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俺流の戦い方

 高速思考処理によって戦術を構築する。目の前に迫るミノタウロスの巨大な身体。


 魔力切れのファリアさんのヒットアンドアウェイの攻撃は決定打にはならない。


 仮想戦闘を脳内で分析しても二手三手足らない。


 俺がやるしかない。


 俺の能力アビリティで詰め将棋のように戦闘を支配して勝ちを掴み取る。


 手元にある能力を脳内に並べる。


[瞳術]

 周囲の状況を把握する観察眼。視界内を立体的に理解し、その情報を収集出来る。レベルに応じて情報詳細の追記が解除され増えていく。《称号》埋没する才能の派生能力。目立つことを嫌う精神こころが周囲との差を正確に判断しようとして生まれた能力。


[高速思考処理]

 周囲から得られた情報の分析、思考処理を高速化する能力。通常よりも物事を素早く把握し、理解する能力が向上する。それにより情報過多の状況でも最適化して精神、肉体共に通常と変わりなく運用可能。《称号》埋没する才能の派生能力。情報分析し目立たないためにはどう行動したら良いか。を常々思考していた精神こころから生まれた能力。


[収納]

 自分の手の届く範囲内に自由に展開出来る亜空間。周囲に存在するあらゆるモノ(生物を除く)を収納できる。亜空間に収納したモノの時間は停止され、入れられた状態のまま解除されるまで半永久的に保持される。収納口、収容量はレベルに応じて増える。《称号》埋没する才能の派生能力。膨大な情報による精神こころの崩壊を防ぎ、感情を整理するために生まれた能力。


陽炎(かげろう)

 自分の半径三メートルの規模の認識を少しずらす。発動条件は動かない事。動くと直ぐに解除される。レベルがあがるとずらせる幅の拡大や相手の五感や感知系統の魔法でさえ誤認させる事が出来る。《称号》埋没する才能の派生能力。周囲に自然と溶け込み注目を躱す為に生まれた能力。


 各能力(アビリティ)の最後の一言一言が余計である。

 お願いだから掘り返さないで欲しい。


「この能力アビリティでどう組み立てるか? 」


 戦力は俺とファリアさん。森から逃げ出てきた山賊はレベルが低いし戦える心理状態ではない。一人、姿を消したレベルの高い山賊は戦力になると思う。


 あの一人だけ砦の上級戦士と遜色無いレベルがあった。いったい何故に山賊等をやってたか理由はわからない。だが仲間を回収する為にこの場に留まっていたことから、いまさらミノタウロスが現れたからといって仲間を見捨てて逃げてはいないだろう。


 俺の能力、瞳術は観察眼の強化版のようだ。襲ってきたミノタウロスの情報が手に取るようにわかる。


 こんなところで会うぐらいだからレベルは高くないと判断していたが案の定、レベルは上位個体のオーク程度である。


 まぁ、魔物個体で言えばミノタウロスのが巨大な体躯を持っているし、生命力も高いので危険度はこちらの方が明らかに上ではある。


「上位個体のオーク二十体分ってところか……」


 通常なら分隊単位で囲んでタゲ取りを交換しながらそのHPを削っていく相手だ。


 そう考えているところにミノタウロスは唸りをあげて豪腕を降り下ろしてくる。巨体なため、それほど早くは動けないと思ったら以外に早い。鎧の一部にかすっただけだと言うのに、その部分が破損する。


「これ、下手に急所に一撃でも貰ったらHP全損しないか? 」


 冷や汗が流れるが、逆に精神は落ち着いて行く。


「ルイト、そんなの相手にしないで逃げる準備をするんだ」


 そんな俺にファリアさんが早々に撤退するため、馬達のところへ戻って行ってしまっていた。


 そりゃ、山賊がミノタウロスに襲われても俺達には関係ないなけどね。ひょっとしてこれ見越して能力アビリティの毒針や石の投擲やってたのかもしれない。


 ファリアさんの行動の意図は置いておくとして、確かにここで無理して戦う理由はない。襲ってきた相手を命をかけてまで助けるほど俺も偽善者でもない。


 勝ち目はない。もしくは勝てるかどうかわからない相手に対しては……だ。


 今からやるのは命の摘み取り。生き物を殺すという事の忌避感は未だにあるが、ここまでの巨大な人型の生き物は元の世界には存在していなかった。


 幸いにも非現実過ぎて余り拒絶抵抗はない。


 ――――打算的な面もある。


 今回のアドナイの件が落ち着けば、いずれ討伐隊が組まれて討伐されるだろうミノタウロス。


 アドナイの件の裏に潜む同郷の相手と話し合いだけで交渉が済めば良いが、決裂した時は間違いなく戦闘になると見ている。その場合の勝率を少しでも上げるための悪いがレベルの糧になって貰おう。


