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世界の事情

 土埃と血糊に汚れた頬を手で拭う。戦場特有の血と踏み荒らされた草や土の臭いに顔をしかめる。


 慣れることはない。いや、慣れたいとも思わない。


 辺りは命のやり取りを終えて、不幸にも散っていった者達が倒れている。


 現代日本で暮らしていた普通の高校生だった俺にはお目にかかったことの無かった血生臭い世界がここにはあった。


 ここで俺ことルイトが、この二ヶ月に知り得た世界の情報を記載したいと思う。


 まず俺のいる場所。


 ここは人族の領域の防衛ラインの一つの砦で名をフィフス砦と言う。


 発音からして五番目の砦なのかな? と思ったが特に英語との互換性は無かった。


 紛らわしいことこの上ない。


「この世界スターズでは五つの勢力が覇権争いをしているんだ。」


 転送された当初、混乱していた俺にファリアさんは丁寧に話をしてくれたのを覚えている。


 この世界の文明だが、高度な分野と全く未発達の分野の差が激しい。


 文化水準に整合性の見られない世界である。


 例えば高度な分野と言えば、まず人工衛生から見下ろした様に自分達のいる大陸を正確に縮小したような地図がある。


 更に、この腕時計型の魔道具は地図上に自分達の現在地をGPS並みの精確さで、ほぼ誤差なく映し出せるポインタ機能まで持っている。


 だが一方で、現代の戦争で活躍する戦車や重火器の類いはいっさい発達をしていない。


 戦いは剣と魔法で行っている。と言う厨二病を患った経験のある人間なら大好物なジャンルのお約束な中性ヨーロッパ風のファンタジーなのだ。


「高度な技術で作り込まれたまるで遊戯ゲームのような設定だな」


 そう聞きながらファリアさんの前でボソリと声が漏れると、その戦場に似つかわしくない美しい顔をあげて驚きの表情で俺を見てきた。


 そして美女に相応しい透き通るような青い双眸を向けて感心してくれた。


「凄いなルイト。この世界はまさに神々の遊戯ゲーム盤だよ」


 やや嘲笑ぎみに俺の言葉に付け足して肯定してくれる。そして世界の事情を話してくれる。


「始まりは名も無き始源の神による世界創生から――――」



 あまりにファリアさんの説明はお堅い創世記並みの話になっていたので、ここは俺が分かりやすく昔話風に翻訳して説明することにする。


 昔々、この世界には五つの大陸があったとさ。


 しかしある日のこと、退屈していた神様達は盆栽の様に大事に育てていたお互いの大陸を自慢し合って喧嘩してしまいました。


『なら誰の大陸が一番優れているか競ってみようじゃないか?』

『後で後悔するなよ』


 売り言葉に買い言葉。神様達の程度の低いこと。

 (いや、ごめんなさい。失言です)


