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急変

 ファリアさんが去っていって砦の中の慌ただしい雰囲気から切り離された二つの月の淡い明かり照らされた修練場に俺は佇む。

 増幅ブーストの発動時間は終了し、今まで感じたことの無い疲労感が身体を襲う。


 これ普通に身体を鍛えて無かったらそのままぶっ倒れるレベルの疲労感だな。


 その場に座り込み汗を拭っても視界の隅に未だ消えずに存在する[YES]と[NO]の文字を見る。


 しかし何なんだろこの表示。不確定因子の解析とか新しい称号が獲得できるって聞こえてきた声とこの表示画面。


 しかしそんな事を考えている間も鐘は打ち鳴らされ続けて依然として騒然としているフィフス砦。こんな中で思案に没頭出来るほど図太い神経はないので後回しにしようと腕時計の魔道具を切って砦に戻る。


 修練場から砦にはいると準戦闘体勢を取るような指示が有ったようで鎧を制服の上から装着して慌ただしく行き交う傭兵団の皆の姿が見て取れた。その中で見知った戦士達が目の前を横切ったのを見つけて、その一人に何が起きたのか聞き出す。


「さっきの早鐘って何かの合図ですよね。砦周辺で何が有ったんですか? 」


「おぉ、ルイトか。何でも次の砦を築く候補地の一つで遠征組の奴らがオークの襲撃にあったらしいんだ。今回のオークの集団は相当数いるらしくて候補地が奪われてしまったらしい。これから候補地の奪還作戦の為、今お偉いさんが奪還部隊の編成してるところだよ」


 俺が遠征について行くときに世話になった戦士が丁寧に説明してくれる。どうやらこの砦やその周辺と言うより遠征地で何かあったようである。


 このフィフス砦に在籍している傭兵の総数は約五百人程度だろう。そのうち駐在の砦防衛組はせいぜいその五分の一程度であろう。


 他は次期砦候補地の確保を目的とする遠征地駐屯組とその予備として順次入れ替え要員の待機遠征組。


 候補地周囲や砦周辺を十人一組の分隊単位で巡回して偵察を行う偵察組。


 各部隊運営の裏方業務の衛生管理、物資の補給輸送、整備や建築を行う後方支援組が存在する。


 そのような内訳で各砦は運営されている。


 もちろん新人は最初からずっと同じ軍役に付いている訳ではなく約二ヶ月単位で各部隊に就いて学び、そののち個人の適正なども考慮し入団から約一年たつと各適正に応じた役に自と進んでいく。


 大陸スターズ開拓の最前線は大陸中央へ各勢力がある現象が発生することにより二の足を踏んでいる事で、中央外周の陣地争いをしている状態であるのは以前話をしたと思う。


 星の形を上から見て右側上部に位置する人族の陣地の両隣は星の天辺の位置にある魔界領域と右下の大森林連合領域の二ヶ所で他の勢力よりも頻繁に接触する。


 フィフス砦はその魔界領域のある北西方面に設置されている砦の一つで、距離にして早馬で二日程度の間隔に他の砦も存在している。


 何せ巨大な大陸での陣取り合戦なので一ヶ所に集中させるよりも広範囲を網羅し襲撃があった場合、状況に合わせて迎撃か撤退を即座に決めてその後、周辺の戦力を集め反撃に出るのが最近の人族の戦略なのだそうだ。その数はフィフス砦も含めて全部で三十七ヵ所。


 ずいぶんと犠牲を最小限にする理に叶った戦略だなと思ったらこれは過去に転送してきたアキヒト様が考えた戦略らしい。


 すべての周辺戦力を合わせれば約一万八千人弱が現在の北西方面の人族最前線の部隊と言うことだ。


 ちなみにその後方にはかつての最前線の砦を中心として発展した街があり傭兵団上がりの本当の人族の本戦闘部隊の軍部が控えている。


 よく考えられていると思う。つまり傭兵団の存在意義には開拓最前線の戦闘部隊と言う本筋以外に鳴子の仕掛けの役目もあるって訳である。


 領域拡大の進みは遅いがローラー作戦で確実に領域を広げられ他勢力の反撃が有ってもフォローが早く被害は最小限で済むって訳だ。


 転送者が降りて有利だった人族だったが、そう簡単に陣取り合戦で勝利出来た訳では無い。


 他勢力にも転生者と言うチート能力持ちの元地球人が現れていたため、この世界の戦争は戦略的な意味では飛躍的に進化したがお陰で混迷状態の様相を呈しているみたいだ。


「今回の作戦は両隣のニューレイ砦とヒューイット砦も参加するらしいぞ」


「おお、ならあの“炎帝”とか“風の刃”が参加するのか? 」


「馬鹿、各砦の序列一位が出張る程ではないだろう。うちらの砦の筆頭“飛翔剣”のヴァーンさんが砦の防衛を他に任せて出るって言ってる様なもんだぞ」


「え、うぅ。万が一なんかあったら砦守れるかな? 」


 目の前の知り合いの戦士が情報をくれると、その隣にいた別の戦士がそれに興味を示し話に入ってくる。そのまま各砦の有名な上級戦士の二つ名で盛り上がっている。


 各砦には必ず“二つ名”で呼ばれる上級戦士が存在する。それぞれ卓越した身体能力と剣技。そして戦闘に有利な能力を持っている傭兵達で俺のように目立ちたくない人間と真逆のラノベ詳説の主人公顔負けの活躍を見せている存在達である。


