりとそれを承諾しょうだくして、すぐに店員を呼び出すベルを鳴らした。


 ちょっぴり驚く。


 一番値段の高いやつなんて言ったら絶対にあーだこーだと文句を言われるものだと思っていたが、まさかこんなにもすんなりと俺の要望が通るとは思わなかった。


 もしかしたら、一番値段の高いものと言っても、せいぜいが1000円くらいのものなのかもしれない。


 これならば一番値段の高いものなんて言わず、全種類のドリンクを全てテイクアウトでと注文した方がいくらか良かったかなと、俺が若干の後悔を抱き始めていると、


 「はーい、ただいまお伺いいたしまーす!」


 ほどなくして、溌溂はつらつとした明るい声を放つ熊谷が俺達の座るテーブル席へとやってきた。


 「いやーさっきはごめんねー三ノ輪さん、うちの店員が粗相そそうをしでかしちゃって」


 開口一番、熊谷は粗相をしでかした剣崎妹の代わりに、申し訳なさそうな口調で環に対して謝罪の言葉を口にする。


 「普段はもっと大人しい娘なんだけどねぇ。今、副店長に事務所でこってりと怒られてるところだから」


 どうやら剣崎妹は俺の知らない間に、店の裏側へと連行されていたらしい。


 今は先程の騒ぎの原因として、副店長さんとやらのお説教を食らっているようだ。


 どうせならついでに環も一緒に事務所に連行されてバチクソに怒られてくんねーかなぁと思う。


 あの騒ぎの原因は環にもあったように見えるし、俺が食事を終えて帰るまで、小一時間くらいしっかりと説教を受けてもらいたいものだ。


 環は俺に対してもこのお店に対しても、もっと大いに反省するべきだと思う。自分が傍迷惑はためいわくな客であるという事を、もっとちゃんと自覚してほしい。


 「あははは。熊谷さんに言うことじゃないかもしれないけど、私は別に気にしてないから、お説教も程々にね」


 なにわろてんねん。


 自分がお説教を受けてないからって堂々としてんじゃねーよボケ。少しは気にしろ少しは。


 俺がこの店の店長だったら間違いなくお前のこと出禁にしてるからな。


 「それでは、ご注文は何になさいますか?」


 なんて、しばらく彼女たちの談笑のようなものが続いてから、ようやくのことで熊谷は俺達の注文を聞いてきた。


 テーブルの上に置かれているメニュー表を持ち上げ、指でスーッとなぞりながら環が注文する品を読み上げていく。


 「えーと、キャラメルラテとミルクアイスのセットを一つ。それと、上月にはこれを」

 「へっ?」


 途端に、熊谷が素っ頓狂な声を上げた。


 目に見えてはいないが、なんとなく熊谷の固まっている姿が脳裏に映る。よくわからないが、もしかして驚いているのだろうか?


 「上月君、マジ?」


 間違いなく驚いているようだった。


 何に驚いてるのかまったくわからない俺は、とりあえず熊谷の声のする方向に顔を向けて問い掛ける。


 「何が?」

 「何がって……。いや、だってこれ……写真で見るとわかんないかもしんないけど、結構な量あるよ?」

 「そうなのか?」


 まぁ一番値段の高いやつってことで注文したわけだから、多少は量も多くなるのかもしれない。熊谷がこうして驚く程なのだから、きっとそれなりの量が運ばれてくるのだろう。


 とはいえ、今日は幸運なことに天童に朝食を食い尽くされたこともあり、今現在とても空腹だ。


 そうでなくても、普段からキングサイズの牛丼を余裕で完食する俺に怖いものなんてない。


 「まぁ今日はまだなんも食ってないし、量が多い分には問題ないだろ」


 天童程ではないにしても、俺だって成長盛りの男子高校生だ。そこら辺のスポーツマンよりも厳しいトレーニングを続けている俺の胃袋のキャパシティを舐めてもらっては困る。


 「そ、そう……わかった。じゃ、じゃあ上月君……これ、食べきれなくてもお持ち帰りは無理だと思うから、その……頑張ってね?」

 「……は?」


 最後にそれだけを言い残して、熊谷はたったったっと駆け足気味に去っていった。


 お持ち帰りは無理? 頑張ってね? どういうこと?


