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相成れない二人

 対峙するのは過去に因縁を持つ二人。


 異国など通り越して異世界での再会、実に三年ぶりだろうか。

この世界の神様とやらの要らないお節介のせいである。


「これで、本当の久しぶりの再会だな。シノブ


類斗ルイト、何故ここがわかった。何故ここにいる? 」


 ゆっくりと軍部本部の現実世界と電脳世界の境界を越えてファリアさんの元へと歩を進める。


「ファリア、まだ何もされてない? ファリアのまま? 」


 レイラがファリアさんに近づく。


 どうやらシノブは、この場で俺が居場所を突き止め、現れるのを予想できなかったみたいだ。


「さっき俺が聞いた質問するんだな。答えると思うか? 」


 種明かしをするつもりはない。その答えに短く息を漏らすシノブ


 いや、上手くいって良かった。


 あのファリアさんが拐われる時、そこまでのシノブとの空間を隔てた会話から、腕時計型の魔道具を相手が持っていないと断定し考えた策が功をそうした。


 魔道具を使った通話テレフォンとポインター機能を使って相手の場所の特定と諜報を同時に行ったのだ。


 もちろん、ファリアさんには囁きモードで、出来れば相手から聞き出したいことをいろいろとお願いしていた訳だが、必要以上の収穫を得てくれた。


 さすがはやれば出来る女性である。ちょっと捨て身すぎて俺が慌てた感はあるが、シノブ相手なら上出来だ。


「昔からお前は必要な情報以外を切り離しすぎなんだよ、あと相手を過小評価する癖は治ってないみたいだな」


 異世界で産まれた日本刀――月華を片手に、かつての知己に向き合う。


 相手のチート能力と居場所を特定出来て、不利は一気に縮まったが、シノブのチート能力が思った以上にヤバい。


 ファリアさんが怒鳴っていたが、俺も違った意味で怒鳴りたいぐらいだ。


 電脳具現、あらゆる電子機器の性能を世界に具現する。だと?


 冗談がきつい。現在のパソコン、スマートフォンを初めとした電子機器で出来る事は非常に多い。


 例えばさっきシノブが言っていたカメラ機能と画像編集ソフトの合わせ技。


 [カメラで対象を撮影する]が必要最低限の条件だろうが、“画像として取り込む”という性能を具現すると、現実世界の本人も取り込めると言うことに他ならない。


 その取り込んだ本人を編集して加工したのが幻影ゴブリンの群れということだ。


 更にあのアドナイの街の蜃気楼も、複製コピーや透過度を調整すれば簡単に再現できる。


 透過度の調整で実体化すら思いのまま、他にも応用でいかようにもなりそうな、まさにチートと呼ぶにふさわしい能力アビリティである。


 シノブの発想力の如何によってだが、理想的な選択である。


 欠点をあげるとすれば、この世界には電子機器と呼ばれる道具が少ないと言うことか?