 深く鋭く目を細める。月華を水平に構える。


「ファリアさん。俺はこれからコイツを殺します」


 特に意味がない宣言だが、ここから先は俺がこの空間の支配者だ。自分の周囲のあらゆる行動を読み取ってやる。


 出来るのか?心の中でもう一人の客観的な俺が聞いて来る。


「な、やめろ。ルイト殺されるぞ」


 ファリアさんが慌てて戻ってくる。ミノタウロスは手についたままの絶命した山賊を邪魔そうに引き抜き無造作に地面に投げつける。


 肉のひしゃげた音に怯える山賊達。森の奥から息を潜めてこちらを確認してくる目。消えていたレベルの高い山賊だ。


「死にたくなかったら協力しろ! 」


 近くの震えてる山賊に大声で声をかける。ミノタウロスのタゲ取りをしながら森の中の山賊の名前を聞き出す。聞いて一瞬、目が丸くなったが高速思考処理の能力のお陰でほんの刹那しかたっていなかった。


 腕を振り回すミノタウロスは攻撃が当たらず苛つくように天を仰いで雄叫びをあげる。


 空気が震える。森へと少しずつミノタウロスを誘導する。


「おいレイラとやら聞こえるか? 仲間を助けたかったら手を貸せ」


 森の奥からこちらを見てる山賊頭に声をかける。そう、この山賊達の頭は女性だった。ますます山賊やってる理由も意味がわからない。が、追求できる状態ではない。


「……何でこんな無茶をやってるんだ? 」


 そんな俺のそばに駆けつけるファリアさん。ミノタウロスの豪腕を潜り抜けてすぐ近くに行く。


「ファリアさん、俺に貴女の時間をください」


 更に迫るミノタウロスの豪腕を潜り抜けて声をかける。ファリアさんを抱き締め地面を二人で転がる。


 このままでは逃げきれない。と言うところで森の奥から一人の女性が場に乱入した。山賊頭のレイラがその手に持つ戦斧でミノタウロスの豪腕を逸らす。


「なにする気だい、山賊助けるなんて間抜けだね。アイツに勝ち目なんてあるのか? 」


 助け起こしてくれるレイラ。立つと俺より身長が高くかなり大きな女性である。


 ファリアさんとはまた違った美人である。その褐色の肌に狂暴な笑みを浮かべる。猫科の肉食獣のような雰囲気がある。


「勝算があるから言っている」


 ミノタウロスの腕を捌きながら後退するレイラに返答して再度、参戦する。


 同じく助け起こされたファリアさんは、なんか真っ赤になって固まっている。


 対峙しての斬撃には上手く対応される。知性が高い訳ではないが、接近戦闘に特化した魔物だ。決定打の攻撃はきっとこのままでは入らない。


「二人とも聞いてください。……」


 短く打ち合わせをする。何故かファリアさんは作戦を聞いてから先程の俺の言葉の意味を知って、更に真っ赤になってなんか怒っていたが、やはり無理に戦おうとした事がいけなかったのかもしれない。後で謝っておこう。


 やれることはやった。後は実行するだけだ。


 二人が俺から離れる。タゲ取りは瞳術と高速思考処理の補助系の能力を持つ俺がやるのが一番適している。


「さて、踊りの相手をして貰おうか牛頭? 」


 月華を構えて森との境で命を懸けた踊りに興じる。

 ミノタウロスは相当苛ついていて動きがだんだん大降りで単調になっていく。


 瞳術で相手の行動予測、隙を見つけては情報を蓄積し処理していく。右腕が上がるとき、左脇の注意が一瞬甘くなる。降り下ろした腕が当たると思った瞬間は後頭部の注意を一切しない。