 神様達、五つの大陸を全部くっつけて一つの巨大な大陸にしてしまいました。

 その際、大陸は無理矢理移動させたので五つの大陸の特徴を持った子供が絵にかいたような星の形になってしまいました。


 そして大陸中央部にビーチフラッグの様に覇権の象徴の神界に届く塔を配置して、各々の育てていた種族に天啓オラクルを授けました。


『覇者の塔を上って優秀さを示しなさい』

『お前ら他の種族に負けたら滅ぼすから』

『伊達に適応力に全振りしてないからね』

『結果は見えてる、勝利は既に手の内よ』

『……ん、無理。最後には私の一人勝ち』


 次々、聞こえてくる神様達の声に皆、唖然としながらもその本気の度合いに覇権争いを繰り返しているのでした。


 とまぁ、こんな感じである。わかりやすく上手く説明できてると良い。


 そういう事で各勢力が大陸中央を目指して進軍し、神々の遊戯としても笑えない状況の戦いが、かれこれ三世紀ほど続いているらしい。


 オンラインゲームも真っ青のエンドレス状態である。


 しかも最初は神々の遊戯だったが、各勢力毎に大陸中央の広大な土地に進出しなければいけない事情も出てきているらしく今更、後には引けない状態なのだそうだ。


 人族では言えばその繁殖力の高さであろう。


 三世紀の間に倍々に増えていき、このままでは大陸の星の一欠片の地では住める場所が限られているため、過密状態に陥ってしまうことが火を見るより明らかなのだそうだ。


 他には先程まで戦っていたオークの所属する魔界混合軍。


 弱肉強食の地で中央部に安住の地を求める魔物や魔族は後を絶たない。コイツら強い種が星の先端に行くほど多いから困ったものだ。


 他にはまだ遭遇していないがハイエルフの統率する妖精と獣人の大森林連合。


 天使の様な羽を持つ翼人達や竜のような容姿の竜人達が集う蒼天同盟て言うのもある。


 えっと、あと一つはなんだったっけ、なんちゃら帝国だったような? そのうち思い出すと思うから勘弁してくれると助かる。


 とまぁ、こんな感じで未だ中央部の外堀で領地取り合戦なんて言うのをやっている訳である。


 ちなみにこの精神だけの転移者って俺の状態は当初は少々驚かれたが、割りと簡単にファリアさん達傭兵団の仲間は信じてくれて受け入れられている。


 何でも俺の様な状態で転送された例は初めてらしいが、普通に地球からの転生者とか転移者って存在はこの世界に希に例が在るらしかった。


 彼らは例外なくチート能力持ちだったらしい。


 そんな中での俺の境遇って……。あぁ、俺ってば不幸、そして不公平だ。


 あと一つの疑問は残ってる。


 俺の今動かしている体の人の本来の意識、精神はどこに行ったのだろう? って疑問だ。


 この状態が憑依に近いのか、乗っ取りに近いのか。はたまた精神取り替えっこ状態なのか?


 そして今現在の俺の本当の身体はどうなっているのか?


 まぁ、答えのでないことで悩んでいてもしょうがないので、そこら辺は考えないようにしている。


 時折、脳裏を掠めるのは仕方がないけど。


 そんなこんなで世界の事情を知ってこの二ヶ月、俺は自分の生き方(スタンス)を変えずにこの砦で腕を磨いていたわけだ。


 俺には目立たない為に決めてるルールがある。

有り体に言えば全教科オール3を目指すと言うルール。


 俺はこれを“埋没する才能”と自分で呼んでいる。


 他の周囲の人間の中での優等生と劣等生の差を確認して、その中間を目指す為に努力するのだ。


 異世界まで来て何故にわざわざ周囲に溶け込む必要があるんだ? と疑問を持たれそうだが、俺には俺の深いある事情があるので許して欲しい。


 その為、死に物狂いで剣技を習った。このままでは傭兵団の劣等生として目立ってしまうからだ。


 オークの襲撃の三日前。その日も俺は修練場で一人黙々と剣を振るっていた。


 実戦はまだ自信がなかったので、雑用として何度か周囲の勢力の監視に出る偵察隊に付いていった。


 そこで魔物と戦う彼らを見ると、俺の実力は中間地点にまだ届いている気はしなかった。


 そんな汗を流して剣を振るっていると、砦の修練場の壁に寄りかかりながら見学していたファリアさんが稽古をつけてくれると言って木剣を持って俺の前に立った。


「ルイトはなぜ戦うんだ? 」


 親切に剣の練習に付き合ってくれるファリアさん。


 ショートボブの茶色の髪がその動きに舞う。その秀麗な美貌の剣士と向き合っていると気が一瞬、緩みそうになる。


 痩身で均整のとれたプロポーション。


 身長は俺の方がやや高いぐらいだから165センチぐらいだろうと思われる。


 そこから繰り出される剣は鋭く早くそして力強かった。この人はこの砦の中の明らかに優等生側の一人である。


「んー、生きていたいから? ですかね」


 戦う理由なんてこれと言って思い浮かばない。


 ただ言えるのは魔物とか亜人とかがいる世界で、いつ戦いに巻き込まれるかもわからない。


 そんな中で、戦う術を持たずに安穏と生きられるほど俺の神経は図太くないってことだ。


 考えながら彼女の剣を木剣で捌く。手加減してくれる稽古ならいくら俺でもこれぐらい出来る様になっていた。


「はは、違いない。本能に根ざしたシンプルでいて真理だ」


 そう言って木剣での連撃を捌ききられたファリアさんは一旦距離を置き、右手に持った木剣の刃の部分でポンポンと左手の平を叩く。


 そしてそこから身を沈み込ませ一気に加速して迫ってくる。


 さっきより早くなったファリアさんの剣が俺目掛けて降り下ろされる。


「っ!! 」


 今度は口を開いてる余裕もなく二、三の剣撃を必死に捌くが次の剣撃で木剣を叩き落とされ次の瞬間、首筋に添えられたその剣が止まる。


「ファリアさんの本気は無理ですって」


 手を挙げて降参する。そんな俺にファリアさんは意味深に笑みを浮かべる。


「ルイトは仕組みがわかって無いだろ? それで私の技を凌いだのがどんなことか分かってないんだろうな」


 汗をかきながら涼しげに笑うファリアさんの笑顔にドキッとしてしまう。


 なんの事だ? と疑問に思っていたが、そのままファリアさんは俺のやる気が無くなると困るから教えてあげないと汗をぬぐいながら砦の修練場を後にして行ってしまった。


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