 この腕時計型の魔道具ぐらいしか使えそうなモノはない。


 電子機器は異世界に持ち込んだシノブの私物で賄っているみたいだ。


 その辺はシノブの性格が幸いしてくれて、今のところは何とかなりそうだ。


 深く白いフードを被ってその場に立つシノブ、そしてその側にいるやたらと露出の多い女性を見る。


 シノブの他にも敵がいたのか。SMプレイの女王様みたいな格好だな、何よりエロい。


 ファンタジー世界のボンテージ風の衣装、背中の蝙蝠のような翼、漫画に出てくるような蛍光ピンクの髪。そのウェーブした髪から見える小さい角。


 あれだ、俺の中のサキュバスのイメージである。

ちょっとその胸元のメロン並みにたわわに実った二つの双球に目のやり場が困る。


 俺も健全な男の子だ。こう官能的な肢体の女性がいたら目がいってしまう。


 うーん、サキュバス恐るべし。


類斗ルイト、やっぱり油断しちゃいけない相手だね。ちょっと昔を思い出しちゃったよ僕」


 そんな事を考えてる俺に、いきなりの出現に驚いているが、どこか嬉しそうに笑いながらシノブが声をかけてくる。


 側に控えるサキュバスのお姉さんも、スッと立ってシノブに習う。


「この流れだと僕のチート能力わかっちゃったかな。もう少し遊べると思ったんだけどな」


 俺の側にもレイラとファリアさんが寄り添い立つ。


 数は二対三とこちらが有利だが、相手はサキュバスとチート能力持ちの異世界人である。


 シノブの悪い癖を指摘したが、俺にも悪い癖はある。


 俺は基本的に先陣を切るタイプではない、相手の動きを見てからでないと戦略を組み立てられないのだ。


 シノブだけならまだ良かったが、その側のサキュバスの戦闘に及ぼす影響と能力アビリティが計算できない。


「ファリアさん、レイラとあのサキュバス相手にしてくれません? 」


 二人に声をかける。俺は俺でシノブのチート能力の性能を確認する必要がある。


「うむ、しかし良くあれが夢魔族サキュバスだと見抜けたなルイト」


 ファリアさんはすぐに承諾してくれる。


 その辺は俺も不思議に思っているのだが、この異世界の種族や魔物は基本的に元の世界の俺の基礎知識をそのまま流用できる容姿や能力を持っているのだ。


 日本語が通じると言うご都合主義に続いてのご都合主義である。


 立場や設定に微妙な違いがあるが、明らかな差違は今のところない。有ったとしても誤差の範囲で有ろう。


 この辺、俺の知り得ない事情が見え隠れしている。


 神様辺りに聞けたらこの疑問は解決するかも知れない。


「あれが夢魔族サキュバス。魔界の主要魔族の一つじゃん」


 レイラもその肉食獣のような目をサキュバスに向け、俺の依頼に承諾してくれる。


 ファリアさんは武器が取り上げられていたため、俺の“収納”から予備用の剣を取り出して渡してある。


「仕方ないわね。もっと楽できると思ったんだけど……」


 ファリアさんとレイラがそれぞれの獲物を構えると、実にあっさりとサキュバスはその相手をするべくシノブの側から少し離れる。


「ノイン、まさかとは思うが遅れをとるなんてないよね」


 気軽にサキュバスのお姉さんノインにシノブが声をかけている。


 魔族の一種、夢魔族サキュバスね。魔界勢力の主要種族か、強いのかな。


 こんな事なら、もう少し他勢力の主要種族の詳細に目を通しておくんだった。


 俺から二人に頼んだ手前、二人の実力を信じる他ない。


 このチート能力持ちのシノブの相手をしながら、あちら側の戦闘を気に出来るほど甘い戦いになるとは思っていない。


「俺が作ったチームが解体したから、お前は引きこもりになったのか? 」


「引きこもりだと、う、うるさい! 僕らを置いて勝手に消えたくせに!! 」


 ゆっくりとファリアさんとレイラの戦う場からシノブを連れて離れていく。対峙したままお互いに口で前哨戦を繰り返す。


「相変わらずチビだな。お前」


「お前の目付きの悪さは肉体が違っても健在なんだね」


 基本、砦の造りはどの砦もさほど変わらないからこういう時、便利で良い。


 長い廊下を抜け、フィフス砦では修練場になっているアドナイ軍部本部の演習場へと出る。


「ここで良いか? 」


「死に場所決めたの類斗ルイト


 俺が月華を、シノブはその手のスマートフォンをお互いに構える。


「やっぱり殺し合いになるのか? 」


 殺す事への忌避感。魔物なら未だしも、今回はかつての知己とである。心の整理などつくはずもない。


 だが油断できない相手が殺す気でかかってくるのだ。手加減できる余裕もあるとは思えない。


「異世界の女なんかに鼻の下伸ばす類斗ルイトなんて見たくなかったよ。気持ち悪い」


 シノブのスマートフォンが光る。具現化させたのはシューティングゲームのライフル。


 本当になんでもアリなチート能力だ。アイツのインストールしているアプリ次第で俺に勝ちがあるのかもわからない。


ドバァン!


 銃声が響き、


 俺のすぐ横を銃弾が掠めていって、後ろの地面で弾ける。


 性能をそのまま具現化か……。アイツの持ってる“能力”との相性も良いのね。


 さて、どうするかな。


「俺の交遊関係なんかお前に関係ないじゃないか! 」


「うるさい。裏切り者」


ドバァン! ドバァン!


 今度は俺へと直撃するコースで撃ち出される弾丸。一応、致命傷の箇所への攻撃じゃないのが救いだ。


「遠距離攻撃は俺には効かないぞ」


 “収納”の能力で即座に収納して放出で弾き返す。


 パスッ! パスッ!