 やけに俺のことを心配してくる熊谷に、一抹いちまつの不安を覚える。


 もしかしたら俺は、熊谷にとんでもない品を注文してしまったのかもしれない。


 「……なぁ環」


 おおかた大丈夫だとは思うが、念のため、隣でスマホを触っている環に問い掛けてみた。 


 「お前、いったい何を注文したんだよ?」


 環はスマホを操作したまま、面倒臭そうな口調で俺の質問に答える。


 「このお店の看板メニューよ。アイスコーヒーとパンケーキのそれぞれ最大サイズ。アンタの要望通り、一番値段の高いやつしたわ」

 「最大サイズって……具体的にはどれくらいなんだよ?」

 「さぁ? 私もよくわかんないけど、まぁだいたい2キロくらいなんじゃないかしら?」

 「2キロっ!?」


 その衝撃的な数字にあんぐりと開いた口が塞がらない。


 思ったよりもずっと多い量を突きつけられて、俺は大口を開けたままあわあわと唇を震わせた。


 「何よ、アンタならそれくらい余裕でしょ?」

 「いや、まぁ食べられなくはないと思うけど……だからって2キロはねぇだろ2キロは。絶対に途中で飽きるぞ」


 牛丼とかステーキとかなら2キロくらいあっても美味しく食べられるだろうが、流石に甘いものを2キロとなるとなかなかに辛いものがある。


 別段甘いものが苦手という訳ではないが、そういうデザート系はどれだけ多くても500グラム程度で控えたいところだ。


 まぁ、あとで環が手伝ってくれるというのなら話は別なんだけど……。


 というか、むしろそれが目的なのかもしれない。


 環は俺と違って極度の甘党だ。自分の注文した品だけでなく、俺の食べ残しを狙っていてもおかしくはない。


 がめつい奴め。絶対に一人で完食してやろう。


 なんて、そんなことを俺がひっそりと決意していると、

 

 「にしても熊谷さん、一年の頃に比べてホント変わったわよね」

 「は?」


 話題が突然、熊谷のことへと移り変わった。


 「垢ぬけたというかなんというか、別人みたいに可愛くなってる。春休みに何があったんだろう?」

 「…………」


 俺と環と熊谷は、一年の時同じクラスだったらしい。


 そのこと自体は新学期早々に熊谷から直接聞かされているのだが、どれだけ思い出そうとしても、一年の時の熊谷の姿を俺は未だに思い出せていなかった。


 妙な話だ。名前はともかく、あんなにも可愛くて優しい女の子の記憶が俺の中に一切ないなんて。


 少しでも接点があったのなら、顔だけは絶対に覚えている自信があるというのに。


 「よくわかんないけど」


 だからこそ、少し気になった。


 熊谷本人も一年の時と比べてだいぶ変わったと言っていたし、昔の熊谷がどんな感じの人間だったのか、半ば興味本位で環に尋ねてみる。


 「そんなに変わったのか、熊谷の奴?」

 「はぁ?」


 すると、環から心底呆れたような声が返ってきた。


 「アンタそれマジで言ってんの?」

 「えっ……」


 若干の怒気が含まれた声に、思わず固まってしまう。


 目が見えなくてもわかる。これ、めちゃくちゃゴミを見るような目をしているやつだ。


 「えーと、まぁ、はい……すみません」


 隣から感じる強烈な圧を受けて、しどろもどろになりながらも俺はしっかりと謝罪の言葉を口にした。余計な言い訳をすれば無駄に酷い目に合わされる。本能がそう訴えかけていた。


