「例えば私がこの石を蹴ったとするじゃん?」
「例えば私がこの石を蹴ったとするじゃん?」
「そしたら石が飛んでいくじゃん?」
「で、この石が、そこの本屋さんのガラス戸に当たるとするじゃん?」
「そしたら本屋さんの人がビックリするじゃん?」
「私そういう心配しちゃうから、いつも下みて石を蹴らないようにして歩くんだ。」
ノンちゃんはそう言った。
「・・・心配しすぎでしょ。」
ミカはあきれた。
ノンちゃんはまだ下を向いて歩いている。
ミカが言う。
「例えば人が前から来るとするじゃん?」
「ノンちゃん前見てないじゃん?」
「だからぶつかるかもしれないじゃん?」
「あたしそういう心配してるから『前みて歩いたほうがいいんじゃ』
って言ってるんだけど。」
「・・・心配しすぎでしょ。」
ノンちゃんはそう言った。
ミカは前を向いて歩いている。
ノンちゃんが続ける。
「例えば点検中のマンホールがあるとするじゃん?」
「フタが開いてるのに気づかないで通ろうとしたとするじゃん?」
「そしたら落ちるじゃん?ケガするじゃん?」
「私はそれが不安なんだよね。」
「・・・心配しすぎでしょ。」
ミカはもっとあきれた。
「ノンちゃん、そういうの杞憂っていうんだよ。」
「・・・そのままかえすよミカに。」
ノンちゃんがぼそっと言った。
「あたしのは杞憂じゃないでしょ!」
ミカがムッとする。
「・・・そうかな?」
とノンちゃん。
「そうだよ!!」
ミカは大声で言った。
ミカは続ける。
「例えば下をみて歩いてると前にあるものが見えないじゃん?」
「電柱とか看板とかにぶつかるじゃん?」
「危ないじゃん前みて歩かないと。」
ノンちゃんは、しばらく黙ったあとこう言った。
「例えば前みて歩いてると下にあるものがみえないじゃん?」
「犬のウンチとか猫のウンチとか踏むじゃん?」
「嫌じゃん?そういうの!」
「・・・・・・」
ミカは忠告する気が失せてしまった。
もういいやほっておくことにしよう。そう思った時。
「ああ!落とし物!!」
ノンちゃんが叫んだ。
「・・・500円玉?」
ノンちゃんは得意げになった。
「ほーら!下見て歩いたほうが良いことあるじゃん?」
「落とし物なんだから届けなきゃダメじゃん?」
ミカは眉間にシワが寄っている。
「いいじゃん、このくらい!」
「ダメだって!」
「うるさいな、さっきから。ほっといてよ。」
ノンちゃんがイラつき始めた。
「そっちがいけないんじゃん!」
そしてミカも我慢の限界だ。
どっちが先に手を出したか。
ほぼ同時だったのではないだろうか?
取っ組み合いのケンカになった。
「やったなぁー!」
「そっちこそー!」
2人とも前も下も見てない。
お互いを睨みつけて叩いたり蹴ったりしている。
そこへ1台の自動車がかなりのスピードで・・・。