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戦闘終了のちのち……

 撃ち抜かれる俺。


類斗ルイト、嘘も立派な戦略だったよねぇ」


 スマートフォンを破壊しても消えない戦車、気付くべきだった。相手には複製コピーを創る能力もあったことに。


「……俺にわざと弱点の様に見せて、気付かせる為の罠だったのか? 」


 月華を刺し貫いたスマートフォンが霞がかり消えていく。


「そこまで制限あったらチート能力にしては弱いと思わない? 手に持つ意味なんてないし。実際は身体のどこかに装備していれば良い訳さ」


 一撃で致命傷を与えず、説明して喜ぶシノブ


「何てこった、俺が読みを誤ったのか……」


 撃たれた脇腹を押さえて片膝を付き、苦し気に見上げる俺の目に勝ち誇ったシノブが映る。


 元々、性能が違うんだから策でその上をいけなければ至極当然の結果に帰結する。


「因みに、更に絶望をあげるね。この戦車を具現化しても僕はせいぜい半分程度の魔力(電力)消費しかしてはいないよ。最大値は更に上にある」


 手に持つ拳銃を空に向ける。


 拳銃が変型する。禍々しいほどの存在感を放つ巨大な剣がシノブの手に握られる。


 この倍、そんな出鱈目な力だったのか?