 ん?能力。そこでハッとする。


 この世界の強さはステータス内の各種の数値やレベルだけで決まっていない。その下に記されたモノがある。“魔法”然り、中には“気操術”や“瞬間記憶”なんて能力アビリティを持っている戦士もいる、そうなのだ。最初にステータスを見たときに気付いた項目。


 俺のは確か《能力》と《属性》共に“未設定”の文字。そして何の効果があるかすら不明な《称号》に踊る今の俺の状態を如実に表している“精神の迷子”と“異世界からの漂着者”の称号。


 先程のファリアさんと稽古していた時に聞こえた声。

今までと違うことをやったと言えば種族能力トライブアビリティを使用した事である。


 想定するに異世界の不確定因子とはこの世界の人間の肉体なかに入ってしまった俺自身の精神こころの事じゃないのか?そう考えると辻褄が合わなくないか。


 これは一度、検証する必要があるだろう。俺も上手くいくとチート能力が手に入るかもしれない。


「とにかく、お偉いさんが情報共有の為にこれから状況説明するらしいから鎧を着こんで食堂に集合した方が良いぞ」


 俺から話しかけた戦士が修練場の出入り口に黙りこんで突っ立ってしまった俺に気付いて、何か考え事しているのだろうと察してくれたらしく、そう言いながら他の傭兵と一緒に食堂の方へと去っていく。


「……あぁ、ありがとう」


 考え事をしていたせいでボーッとしていたらしい俺は空返事になりながらもお礼をその戦士に言ってから鎧を着るために更衣室へと向かう。


「ルイト、どうやら私たちは居残り組らしい」


 その途中でさっき別れたファリアさんに出会った。なぜか膨れている。そして俺に早口で文句を不満げに話してくる。


 どうやらいの一番に状況説明を聞きに行って、奪還部隊に立候補してきたらしいが分隊長の任を任されたばかりなので分隊メンバーすらまともに決まってないのに何しに行くのだと諭されたらしい。


 ちなみにファリアさんはこの砦の筆頭戦士のヴァーンさんの所に行ってきたみたいだ。元々はこのヴァーンさんの分隊メンバーにファリアさんは所属していて俺と初めてあったあの森で新人研修の総指揮を執っていたのがヴァーンさんだったのだ。


 確かにあのヴァーンさんがファリアさんの暴走を容認するとは思えない。一見するとほんわかした日溜まりが似合う貴族の優男風の美丈夫だがその発言力と納得させる実力、雰囲気から主人公オーラ全開で勇者ってこんな人のイメージを地で行ける人だ。


 ヴァーンさんの元分隊メンバーは皆優秀で例えば副隊長を勤めていた人は、今は新設された別の砦の筆頭戦士の一人になってたりこの砦の遠征地指揮官やらをやっている人物達で構成されていた。


「それヴァーンさんの方が正論だと思いますけど」


「ルイトは私を擁護してはくれないのか! 」


 副隊長の任を引き受けると認めた俺だからかもしれないが、ファリアさんがここまで身近な相手にはおしゃべりな人だとは思わなかった。


 んー、日頃の生徒会長の様な凛々しい姿を見てるからかギャップが激しくてこの姿は想像できなかった。


「とにかく鎧を着て食堂に行くんですよね。ファリアさんは俺の着替え見たいですか?」


「それでだ……ん。あぁ、いや、違うぞ。そんなんじゃ……。いや、スマン。話し込みすぎて男子更衣室前まで一緒に来てしまうとは。私は食堂に先に行ってるぞ」


 熱く語ってくれたファリアさんは俺が立ち止まり扉に手をかけて冗談を言うと辺りを確認して顔を赤くしてそそくさと話を切り上げて食堂の方へと走って去っていったのだった。


「さてと奪還部隊への参加は無くなったとは言え、そこまで積極的に交戦してこなかった魔界混合軍がこのタイミングで候補地を大多数で襲撃したのが気になるんですけどね」


 頭の中で色々な可能性を想定して見る。あり得ない突拍子もない可能性から考えてみて信憑性が高そうな理由まで脳内でシュミレートしていく。

 漠然と行うのも時間がかかるので今まで蓄積した情報から除外キーワード、関連キーワードを入れ想定を研鑽していく。


「いや……まさかね」


 一つ、このタイミングで進軍してきたオークの軍勢。それを人レベルの知性を持って行っている場合の最悪の展開が頭をよぎって直ぐに振り払う。


「念のためヴァーンさんにでも話しておくか……」


 俺は鎧を着けて頭をポリポリかいて遠い異国と化した日本の地で読み耽っていた歴史小説やラノベ小説の中の戦略の一つを思い浮かべて苦笑いして食堂へと向かうのだった。

 

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