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イレギュラー

 バベル――コロッセウムを創造せし神々が住まう塔――

 その最上階の一室に神々の中でも、特に神格の高い者達が集められていた。集められた理由は明白で、本日開催された闘技で起こった『変異』を、全員に通知するものであった。

 「第二闘技場で、本日開催された闘技において、2人目となる『神殺し』が確認された」

 『それはまことか』『ほぉ、あの武技をふたたび観戦する事が出来るのか』場内にざわめきが起きる。

 不老であるがゆえに感情をもたず、不死であるがゆえに執着心がない彼ら神ではあるが、事がコロッセウム絡みとなると話は別だ。生ある者達が魅せる命を賭けた闘技は、彼らが望んでも決して得られる事のない緊迫感を与えてくれる。

 その中でも、特に神々達の間で噂となっていた存在『神庭 彰』が、デッドして1年が経とうとしていた。

 「新たな覚醒者の名は?」

 「すめらぎあきら

 「どこかで聞いた名だな」

 「3年前――神庭彰と5000万コルと引き換えに絆を結んだ、人間の贄だ」

 『あの時の贄か』神々の間でざわめきが起こる。3年前の一件は、未だに神々達にとっては異質で背徳的で背信的な行為として捉えられていた。

 「捧げられし神聖な供物が、地を這うプレイヤーとなり……今度は神殺しとなって、我らが前に立つとはな……」

 「しかし、我らが望もうとも得る事の決して出来ぬ『死』それを与える事の出来る唯一の存在」

 一瞬、最上階の間に沈黙がおりた。10数年前、神庭 彰が偶然起こした奇跡ともいえる所業は、それまで希望というものをもたず、ただ与えられた役割をこなすのみとなり果てた神々に『死という終着点』を与えれる唯一の可能性であった。

 「だが、扱いは慎重を期さねばならぬ。強いと言ってもしょせんは下等な存在」

 「左様、まだ我らにかすり傷ひとつ負わす事の出来ぬ脆弱な存在」

 「鍛えねばならぬ。我らのためにも」

 魔剣グラム――神殺しが扱う漆黒の大剣。神々の命を奪う事の出来る魔剣には、欠点がひとつだけ存在していた。それは、魔剣を振るう神殺しが、ただの下等な存在でしかないという事だ。せっかくの希望も、使い手が脆弱すぎては話にもならない。

 「良い考えがある」

 タナトス――地上を這いまわる下等な存在に、等しい死を与える神。漆黒の影をまとい、影から覗き見えるは骨。眼窩の奥底に光る赤い光が、周囲の様子を探るように動いている。

 「タナトスか、良い考えとは?」

 場内の視線が、タナトスに注がれる。タナトスは無感情にその視線を受け流すと、静かに口を開く。

 「我が手元に一体、新鮮なプレイヤーの死体がある。これに再び我が命を吹き込み力を与え、神殺しと戦わせようと思う」

 「なるほど。プレイヤーにはプレイヤーというわけか。しかし、元が弱ければ強化した所でたかがしれているのではないのか?」

 周囲からでた意見に、タナトスは歯をカチカチと打ち鳴らし笑う。

 「《《ただの》》プレイヤーならば確かに話にもならぬ。だが、こやつは違う。我らの希望を叶える素質を要する者だ」

 「自信があるのだな?」

 「あるとも。ただし、ひとつ足りぬ物がある。武器だ、魔剣に対抗するための武器が足りぬ」

 タナトスはそう言うと、場内の一角に佇む光の塊へと視線を向ける。

 「アイテール――貴様の所有する聖剣デュランダル、あれならば魔剣グラムに引けをとるまい」

 アイテール――原初の神であり、神格の高い神々の集まりにおいても、更に高位に位置する存在。光その物をまとう姿は、ちょうどタナトスと対極の位置関係にあるかのようにも見える。

 「たしかに、デュランダルであれば魔剣とも対等に打ち合えるだろう……いいだろう、タナトスよ持っていくがいい」

 アイテールはそう言うと、タナトスに向けて光を指す。光の先が更に輝き、一本の剣を形作っていく。形作られた剣は宙を滑るようにタナトスの元へと飛んでいくと、漆黒の影の前でその動きをピタリと止め、宙に浮いたまま動かなくなってしまった。

 「聖剣と魔剣の打ち合いか。また、楽しみがひとつ増えるな」

 神々はささやき合う。彼らにとっては、すべては余興でしかない。たとえタナトスの目論見が失敗しようと、何も変わらないだけの事でしかない。

 「タナトス、汝に神殺しの件を一任する。我が聖剣デュランダルをもって、神殺しを更に一段高い位置へと押し上げよ」

 「任せろアイテール。我が考え、このデュランダルによって成就するだろう。朗報を待つがよい」

 タナトスはそう告げると、音もなく聖剣と共に姿を消す。神々はそれを見届けると、次に開催される闘技の事に話題を移し、どうすれば更におもしろくなるかなどと議論を始め出した。

 バベル――コロッセウムを創造せし神々が住まう塔――

 神々は熱狂する。自分たちには決して得られぬ生と死の躍動に、歓喜し感動する。

 不老であるがゆえに感情をもたず、不死であるがゆえに執着心がない。

 そんな彼らの議論は、遅くまで続いた。

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