 ブツブツ喋りながらミノタウロスの攻撃を避けて、時にいなして躱す。


 今の俺、外から見たら変な奴なんだろうな。


「準備が出来たぞ! 本当に良いのかい? 」


 山賊達の避難が終わったらしいレイラは律儀に作戦内容を実行してくれたようだ。山賊を全面的に信用はしていなかったが、仲間思いのその心根だけは信用できた。


 ここで俺達の馬を奪って逃げられるとしても、わずか数人。戦闘不能の負傷者や気絶者を残して彼女はそれを選べない。


 俺達に協力する他はない。ミノタウロスを倒して全員助ける道があるなら俺の作戦に乗るしかないのだ。


「あぁ、構わない。遠慮なく投げてくれ! 」


 ミノタウロスの動きになれてきた。増幅ブーストを使ってなくても動きの予測と誘導が可能になってきた。


 ファリアさんの事を見るとコクリと頷いてくれる。こちらも準備が整ったようだ。


「……時間だ」


 俺とミノタウロスの交戦している地点に投げつけられるレイラの種族能力トライブアビリティで強化された剣やナイフ。

 強化されたATXによって投擲されたそれも、単純な起動なら回避か弾き落とされるだけだ。


 だから俺はこうする。


 加速された凶器の軌道を瞳術にモノを言わせて読みきって収納の能力を展開して回収していく。


 ミノタウロスは目の前の光景に一瞬止まったが、害の無い行為だと理解したのか再度、腕を振り回して俺に迫ってくる。


「次は私が相手をするわ」


 タゲ取りを取って変わってくれるファリアさん。既に最初から最大の参式の増幅ブースト状態である。


 互角に渡り合うファリアさん。さっきから囁きモードで通話していたのが効を奏して、ミノタウロスの戦闘時の癖を的確に突いた攻撃でその膨大な生命力を削っていく。


 みるみる血まみれに成っていくミノタウロス。しかし増幅ブーストの制限時間はあと僅かである。


「ファリアさん。替わります!! 」


 制限時間ギリギリの最後の一撃を収納の能力に回収させてもらい、再度、ミノタウロスの前に出る。


「さてと、後一踏ん張りいきますか」


 種族能力トライブアビリティ増幅ブースト発動。

参式の更に上、重ねてかかるブースト、そして更に紡がれる力。


 高速思考処理の能力を説明が脳内に刻まれた時からいけると思っていたが、これは相当キツイ。


 ほとんどこの世界の人族で使用できるものが存在しない伝説級の伍式増幅(ブースト)


 これだけ見ればチート能力等が無くてもなんとかなると思うだろう。俺の瞳術と高速思考処理でなんとか流用可能な状態。後での肉体への反動はちょっと怖いがごく短時間、十五秒程度ならばなんとかなると出ている。


「悪いけど刈り取らせてもらう」


 完全にミノタウロスを圧倒する俺の月華の斬撃。ファリアさんのつけた傷口を更に抉り広げる。


 だが未だに削りきれない生命力。満身創痍ながら痛みなど気にせず戦い続けるミノタウロス。


「どこのボスモンスターだよ? 」


 皮肉を言いつつ月華を疾風迅雷の早さと強さで繰り出す。易々と分厚い筋肉を切り裂く感覚。しかしさすがに幾つかの斬撃は躱され、防がれる。


 やはり無理が祟り、直ぐに訪れる制限時間。


 増幅ブーストが切れる最後に月華を思い切り投げつけ収納の能力の中に納める。


 襲いかかってくるのは恐ろしい倦怠感。伍式の増幅ブーストの反動で殆ど動けず森の木にもたれ掛かるように背を預ける。


「グゥガゥゥゥゥ!! 」


 伍式の増幅ブーストの攻撃に耐えきったミノタウロスが勝利を確信するように俺に迫ってくる。


 その豪腕が俺を殴り潰す様に目前に迫る。ひしゃげる俺の頭部。


「残念だが……」


 木の幹ごと貫いたはずの俺の顔面を見て不思議がるミノタウロス。


「既に詰んでいる」


 増幅ブーストが切れて木にもたれ掛かった瞬間、発動させた陽炎かげろうの能力。


 俺のもたれ掛かっている木は残念だがそれじゃない。


 山賊達と対峙するときファリアさんの感嘆する声に返答していたと思う。俺の自称スキル“埋没する才能”、それに準ずる観察眼はもしも能力アビリティだったらカンストしていると。


 俺の魂解析から生まれた《称号》“埋没する才能”の各派生能力が初期値な訳ないのだ。ほぼ全ての能力が冗談ではなくカンストしている。


 だからこういう使い方も出来る。


「王手だ。」


 俺の収納する能力に増幅ブーストで加速されたエネルギーそのままの状態で納められていた山賊達の剣やナイフ、ファリアさんの剣と俺の月華。


 その全てをミノタウロスに向けて一気に解除する。


[収納口、収容量はレベルに応じて増えていく。]

 の収納の能力アビリティに記されていた一文。


 開かれたいくつもの収納口、裏を返せば放出口。そこから飛び出る通常では考えられない量の投擲や斬撃の数。


 対応など出来るはず無い。


 瞳術でその動きの癖、弱点は既に見切ってある。そこを的確に狙って射出するオマケ付きだ。幾つかの山賊達の剣やナイフを弾けたとしても、急所を狙って打ち出された月華やファリアさんの剣は捌ききれない。


 深々と突き刺さる武器の数々。


 一気にミノタウロスの膨大な生命力も削り取っていく。


「グルァォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!! 」


 無数の武器を突き立てられたミノタウロスの最後の断末魔がその場に響き、膝を折って崩れる。


ズシンッ!!


 ────文字通りの地鳴り。



 ふぅ、上手くいった。


 俺はこの戦いを読みきってこの手に勝利を納めたのだった。

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