 怖い……急に怒る環さん、超怖いっす……。


 環は俺の謝罪を受けて「はぁぁぁ」と、深く大きな溜息をこれ見よがしに吐いた。


 俺は隣でびくびく震えながら、次の言葉を待つ。


 「逆になんで忘れられるのよ? 熊谷さん、一年間ずっとアンタの隣にいた子なのよ?」

 「…………。はぁっ!?」


 数秒間の沈黙を経て、去年の熊谷の姿を思い出した俺は、気づけばcafeHARMONYで絶叫していた。


 「えっ!? うっそ!? あの子が一年前の熊谷って、マジ!?」

 「ちょ、ちょっと!」


 周囲のこともロクに考えず、つい大声を出してしまった俺の腕を環は慌てて引っ張る。


 「バカっ、もっと声量抑えなさいよ!」


 そして、とてもよく聞こえるよう、俺の耳元で小さく叫んだ。


 「あ、あぁ……悪い」


 店の迷惑になっていることにようやく気づいて、俺も環と同様に声のボリュームを抑えた。


 もしかしたら今の騒ぎのせいで、周りから変な注目を集めてしまっているのかもしれない。


 俺は環に対して若干の申し訳なさを感じながら、ひそひそ声で再び口を開いた。


 「でも、春休みデビューしたってレベルじゃねぇだろアレ。まるっきりの別人じゃねーか」


 正直言って、去年の熊谷の姿を思い出した今でも、未だ彼女を同一人物だと思えていない。


 見た目が大きく変わった。それはそうなんだろうが、そのこと以上に彼女の人格が去年までと違い過ぎる。


 「つい二ヶ月前まで俺の顔すらロクに見られなかったような奴だぞ? それがなんで急にクラスの人気者になってんだよ。ありえねーだろ。アイツ、俺とも友達になろうと積極的に話しかけてくるんだぜ?」

