財布を落として
『くそっ! 打つ手はないのか!』
様々な手を尽くしたが何かすればするほど闇は深くなる一方である。
闇魔法は周りの幸福を吸いとって魔力にするのだから、単純に周りに人がたくさんいるだけで強力になる。
加えて、後に判明したことだが、彼女の闇魔法は使用者の負の心にも比例して強くなる。
その為、この状況は最悪と言えた。
『なんだ君は! こんなところに来たら危ないだろう!』
「はい? うわ? ここ暗い! 道理で本が読みにくいと思った。今何時です?」
途中から沙理は俯いていたが、何か違う動きがあり、沙理は警官がいる方を改めて見た。
重装備をしている警官とは違い、普通の制服姿でずっと本を読んでいた。
あまりにも集中していたから気づかなかったらしい。
とは言っても、既に明かり無しでは互いの顔すら見えないくらいに暗い中で本を読み続けているのは集中しているの6文字で片付けて良いものなのか。
仮に30文字あれば、『彼は物凄く目が良くて、暗闇でも文字を読むという能力があるのだ』と説明できる。ただ仮に彼がそういう能力を持っていないとこの説明は無駄である。もちろん無駄話である。
「何かあったんですか?」
『何かあったのは見れば分かるはずですし、警報も出てるはずですが……。そもそも普通の人はまともに歩くことも出来ないんですよ。一応身分が分かるものありますか?』
「はい、どうぞ」
『学生証……、東魔法学校1年生、角田秋大さんですか。成る程、あの学校に通われているくらいですから多少魔法に耐性があるんですね』
「第3種ですから大したことはないですよ」
『それはともかく、ここは危険です。今は大丈夫でも何か悪影響が出たら大変ですよ。早く帰りなさい』
「そんなことは……、あ、図書館から借りてきた本が肝心のページが破れてる。ここが読みたかったのに。図書館に電話してみよう。あ、充電が切れてる。仕方ない、この本を買おうか、いくら持ってたかな? あ、財布がない! 落としたかな? 警察に電話してみよう。あ、充電がない! 公衆電話でもいいか。あ、財布がない!」
早速不幸のオンパレードである。やや後半が無限ループだが。
『ほら、もう影響が出始めてる。危険になる前に帰りなさい』
「どうしよう……。財布の中にはお金とカードと免許とUSBとパンとメガネケースが入ってたのに!」
『随分大きい財布だな! ほんとに財布か?
メガネケースとパンが入っている財布など世の中にいくつあるのか。まず、どうやって落とした。』
「あのパンすごく食べたかったのに……」
『しかもパンが1位か! もっと大事そうなものがあっただろう!』
「なんてことをいうんですか! あのパンはあのコンビニしか置かない上にたまにしかないんですよ!」
急に切れる秋大。これをなだめるのに地味に時間がかかった。