 チート能力を甘く見ていた。これは確かに常識を上回る力だった。


「重くないのかソレ? 」


類斗ルイトは、この能力の具現対象範囲も勘違いしているみたいだね。これは性能の具現。つまり武器の具現はもちろん、ソレを使う人物キャラの能力すら具現させられる」


 どうやらシノブは、あの剣を使うキャラの能力を自分の力として具現化して取り込んでいるみたいだ。


 明らかな読み違い。

 魔力の許容力から接近戦闘なら優位という読みも外れていたのか。


「それじゃバイバイ。類斗ルイト


 その大きな剣が振り落とされる。


 最も単純に真上からの一刀両断のコース。


 その剣は、俺を真っ二つに切り裂いて、戦車の装甲にすら傷を刻む。


 激しい轟音。

 シノブの白いフード付きのローブが衝撃風にはためく。


 時間にして数秒にも満たない時間、空気すら沈黙する。


「……妙だね? 」


 振り降ろした剣の感触に違和感を持つシノブが俺から見てとれる。


「遠慮無さすぎで怖いぞ、シノブ


 既におおかたばれてしまっただろう。軽くシノブに声をかける。


「さっきからの妙なズレ。不思議に思っていたけど、これは認識を誤魔化す能力? 」


感づかれた様だが俺の実際の居場所は掴めて無いようで、辺りをキョロキョロ見渡しながら喋ってくる。


「最初からお前の事をなめてなんかいないよ。単純な罠で圧倒できるとも思っていない」


 気付いたのは戦車に乗り込む直前。


 シノブの罠の嫌らしい所。


 かつての知った仲である俺の思考を、実に読んだ罠を張ってくる。俺なら気付いて当然のわざとらしい隠蔽をして、真実を装って張られる罠。


 最初の逃走中、屋根に隠れながら此方を監視している目に見せかけたゴブリン。


 あの光景が脳裏をよぎった。


 引っ掛かる前に気付いて良かったよ。今回の読み違いは文字通りの致命傷だった。


 俺の“陽炎かげろう”の能力の結末が、もしも生身だったらその場で終わっていた。


「居場所が特定出来ないなら、“確率を変える”だけだ」


 シノブの周りに具現する人の拳大はあろう蜂の群れ。


「やっぱりそう来るよな」


 シノブと俺の共通点。


 地球から召喚された特殊な能力を持っている人種と言う点。


 この世界にきた時に与えられたモノでも、習得したモノでもない本来の能力を使用してくる。


「お前のとっておきの切り札で、かつ弱点。切るならここだと思ったよ」


 シノブの異能、それはある一定の空間の確率操作だ。


 確率を上げればとにかくあらゆる確率が上がる。逆に下げればあらゆる確率が下がる。


 例えば命中力を百パーセントに上げれば、どう攻撃しても自分の攻撃は必ず当たる。


 だが、同時に相手の確率も上がっているため自分への攻撃が当たる確率も上がるのだ。


 下げた場合も同様の現象が発生する。


「まぁ、ソレも含めて既に詰んでいるんだよ」


 収納から開放して解き放つのは、先程集めた砲撃の爆風。


 二度の砲撃を受けた時の爆風を至近距離でシノブ目掛けて撃ち出す。


 認識を誤魔化す“陽炎”の能力下で、俺の居場所へと直接攻撃するために空間の命中確率を上げたシノブ


 この空間の命中確率が上がっている中での爆風の開放。


「俺お手製の風魔法ってところかな? 」


 突風に近い砂塵を含んだ爆風がシノブ目掛けて収束して襲いかかる。


 周りに具現化した蜂の群れもその暴風に飲まれ、薄い半透明の羽を加速した砂塵の礫に撃ち抜かれ吹き飛ばされる。


「くっ、こんな魔法も使えるのか? 」


 咄嗟に身体を庇うように両手を顔の前で交差して耐えるシノブ


 でも、これだけで終わらない。


「炎の槍はおまけだ。とっておけ! 」


 再度、作り出した五つの炎の槍をその風に乗せる。加速して螺旋を描きシノブに襲いかかる。


「うざけるな。自分の異能が仇になってやられるなんて認めないぞ!」


 シノブの着ていたフード付きのローブが火と風によってズタズタに切り裂かれて燃えていく。


 ゲームアプリなどの登場人物キャラの性能までも具現化出来ると聞いたからには、遠慮する事は無いだろう。


 よほどのチート能力でもなければ能力発動中のシノブは殺せない。


 発動する要の電子機器を破壊する、もしくは停止させなければこの能力は無敵に近い。


「スマートフォンってさ。熱に弱いのは知ってるよな? 」


 無駄に擬似的な火魔法を使っていた訳ではない。真夏の炎天下の下のカメラ機能を起動中の強制終了を思い出したのだ。


 最近のスマートフォンは良くできていて温度が上昇した機体は、機体のダメージ軽減のため必要最低限のアプリ以外を強制終了する。


「――つまり、こう言うことさ」


 この場で一番容量の多い戦車の像が霞み、消えていく。


 その場には焼けてズタズタになったローブ、その下のボロボロに裂かれた服装を着た半裸のシノブと俺だけが残った。


「しかし、異常だろ。確かに俺にも事情が有ったとは言えないがしろにしたのは悪いと思ってる。でもな……」


 温度上昇でアプリの強制終了状態のシノブに近付いていくが、その項垂れる妙に艶かしい姿に俺は違和感を覚える。


「お、女の子……だと? お前、本当にシノブか? 」


 そこにいたのはガリガリの俺を慕ってくれていた色黒の少年ではなく、栗色の髪の似合う美少女であった。


 いや、確かに中性的な顔立ちで美少年ではあった。少年漫画の主人公をはれるスペックは当時から有るなとは思っていた。


類斗ルイト。まさか今まで僕の性別に気が付いていなかったなんてオチないよな? 」


 声は確かにシノブ本人でした。へ、お前、女だったの?

などと声に出せる気配は微塵もない。


「おぅ……」


「僕がお前を好きだったって事も知ってるよな? 」


「!! お、おぅ」


 性別に関しても、好意に関しても今のこの瞬間まで気付いていなかった。だが、言える雰囲気ではないオーラがシノブから立ち上る。


 なんだろ、戦闘終了後の今の方が俺はシノブに追い込まれてる気がする。


「何で、僕の前から姿を消した癖に異世界の人間とイチャラブしていやがるんですか? 」


 敬語? が怖いですシノブ……さん。


『現在の状況を打開する唯一の方法が見つかりました。実行しますか? 』


 ん? この状況で世界の声さんが声をかけてくるだと?


 今までにこんなことは無かったのだから、よっぽどの危機的状況に俺は追い込まれているのだろう。


 これまでのシノブの行動と心の動きを推測してみる。


 チーム空中分解→俺が姿を消す→引きこもる→神様に召喚される→俺を見つける→異世界人と仲良くしている。がシノブのおおまかな行動である。


 心の動きは、俺が好意に返答するまで待つ→いきなり消えて保留状態→他の人間なんて興味ない→なんでこんな異世界ところで、のほほんと生活してやがんだ→極めつけは他人とのイチャラブ見せつけやがって!! 潰す。の流れだろうか?


 ヤバい。なんかいろいろと怨恨の理由が思い付いて脳内で大運動会を開始している。


 これは世界の声さんの言葉に乗っかる以外、打開する策はないのではないのだろうか?


 迷ってる時間にもシノブの不機嫌で危険なオーラはこの空間に立ち込めていく。


 俺の爆弾トラウマ付きの異能を使う必要がなかった事を喜んで安堵できるような空気はそこにはなかった。


 考えている余裕はない。


 答えは[YES]です。世界の声さん。


『承認を確認しました。これより平野ヒラノ 類斗ルイトの身体を自動操縦オートコントロールに切り替えます』


 ん? 自動操縦だと? 何を俺はやらされるのでしょう?


シノブ、ゴメン」


 俺の口から自然と流れ出る謝罪の言葉。そしてボロボロの衣類の代わりに俺の上着をかけて抱き寄せる。


 ちょっと待て。なんだこの展開は? 任せた俺が間違っていたのか?


「お前がいなければ! こんなに難しくなかったんだ。僕は僕のままでいられたんだ。なんでこんな世界で生きてるんだよ!」


 優しく抱き締めた俺の肩でシノブが堰を切ったように泣き出した。


 俺にはラブコメのチートでも搭載されているのかな?


 現実世界ではほとほとモテなかったので、現実感を全く感じない。


 そんなこんなとパニックになっている精神体の俺をよそに、自動操縦状態の身体はシノブの泣き顔を自分に向け、無言のまま顔を近付ける。


 ちょ、え、おま……。


 そのまま重なる唇と唇。


 あぁ、なるほど。シノブの心を落とす。


 えぇ、唯一無二の打開策ではありますね。……ってこれ今後、どうすりゃ良いの?


 それ以降、世界の声さんの返答は返っては来なかった。

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