 「前者はともかく、確かに後者はありえないわね。あの子が表向きでも上月みたいな奴なんかと友達になりたがってるなんて、天地がひっくり返ってもありえないわ」

 「だろっ!?」


 環の迷いのない肯定こうていに、俺は大きく頷いた。


 見た目を大きく変えることだけならやる気さえあれば誰でも簡単に出来ることだろう。


 だが、人格はそうそう変えられるようなもんじゃない。


 どれだけ頑張って変えようとしても、必ず昔の名残のようなものが出てくるはずだ。


 それが、熊谷からは一切感じられなかった。


 剣崎妹の時とは訳が違う。肉体は同じでも、中身の魂そのものが入れ替わっているような、そんな感じがした。


 何よりも、俺に対して仲良くなろうと積極的に話しかけてくるところが本当にありえない。


 剣崎妹ならまだ好意を抱かれるようなきっかけがあったから積極的に仲良くなろうとしてくるのも理解はできる。が、熊谷とはそんなきっかけのようなものなどもちろんない。


 あるとしても、それは嫌われるためのきっかけだ。


 名前を毎度忘れたり、挨拶をされても狸寝入りをこいたり、制服にゲロをぶっかけたり、スマホが壊れたのを良いことに熊谷からの連絡をガン無視したり、そんなことばかり。


 少しでも好意を抱かれる可能性など、絶対にありえないはずなのだ。


 ぶっちゃけ、誰かから洗脳を受けているとか、何らかの悪魔に取りかれているとか、そんな理由がある方がまだ納得が出来る。


 逆に言えば、そうでなければ納得が出来なかった。


 「なぁ環……もしかして熊谷の奴、本当に誰かから洗脳を受けてたり、悪魔に取り憑かれてたりしてるんじゃないだろうな?」

 「それは私には分からないけど……でも」


 環は一度口をつぐんでから、迷いを含んだ口調で熊谷に対しての印象を語りだした。


 「何でかは知らないけど……彼女、去年も今もずっと嘘を吐いてるようなのよね」

 「嘘?」

 「そう。なんていうか、常に自分を偽ってるっていうか」

 「そんなの、女子高生なら誰だってそうなんじゃないのか?」


 女子高生に限らず、社会を生きる人間は誰しもが自らを偽って生きている。


 他人に好かれるため、あるいは他人に嫌われないようにするために、思ってもない言葉を当たり前のようにその口から吐き出している。


 別に悪いことではない。嘘というものは、社会を生きる上で絶対に必要なものなのだから。


 『このネイル超良くな~い? 私ってば天才じゃね?』『全然良くない。センスない』

 『○○君、明日までにプレゼン用の資料用意しといてね』『絶対に嫌です!』


 なんてことは、思ってても言っちゃいけないのだ。


 センスがないと思っていても『カワイイ! 天才!』と言わなければいけないし、早く家に帰りたくても『わかりました!』と元気よく返事をしなければいけない。


 社会を生きるということは、つまりはそういうことなのである。


 そう俺は思っているのだが、


 「それはそうなんだけど……彼女だけ、他の子達と嘘の吐き方が少し違うのよね」


 どうやら熊谷の吐いている嘘は、俺の想像しているものとは少し違うらしい。


 「言ってること自体が全部が全部嘘って訳じゃないんだけど……なんていうか、雰囲気をいつわってるっていうか、本当の自分を出してないだけっていうか……」


 環はバカなりにも、うーんうーんと悩みながら適切な言葉を探し続けた。


 俺はそれは読み解くため、黙って静かに聞き耳を立て続ける。


 「例えるなら『スパイ活動をしている人』みたいな?」

 「……要するに、自分じゃない仮定の誰かを常に演じ続けてるってことか?」

 「そう、たぶんそんな感じ」

 「…………」


 環には嘘を見抜く能力がある。


 その環が嘘を吐いていると言ったのなら、まず間違いなく熊谷は嘘を吐き続けているということなのだろう。


 明るいキャラを演じ、沢山の人達と交流を深め、嫌われ者である俺に対しても仲良くなろうと積極的に近づいてくる。


 それはおかしなことではない。去年までの自分とまったく違う自分を表に出しているのだから、嘘の雰囲気が出てくるのは当たり前のことだ。


 そこまではいい。


 引っかかるのは今の熊谷ではなく、二ヶ月前までの熊谷のこと。


 大人しくて引っ込み思案で、俺が目を向ければサッと顔を隠してしまうような彼女でさえ、本来の熊谷ではなかったという事実だ。


 明るいでも暗いでもなく、まったく別の人格が熊谷の中に存在している。


 本当の自分を決して表に出さず、それこそスパイ活動をしているかのように、常に偽りの自分を演じ続けている。


 果たしてそんな高校生を普通と言えるだろうか?


 少なくとも、何らかの事情を抱えてることは確かだろう。


 熊谷に対して若干の好意を抱き始めている俺だが、念のためこの話は頭の片隅かたすみに置いておこうと思った。


 ただの俺の妄想である可能性も大いにあるが、明らかに普通の人間と異なる行動を取ってるような奴のことは、常に警戒しておいた方が良い。


 この世は何が起きるか分からないからな。


 特に俺なんかは何故か昔から天使とか人間とかに命をおびやかされることが多いから、人一倍の警戒が必要だ。


 そう考えを巡らせていると、 


 「「「お待たせいたしましたー!」」」

 「うーっわ……」


 複数の店員さんによる明るい声と共に、隣にいる環から何やらドン引きしているような声が聞こえてきた。


 コトリコトリと食器類が置かれていく中、最後にドン! とテーブルに地響きが発生し、そいつが俺のぼんやりとした視界にシルエットして姿を現わす。


 「こちら、キャラメルラテとミルクアイスのセット。それと、当店オリジナルのチャレンジメニューとなる超超超特大でか盛りパンケーキ(5㎏)と、ハイパーXLサイズのアイスコーヒー(2ℓ)となります。制限時間は50分。成功時はお代無料。失敗の場合は8000円のお支払いとなります。申し訳ありませんがこの商品、1.5㎏のアイスを使用しているため失敗してもお持ち帰りは不可となっております。食品の廃棄を少しでも減らすため、出来るだけの完食をお願い致します。それでは心の準備はよろしいですか? チャレンジスタート!」

 「チャレンジスタート、じゃねぇよ! 何の心の準備も出来てねーよ!」


 とんでもないものが突然目の前に現れ、パニックになった俺は堪らず隣にいる環に振り返った。


 「おい環!」


 伝えたい文句が、噴火のように腹の底から溢れ出してくる。


 「誰がチャレンジメニューなんか注文しろっつったよボケ! 確かにこの店で一番高いもんって頼んだけどよ、流石に限度ってもんがあんだろうがこのバカ! なんだこのバカげた量は!? 全然2キロなんかじゃねーじゃねーか! マジでバカなんじゃねーのお前! こんなん絶対に無理に決まって──がぼっ!?」

 「えぇいうるさい! バカバカ言うなバカ! 時間ないんだから喋ってないで早く食べてよバカ! はい次、プリン行きまーす!」

 「もがががが──!?」


 口の中に無理矢理甘いものを詰め込まれ、俺の怒りの叫びは物理的に封殺された。


 そして、


 「はい次、アイス行きまーす!」

 「もががっ(ちょっと待って)!?」


 地獄のような50分間が今、幕を開けた。 

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