大分よ「忘れない」
父親との食事も終わった。
これで次回父親に会えるのは年末年始の時だ
けだ。
そんなことを愚痴っていても仕方のないこと。
颯斗はそのことをわかっていた。
ホテルに戻るとまだ8時だった。
食事を始めた時間が早かったからだろう。
颯斗は大浴場に行った。
四日間このホテルに宿泊した。
今日は最後の夜なのだ。
つまり大分も明日出発する。
颯斗は大会での疲れをほぐすようにじっくり
とお湯に浸かっていた。
何とも気持ちよさそうな光景である。
40分くらいは大浴場にいた。
それくらい気持ち良く感じたのだ。
颯斗は大浴場を後にすると、カフェに向かっ
た。
そこで浩二とも約束をしていた。
カフェに行くと、浩二は待っていた。
颯斗は「待った?」と聞くと「いや、俺もつ
いさっき来たところ。」と浩二は答えた。
二人は取り敢えず、コーヒーとケーキを頼ん
だ。
「浩二、お前晩飯なに食ったんだ?」
「俺か?俺は、監督と食べ放題の店に行った
。うまかったぞ!で、そっちはどうだったん
だ?」
「俺は中華料理を食べた。正直父親に流石と
思ったよ。
進路とかいろんなこと話せたし、おめでとう
とも言ってくれたし、いい時間だったよ。」
「そうか。監督が俺にこんなこと言ってきた
。」
「どんなこと?」
「んー、お前はまだまだ強くなることができ
る。
俺が教えられることはなにもない。
後は自分の信じる道を行け、って言われたよ
。」
「正直、嬉しかった。でも悔しいという気持
ちもあった。俺は今回の結果には満足してい
るよ。ただ一つ颯斗、お前に勝てなかったこ
と以外はね…」
颯斗は「そうかでも勝負は勝負だ。
それに浩二も楽しかったろ?
俺も楽しかった。
それでいいじゃないか。
なぜ三位なのに勝ちにこだわる?
これから俺にいくらでも勝つチャンスはある
じゃないか。
オリンピックに行くんだろ?世界陸上に出る
んだろ?なら俺も負けない。
進む進路は違っても学校は違っても、勝負し
続けよう。
選手として終わる時までさ。
それでお互い本当に納得のいく勝負ができる
と俺は思う。逆にそこまでしないで勝負を語
る資格が俺たちにあるか!?」颯斗は少し興
奮して言った。
浩二は「そんなこと分かってる!!
俺が言いたいのは、その…何ていったらいい
かわからないけど言葉には表しにくいんだけ
ど、この高校最後の大舞台でお前に勝つこと
ができなかった。それが俺は悔しいんだ。
でも三位ってことも喜びたい…どうしたらい
いよかわからないよ。」
颯斗は「みんな悩みは抱えてる。人によって
その中身は違うけれども、勝者には勝者なり
の敗者には敗者なりの悩みがある。
俺だって迷ってる。
陸上をこれからも続けていくべきなのか…」
「!?」浩二は驚いたような表情を浮かべた
。
「でも浩二はお前のおかげで俺はこの町村颯
斗は悩みを吹っ切ることができた。
陸上は続ける。勿論勉強もするけどな。」
浩二は「そんな都合良くいくかな?」とニヤ
リと笑った。
そのあと二人で大声で笑った。
そして浩二は「そうだな!そうだな!俺は俺
自身の信じる道を行けばいい。オリンピック
に出ればいい。
陸上に関係を持てればいい。
そのためには、いい大学に行くことが必要だ
な。
よし…進路を少し考えてみるか!」
颯斗は「ようやく悩みが吹っ切れたみたいだ
な。…それじゃ、こんなことを話しにきたん
じゃないんだぞ!」と言って、ジュースを注
文した。
「えーそれでは僕たちのインターハイトップ
3入りを記念して乾杯といきますか!?」
浩二はノリノリで「よっしゃいっちょやるか
!」と言って、グラスにジュースを注いだ。
颯斗は「じゃトップ3入りを記念して乾杯〜
!」
楽しかった。
時間を一時忘れることができたような気がし
ていた。
二人とも。
そしてカフェを出ると、時間は11時を回って
いた。
明日の飛行機の時間は、2時だ。
颯斗はそこまでは大分市内を回ったり、お土
産を買ったりしようと思っていた。
部屋に戻ると、荷造りを始めた。
全てが落ち着いたら12時を回っていた。
明日は朝風呂にも行きたったので颯斗は寝る
ことにした。
朝目が覚めて、時計を見ると、6時だった。
時間もちょうど良かったので、朝風呂にも行
った。
颯斗は朝の大分の景色も綺麗だと初日から感
じていたがこの日は一段と綺麗に見えた。
30分位で出た。
その後朝食を食べるために三階に向かった。
食べ放題だ。
我慢してきた分たくさん食べた。
浩二とは合わなかった。
9時にはホテルを出た。
監督と大分市内を散策してお土産を買った。
少し珍しいものがいいかなと思って普通のも
のとプラスで石鹸を買った。
空港には、12時には入っていた。
搭乗して、席に座り外を眺めた。
するとアナウンスが流れた。
「全日本航空326便羽田行きは、只今より離
陸を致しますので、シートベルトを御着用く
ださい。」と。
離陸をして外を見ると、自分たちの全てを捧
げた大分が遠くなっていた。
颯斗な小さな声で呟いた。
「有難う大分、さよなら大分。俺たちの青春…」
「 有難う…浩二!」