パンが東京を救った話
秋大をなだめるのに人手をかけたため、一瞬沙理のこがまたほったらかしになる。
警官全員が不安に思い、沙理を見た。
「……ウフ……ウフフフフ……。パンが1位って……」
ずっと俯いて暗い表情だった彼女が笑っていた。
すると闇が誰にでも分かるくらいに晴れて薄くなった。
『闇が薄くなったぞ!? 魔法使いの子の顔も見えたぞ!』
警官が到着したは時には、目撃情報以外では沙理のことはなにも知られていなかったので、この時点でこの場にいる人間は初めて彼女の容姿を見ることになった。
「うわ~、可愛い。メッチャ好みだ」
まだ問題が解決していないこの状況でなんとなく漏らしたのんきな秋大の発言。
本来なら空気を読めない発言、実際に空気を読めてはいない発言ではある。
しかし、長い間人から好かれることが無かった彼女のパン事件(先ほどの財布を落とした話)でできた僅かな心の隙間にこの発言は入り込んでいった。
沙理の表情に熱が灯って赤みがかり、生気の無かった目には光がさした。
その瞬間に周りの重い空気も、漆黒の闇も全て消えてなくなった。
『か、確保だ!』
急展開に警官はあっけにとられていたが、気を取り直して、沙理に近づいて捕まえようとする。
「ごめんなさい! どいて!」
向かってきた警官は全員倒されてしまった。
「……あ、あなた、名前は何て言うの……?」
「顔近っ! でもやっぱ美人だ」
「……また誉めてくれた。近すぎてごめんなさい。私は兼田沙理って言うの。あなた私のこと可愛いって、美人だって、好みだって誉めてくれたわね。そんな風に言ってくれたのあなたが初めてなの……」
「俺は角田秋大って言うんだけど……、君みたいな綺麗な子がこういうこと言われてないなんて驚きだ」
「……また誉めてくれた。あなたは運命の人……?」
「運命の人? それよりもあれだけ強い魔法が使えるのに東魔法学校に通ってないんだね。どこに行ってるの?」
「……私は……」
沙理はこれまでのことを話した。
「予想外だよ……。大変だったんだね。とりあえず機関に行って魔法の制御をしてもらわなきゃ。あ、君さえよければそのまま東魔法学校に通わない? これだけ強ければ奨学金もあるだろうし」
「……でも、私がいると不幸になるし……」
「大丈夫だって。きちんと自制できるようにさえなればさ。そんなことを気にする人はあの学校にはいない」
そして彼女が東魔法学校に通い始め、当時の会長の明治を倒して会長になるのに時間はあまりかからなかった。
「……ね、素敵でしょ。私はこの1年彼にとってもよくしてもらってもっと好きになったわ」
「すごくいい話なのは分かるんだけど、何で3個くらい無駄なコントが入ってるの?」
3個とは誰か悲しむぞコントと、時間戻せるコントとパンコントである。適当なネーミングである。
「この国の警察官を信用できなくなりそうだわ」
「結局財布は見つかったんだっけ? 中身無事で良かったじゃない」
「大丈夫じゃないぞ。パンだけ食べられてたんだ!」
「……っ! ウフフフフ……」
未だにパンの話は沙理のツボであった。
「因みに聞きますが、今日は何を角田先輩は食べるんですか?」
「カレーパン、チョコチップメロンパン、ツナサラダパンだぞ」
「……パンばっかり。フフフフフフ……」
遂に突っ伏して笑う沙理。つられて聡美も笑い出した。
パンが東京を救った話。いつか世界も救うのか。