 シノブの足元付近に着弾する反撃の弾丸。まだお互いに様子見段階である。


「なにソレ? なんか変な能力を手に入れているね類斗ルイト


 俺の反撃にあまりビックリしている様子はない。シノブに弾き返す攻撃は決定打にはならないのだろう。


 元々、シノブがこの場に具現化した銃弾である。顕現させているのはシノブ自身であるのだから消そうと思えば消せる類いの物なのだろう。


「…………」

「…………」


 お互いの距離、約五メートルってところか。無言になり対峙する。次はどう動くか、二人して決めかねている。


 肉弾戦なら体躯差から俺の方が有利、切り札の数秒間ではあるが“伍式”増幅ブーストもある。


 遠距離戦闘はお互いに決め手にならないのが、さっきの様子見でわかっている。


 正直、バルカン系の連続射撃が来ると、全部を収納できるか不安があるがその辺はあえて顔には出さない。


 シノブのチート能力も弱点や欠点があるだろう。


 これはどちらが先に相手の弱点を突くかの勝負でもある。


「ならこう言うのはどう防ぐ? 」


 手元のライフルを消して、シノブの目の前に赤と緑の棒人間が具現化する。


「遠距離がダメなら接近戦闘だよ」


 シノブの掛け声と共に、二つの棒人間が俺との距離を詰めるため駆け出す。


 しかし、どんなアプリ入れているんだよ。


 この質量、収納に入るかな? しかし、様子見の段階で自分の能力の本質、手の内を見せる気はない。


 手持ちのカードは常に多く見せ、翻弄するものだ。


「このゲーム感覚の世界、お前好みじゃないか? レベルもステータスもあるんだぞ」


 余裕を見せながら赤い人形、棒人間の右腕をかい潜る。すぐにフォローに回ってくる緑の人形。


 迫る緑の人形へと月華を袈裟斬りに振り抜く。


 分厚い藁の束を切り裂くような感覚、千切れる緑の人形の腕。


 相手の固さや速度は決して手に終えないレベルではない。


 やりづらいのは表情が無いため攻撃予測がつきにくい事と、関節が決まってないため時折、奇妙な角度から攻撃が入れられる事である。


「昔のままなら接近戦闘の機会なんて無かったけど、今じゃそれなりに戦えるんだよ」


 入り乱れる赤と緑の人形と俺。既に緑の人形は左腕を失い、赤の人形は頭半分が無い。


 どれだけ削れば、稼働できなくなるんだよ。


 戦いながらも、シノブからは目を離さない。この状態で狙撃されて、思考が追い付くかちょっと微妙なラインである。


 ブラフも立派な武器。最初の攻防が効いたのか、本気で遠距離攻撃は捨てたみたいで二体の棒人間の操作に神経を割いている様子だ。


 ひょっとして具現化させられる数に上限でもあるのだろうか?


 これは探る必要がありそうである。


現実リアルの身体でレベルやステータスって、鍛えたって事? 類斗ルイト良くやるね。VRMMO系のゲームもなんか疲れるのに、僕はゲームの中だけで充分だよ」


 二体の人形と戦闘中の俺の動きに関心しながらも、俺の誘いは真っ向から否定してくる。


 話ながらの戦闘で、バランスを崩した赤い人形を胴体部分で真横に切り裂き、やっと行動不能に追い込んだ。


「うーん、小手先の省エネアプリじゃこんなものか。これじゃ街に割いている分の電力(魔力)も戻さないと勝負にならないみたいだね」


 やっぱり小手先の様子見レベルだった訳ね。結構、俺疲れたんですけどね、シノブさん。


「じゃあ本番ね。類斗ルイト


 電脳世界に取り込まれていたアドナイと、現実世界の蜃気楼の模造品の街が反転する。


 平面空間に押し込まれていたアドナイが、現実世界の本来の場所へと展開する。


 重なるように複製された蜃気楼のアドナイが四散して消えていく。


「……あぁ。追加で一つ、人間から変成させたゴブリン達に一つ命令を入れているんだった」


 電脳世界から解除させた街の至るところには眠った人々が倒れていた筈だ。


「違う種を殺せ。ってね」


「!?」


 愉しげに笑うシノブ


 戦闘本番前にもまた一つ、問題が発生しました的な……。

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