人生を振り返って
俺の人生は、初めから終わっていた。
数えること16年と少し前、俺はこの世に人間として生を受けた。
どこで産まれたのか、いつ産まれたのか、そしてどのようにして産まれたのか、俺はそれらのことを一切知らない。赤ん坊の頃の話だから当然だ。
憶えていることと言えばただ一つ、暗くて静かなところで一人、おぎゃあおぎゃあと泣いていたことくらい。
俺は産まれてすぐ、両親に捨てられたのだ。
いらない人間とレッテルを貼られた状態で、俺の人生はスタートした。
捨てられた理由はもちろん知らない。というか、知りたくもない。
親が産まれたばかりの赤ん坊を捨てる理由なんてのは、大抵ロクでもないものに決まっている。知ったところで傷ついて終わるのがオチだろう。ならば、知らないままでいた方が良い。
俺は俺の過去を詮索しないことに決めたのだ。
だからおそらくこれからも、俺はそれらをのことを一生知らないまま生きていくのだと思う。
真実は未来永劫闇の中だ。
とまぁ、そんな風になかなか厳しすぎる人生のスタートを切った俺だが、そんな俺にも救いの手を差し伸べる者がいた。
俺はその人に拾われ、育てられ、今日まで生きていくこととなる。
ただ、それが俺にとって本当に良かったのかどうかは、正直言ってわからない。
もしかしたらあのまま放置され続け、さっさと死んでしまっていた方が幸せだったのかもしれない。
それ程までに、俺の幼少期は壮絶を極めた。
その人は、とても美しい人だった。そして、とても厳しい人でもあった。
始まったのは英才教育。
朝から晩まで勉強に運動、優秀な人間に育つよう文武両道みっちりと叩き込まれた。教育というよりも、修行や訓練と言った方が正しかったかもしれない。
毎日スケジュールを徹底的に管理され、特殊部隊さながらのハードな日々を送っていたことをよく憶えている。
『獅子は我が子を谷へ突き落とす』みたいなことわざをそのまま実践されたりなんかもした。あの時はマジで死んだかと思った。
もちろん、逆らったり逃げ出したりしたことは何度だってある。だがそのたびに待っているのは鉄拳制裁だ。
その人は口よりも先に手が出るタイプの人だったのだ。完全に虐待である。
「プロボクサーの専用サンドバッグって、こんな気持ちなのかな?」って同情した経験も数知れない。完全に病気である。
ただ、そのおかげとでも言うべきか、10歳を迎える頃には俺の体は常人よりも遙かに頑丈になっていた。
近所にいる不良共に金属バットでボコボコに殴られても、割と平気に耐えてしまえたのは我ながら驚いたものだ。
まぁ、だからといって感謝する気持ちは全く湧いてこなかったけれど……。
それだけで済んでいたのならまだ良かっただろう。
そんな異常とも呼べる生活を毎日送っていると、必然的に周りの普通の子供たちとは合わなくなっていく。
つまり、友達が全然出来なかったのだ。
スケジュールを徹底的に管理されているせいで放課後や休日に誰かと遊ぶことなんてほとんどなかったし、そもそも生活感が違いすぎて会話すら成り立たない。
どれだけ賑やかな雰囲気だろうとも、俺が口を開けば必ずといっていいほど空気は凍り付くし、周りからは奇異な目を向けられる。
俺とクラスメイト達の間に見えない壁が完成するまでは、そう時間はかからなかった。
家では地獄、学校では孤独。それが俺にとっての日常であった。
しかし、慣れとは恐ろしいものである。
気づくと、いつの間にかそれらのことも特に辛いと感じなくなっていくのだ。
今ではあの厳しすぎる訓練も平然とこなせるようになったし、どれだけ周囲から孤立していようとも寂しいとすら思わない。
俺は心を無にするスキルを手に入れたのだ。果たしてこれを成長と言っていいのかはわからないけれど……。
俺は一体、何の為にこんなことをやらされているんだろう?
心に余裕ができてしまったせいだろうか。ある日、俺は長年抱いてきた疑問をその人にぶつけていた。
きっと知りたくなってしまったのだと思う。なぜこんなにも厳しくされなければいけなかったのか。なぜこんなにも周囲と違った生活を送っているのか。
答えは以外にも、すぐに返ってきた。
「あなたを立派な天使に育てるためです」
俺はその時初めて、自分が人間じゃない者に育てられていたということを知った。
初めまして、大上丈と申します。
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