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落ちた先は

 この世界に落ちてからおよそ二ヶ月がたった。今では落ち着きを取り戻しているが当初は混乱の末の混乱。


 まぁ、今ではこの世界の常識を覚えてなんとかやっている。


「ルイト、右の防衛ラインが押されてる。補助に回れ」


 傭兵団の若い女傑で俺の上司ファリアさんに指示され右の防衛ラインへ回る。


 辺りに立ち込める血の匂いと舞い上がる土埃の中で、同僚の傭兵達が振るう。


 剣撃の風切り音や鍔迫り合いの金属音が響く戦場。俺達が命のやり取りをしているのは人ではない相手。


 一人の傭兵が豚に似た容姿の二足歩行の相手の大きな戦斧に押し返され、倒されている。


 そこへ割って入った俺は死角から相手の急所に刀を滑り込ませる。


 肉を切り裂く感触。血飛沫をあげて事切れる相手。


「助かったルイト。今日はオーク達が多くていけないね」


 加勢に入った俺ことルイトは典型的な日本人である。助けた相手に手の平をあげて答えてまた補助に回る。


 何でこんなファンタジーで血生臭いことをやってるのか?と言われても、ハッキリ言って今でも原因はわからない。


 ラノベ小説の典型的な召喚モノの様に召喚された先での状況説明がある訳でも、巻き込まれた系の話が有るでもなく。



 例えるなら天文学的低確率の不幸にあった。……が一番正しい気がする。



 刀を振るいながら戦場を駆ける。

この笑える自分の状況で笑えない世界で命のやり取りをしているのだ。


 ふとこの世界に落ちたあの日を思い出す。



 当初は置かれた状況に理解も追い付かず正直、折り合いつけるのも大変だった。


 いきなりの異世界転移って言うのだろうか?正確に言うと俺の場合は少し違うが、それに遭遇してしまったのだ。


 いつものように学校へと登校していた時、俺の目の前の足元にポッカリと黒いマンホールの様な穴が開く。


 咄嗟に落ちそうになるのを堪えて持ち直そうとした時、後ろから中学からの親友に背中を叩かれながら挨拶された。


 バランス取るためフラフラとしていた事もあって俺はアッサリと穴に落ちた。


『マンホールの穴に落ちた。下水って臭いよなー。あぁ、打ち所が悪くなければ良いなぁー』


 ぐらいの最初は危機感しかなかった。しかし、いつまでたっても俺はその穴の底に着かなかった。


『なにこれ? 』


 軽く落下する感覚が続いた後、世界は反転したように今度はフワフワとした浮遊感が体を包んだ。


 気づいたら俺は鬱蒼とした森の中に座っていた。耳に鳥の囀りが聞こえて来る。


 辺りを見渡すとここは木々の合間にできたちょっとした空間でそこには焚き火をした後があった。


 登校中に登っていた太陽の位置とさほど変わらない位置に太陽は見えていたので、時間的な誤差は余りないだろう事がわかる。


 だが腕時計を見ると液晶のデジタルは壊れてしまってのか何も表示されていなくいて正確な時間はわからなかった。


 正直、この現状に頭はパニックになりそうだったが親友に借りていたラノベ小説とかにこんな物語があったのを思い出して呼吸を整え落ち着かせる。


「まさか、ここって異世界か? 」


 いや判断するにも断定するにしても情報が足りてなかった。


 焚き火の跡がある事からが少なくても近くに人、もしくは人に準ずる知的生命体がいると想定は出来る。


 とりあえず火を扱う程度の文明はある。まずは一つ、そう希望的観測を頭に片隅に留める。


 異世界に転移したと決めつけるのも時期尚早だろう。

例えばどこか地球の森の中に転移させられた、もしくは不思議な能力に目覚めて転移した可能性もある。


「その場合は現代の超能力モノか……」


 自分で言っていて笑えてくる。最近は穏やかに暮らせていたのに、不幸にもほどがある。どっちにしろ非常に面倒くさい。


「何で俺がこんな目にあってんだ? 」


 この理不尽な状況にどうやら頭は少し落ち着きを取り戻して覚めてきた様だ。


 俺の名前は平野ヒラノ 類斗ルイト


 首都圏からちょっと離れた県内の共学の高等学校に通うごく一般の普通の高校生だ。


 現在はイジメにあったりしている訳でもなく、世界に絶望もしてなかった。


 特に突出して頭が良かったり、運動が出来たり容姿が良かったりもしていない普通の生徒だった。


 とにかくそんな目立った事はしていないザ・普通の人。そんな角のたたない生き方(スタンス)を目指して実行している。


 それが俺だ。


 中学時代ならまだしも、高校になると自分の立ち位置ぐらいそれとなく理解出来るようになる。


 とある事情により、普通に可もなく不可もなく目立たずに深く印象に残る様な行動をとらないで害の無い様に生きている。


 周囲との人間関係で上手く立ち回って、平々凡々とのんびりと生きたい性分だ。


 そんな事を考えているとガサガサと近くの藪が揺れた。


 何かがいる。人かな?と思いながら第一印象を良くしようとにこやかに笑いながらそちらに目を向け、そして笑顔のまま俺は顔は引き攣った。


「……異世界決定」


 目の前にはやたら巨大な芋虫がいた。


 視界に入る芋虫は、もう虫メガネで拡大したように細部が非常に現実的リアルで、その多数ある足がワサワサと好戦的な様子である。


