俺はモテないんだ
「何で明治先輩は秋大先輩の近くにいるんですか?」
明治は秋大の真横に0距離で陣取って仕事をしている。
細かい事情を知らなければ仲の良いカップルに見える。
しかし聡美は細かい事情を知ってしまっているので非常に気になる。細かい事情とは明治が男ということである。細かい事情を知らない方がただのカップルに見えて気にならないかもしれない。ややこしい。
「これは不味いのか? 明治は初めて会った頃から、ずっとこの距離感だぞ」
初めて会った頃とは、秋大と明治が初めて会った頃のことだが、仮に聡美が初めて2人と会った時と勘違いしても問題はない。その時も真横に陣取っていたからだ。それに問題はあるが。
「秋大先輩は男で、明治先輩も男です。その距離感は完全にそういう関係を疑われます」
2、3年生はもちろん、1年生にも噂が広まっている。
ゴシップの少ない学校なのでどうしてもこういう話は面白おかしく伝わる。
「そういえばめいじよ。平原さんから聞いたがめいじが平原さんの質問を否定しないから噂が広まっていると聞いたが、何を聞かれたんだ? それによっては会議しよう」
噂が広まる原因の1つが放送部に所属する平原サキの存在である。彼女に話が知れると瞬く間に広まる。
「えーと、『秋大さんのことは好きですか?』って聞かれて、はいって答えたじゃない」
「普通だな」
「その後、『仮にモテない秋大さんが肉欲のままに暴れた場合、体を張って止められますか』って聞かれたから、はいって答えたじゃない」
「普通だな」
「質問が普通じゃないわ!」
「そうだよね。秋ちゃん凄くいい人だもん。モテなくないじゃない」
多分そこではない。
「その後、『秋大さんを助けるために女性にならなければいけない場合に女性になれますか』って聞かれたからはいって答えたじゃない」
「ありがとうめいじ。お前は悪くないな。平原さんと会議をした方がいいな。その前に殴る」
「良かったわ……、明治先輩がピュアなだけでこの噂は誤解だったのね」
「でも秋ちゃんのことが大好きなのは本当だよ。死ぬ時に秋ちゃんが目の前にいてほしいくらいにはそう思ってるじゃない」
「誤解じゃなかった!」
「ここは4階じゃない」
「そうじゃないわ! この校舎そもそも5階ないし!」
4階建ての校舎において5階があると間違われる場合、その人が数も数えられないおバカな人か、ある時だけ5階が現れるという怖い話のいずれかである。前者だとしても怖い。
「最後を看取って欲しいっていうプロポーズみたいだったわ。ちょっと、秋大先輩」
聡美は秋大を呼ぶ。
「明治先輩は自覚がないだけで、秋大先輩のこと好きですよ。しかも、特別な感情があるタイプの。秋大先輩は慣れてるかもですけど、もう少し距離の取り方を考えた方がいいんじゃないですか?」
「そうか……」
秋大はうつむいて悩んだ表情になる。聡美には仲の良い男の友人に対してどうすればいいか悩んでいるように見えた。
「めいじは可愛いからな……。俺も明治が近くに来ても1回も拒否しなかったからな」
聡美には秋大自身が明治に対して、きちんと対応しなかったことを反省しているように見えた。
「上目遣いでねだられると可愛すぎて何でも許しちゃうし、男とは思えないくらいフローラルないい香りするし、体が信じられないくらい柔らかいし……」
「先輩方、私邪魔みたいなので帰ります」
さっきまでの秋大の態度はあくまでそう見えただけで気のせいだったと判断した聡美は、生徒会室を後にしようとした。
「飯田さん待ってくれ! このまま帰られたら誤解が生ずる」
「秋ちゃん。2人っきりになれるならフュージョンしようじゃない」
「このタイミングでややこしいことを言うなよ! めいじとフュージョンしても何も生まれないだろう!」
「痴話喧嘩なら2人でやってくださいな」
「待ってくれ、言い訳をさせてください」
「俺はモテないんだ」
「眼鏡にくせっ毛に地味顔で性格悪いもんね」
「そんなことないよ! 確かに目付き悪いし、剥げそうだし、どこにでもいそうな顔で、性格はよくないかもだけど、モテないわけじゃないじゃない」
明治の方が性格以外より悪く言っている。
「でもな、めいじと一緒にいるとものすごい羨望の目で見られるんだ。勝ち組の気持ちが味わえて気持ちいいんだよ」
「ああ、そうですか。ですが、明治先輩に対して全く邪な感情は無いと?」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………無いぞ!」
「沈黙が長すぎて信用出来ません!」
その後生徒会室を飛び出した聡美を捕まえて、何とか説得した。
聡美の前でそういった発言やな行動は控えることになった。『聡美の前』ではですが。




