131 モンスターズワールド -魔術師-
「うわーー、あの城どこかで見たことあるーー」
どこか感情のこもってない声で感想を漏らしているのは俺の隣を歩く瑞樹だ。
転職しようと店を出て大通りを歩いているのだが、前方にはフィアの実家でもある王城が聳え立っているのがよく見える。
まさにゲームで見る王城とそっくりだ。
周囲には人族だけでなく、いろんな獣耳を生やした人種も通りを行きかっている。
そしてゲームでは見ることがなかった各種露店が大通りにはひしめいている。
「すげーいい匂いがする……」
匂いに気付いた瑞樹が目を丸くしながら露店をキョロキョロしだした。なんかブツブツ呟きながら周囲を窺う様子はちょっと挙動不審に見える。
「気になるものがあるなら買っていいぞ」
お金ならいっぱいあるしね。
「あ……、うん……、や、でも……」
だがしかし、ブツブツと呟く動きは変わらない。が、意を決したようにこちらを見据えて。
「誠さん……、あれって何の肉だと思います?」
いい匂いが漂ってくる、何かの肉を焼く露店を指さして尋ねてきた。
それは薪を燃やして直火でマンガ肉にトロミのある黒っぽいタレを塗る大男の露店であった。
マジで何の肉か想像もつかない。
「いや、そんなものは知らんが」
俺も考えないこともなかったけどそこはあれだ、考えても無駄ってヤツじゃないかね。
聞いたこともない家畜の名前が出てきたとしてもわかるわけないし。
「食えるんだからいいんじゃね?」
「食べたんだ……」
いやあの怪しいマンガ肉は食ってないけど、この世界の肉なら確かに食ったぞ。
日本の豚や牛に近いものもあったが、まったくそうじゃないやつも確かにあったが、今のところ俺はこうしてちゃんと生きている。
「おう。何も問題ない。っつーかお前が転生させられた世界でも、正体不明の肉食ってたじゃねーか」
「――!? そ、そうだった……」
俺の言葉に顔を青褪めさせる瑞樹。まったく気づいてなかったのかこいつは。まぁそれどころじゃなかったんだろうけど、それはつまり余裕がでてきたってことなのかな。
「着いたわよ。魔術師協会」
ポジティブにそんなことを考えていると、先頭を歩いていたフィアが振り返って左手にある建物を指していた。
そこには相変わらずの街の雰囲気に似合わない日本語で、『魔術師協会』と書いてある看板がかかっている。
入り口に扉はついておらず、常に開放状態だ。
「……ここか」
微妙な表情になりながらも魔術師協会の中へ入って行く瑞樹。
俺たちもそのあとに続いて入って行く。
協会の中はいくつかのテーブルにカウンターと、殺風景な雰囲気だ。怪しげな道具とかは置いていない。
そしてカウンターの向こうにいるのは年齢を感じさせる皺をその表情に刻んだお婆ちゃんだ。他に人はいない。
豊かな白髪の上にとんがり帽子をかぶせたら魔女に見えるだろう。怪しげな鍋をかき混ぜさせれば完璧だ。
「はい、いらっしゃい」
そんなお婆ちゃんがこちらの姿を見つけてすぐに声を掛けてきた。
「ふぇっふぇっふぇ、昇格試験かいな?」
怪しげな笑い声である。
「いえ、魔術師になりにきました」
そんな怪しげなお婆ちゃんに対してしっかりと受け応えをする瑞樹。俺はこのゲームで魔術師を選んだことがないが、瑞樹は違うのかもしれない。
隣から「お婆ちゃんまでゲームそっくり」とか呟く声が聞こえてきてるし。
「そうかえそうかえ。ちょいと待っとれ」
それだけ言うと、お婆ちゃんは後ろの棚から分厚くまとめられた紙束を持ってきて、よっこいしょと掛け声をかけてカウンターの上に置く。
そしてパラパラとめくって最後に記載されたページを開くと、こちらにペンとインクを差し出してきた。
「ほい、ここに名前を書いとくれ」
「あ、はい」
戸惑いながらも言われた通りに名前を書いていく瑞樹。
「はいお終い。これであんたも立派な魔術師だよ。がんばりな」
書き終わった瑞樹に、お婆ちゃんが紙束を片付けながら声を掛けてきた。
「え……、これで終わり?」
「みたいだな」
俺が剣士になったときも名前を書いて終わりだったな。そのあたりは魔術師も変わらないか。
「おめでとう」
「よし、昼飯食ったらちょっとレベルを上げに行くか」
ちょうど昼時で小腹も減ってきたことだ。何の動物かわからない肉でも食ってから街の外へ行こうか。
最初はサクサク上がるだろう。ちょっとでも使えるスキルが増えれば強くなれるかもしれない。
それにこの世界のほうがレベルを上げるのに抵抗がないはずだ。
「じゃあ行きましょうか」
そしてフィアが先導するようにして魔術師協会を出て行くのだった。