 出会って数秒もせずこちらを敵認定いや餌認定かな?して鎌首をもたげて襲ってきた。


 その多数ある足とかブヨブヨした体躯はゲーム中でなら問題なく対処できたから良かったが、現実リアルだとその姿の生理的嫌悪感も手伝ってかやたら怖い。


「え……と、何かないか?メニューは、いやそれよりもステータス表示か? 」


 声に出したり、心の中で念じたりしたが何も出てこなかった。


 普通、こういう転移モノって何かしらのチート能力持ちってのが定番なんじゃないのか。心の中で悪態つく。


 頬や額に冷や汗を流しながら芋虫の突撃を避ける。


「アイテムボックス、インベントリ!! 」


 はい、使えませんよね。わかります。


「ファイヤーボール! 、メ◯! 、◯ギ!! 」


 魔法も某有名どころのゲームメーカーの有名なのを覚えている限りダメ元で叫んだが何も起きなかった。


 ゲームじゃないなら魔法使える訳ないじゃん。自分で自分にツッコミをいれる。


 そんな俺の状況などお構い無く芋虫は口から粘着性の糸を出して俺の足を捕らえた。あ、ヤバイ、これ詰んでる。


 死の危険性を感じ、バランスを崩しながらも咄嗟に腰元にあった握りやすかった棒で芋虫を牽制する。


「あれ? 俺、何を持っているんだ? 」


 右手を見るとそれなりの重量の片手持ちの剣があった。


 俺は落ち着きを取り戻したと思っていたがそうでもなかったみたいだ。


 良く自分の衣類を確認していなかったのだ。

 腕時計を確認した時、てっきり学生服だと思っていた俺の服装ははっきり言ってファンタジーだった。


 ゲーム内で良く見る初期の装備にありがちな冒険者風の胸当てをして、手袋に手甲や足や脛にも部分鎧を付けている。いつの間に着替えたんだ俺。とツッコミしている暇もなく芋虫が再度、突撃してくる。深く考えてる暇はない。


「剣ね、使えるのか!! 」


 幼い頃にやった棒切れでの戦いごっこでも、体育の時間にやった剣道の竹刀での練習等でもない実際に殺傷能力のある刃を持つ金属の重さがある剣を構え、身を屈め芋虫を良く見る。


 突っ込んできた所にお世辞にも上手く振りきれていない剣を振るう。


 衝突の瞬間、重いものに刃がめり込んだ感触が剣先から伝わり右手が痺れていた。


 そのままバランスを崩し芋虫に押し倒されるように地面に倒される。


「つぅ、硬ぇ」


 倒された時の衝撃で、芋虫の体に刺さった剣先から青い芋虫の血液が刃を伝って柄の方まで垂れてくる。


 そのリアルのグロさ。正直、ファンタジーなめていました。


「殺ったか? 」


  剣を持つ手袋に青い血が剣から滴り落ちてくる。だが気は抜けなかった。


 まだ芋虫は生きていて刺さった剣など気にせずに甲高い鳴き声をあげながらその重圧で俺を押し潰そうとのし掛かってくる。


 こんなところで終わるのは嫌だ。


「おい、大丈夫か? 」


 そんな命のやり取り押していた俺に誰かが話しかけてきた。ハキハキとした女性の声だ。


 何でだいたいのファンタジー異世界は、日本語翻訳がついている親切設計なんだろう。とか考えながらも聞き取れる女性の声に感動する。


「今のところは、もうすぐ無理かも……」


 女性に返答しながら歯を食い縛り耐えていると次の瞬間、俺の上にのし掛かっていた芋虫は真ん中から真横に真っ二つに切り裂かれて絶命していた。


 ハァハァハァ……。


 降りかかった芋虫の血液など構ってられない。荒い息、そのままに地面に大の字で横たわる。


 生き延びた、とりあえずは生き延びた。安堵感が緊張していた筋肉を弛緩させる。


 そんなこんなで助けられた俺は、その後、この世界で約二ヶ月過ごしてここにいる。


 この時、俺を助けてくれたのがファリアさんである。

 後々、助けられたファリアさんに話を聞きながらいろいろと食い違う常識を知ることとなる。


 一番は俺は異世界に転移したと思っていたが、彼女は俺を知っていて助けたと言う認識の差。


 話を擦り合わせてやっと理解して愕然としてしまった。

俺の体(・・・)の人は彼女の傭兵団に所属する戦士の一人だったらしい。


 この時、ファリアさんが俺の体(・・・)を仲間として知っていて、なかなか合流地点に戻ってこないのを心配して探しに戻ったら、あの状況になっていたので助けに入ってくれたらしい。


 身に付けていたモノは全てこの世界で生きていたこの体(・・・)の元の人物の物で、腕時計と思っていたモノはこの世界の所謂、魔法道具だとの事だ。


 これで自分のレベルやステータスなんかの状態を確認する事の出来る代物だった。


 自分のステータスを見たり、他の傭兵のステータスを見せて貰ったが俺の身体能力やら能力アビリティは極々一般的であった。


 精神だけが転送された影響で称号欄に“精神の迷子』”やら“異世界からの漂着者”の名前があるだけで特にチート能力なんかは一つも付いてなかった。


 要約すると、つまりこう言うことだ。

 俺は精神だけが異世界に転送されたそうですよ。



ルイト・ヒラノ

種族:人族

Lv:5

HP:35/35

MP:110/110


ATX:47

DEF:34

AGL:61


《能力》未設定

《属性》未設定

《称号》精神の迷子、異世界からの漂着者


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