表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奇妙な死角  作者: 村松康弘
5/35

きもだめしの夜

 今夜は夏休み恒例のきもだめし大会。ぼくらの地区児童会では、本物の墓地でやるのでスリル満点だ。一年生から五年生がきもだめしの『お客』で、六年生のぼくらがお化けに扮しておどろかす。

 今年の六年生は五人、まだ暑さが残る夕暮れになると、墓地に集まり準備をした。そして日が落ちて暗くなってから、当番の保護者と一緒に『お客』の児童がやってくる。

 墓地の入り口の方でガヤガヤと声がすると、「来たな」と言って、地区児童会長の勇くんが作り物の『鬼火ひのたま』に点火した。・・・丸めた布にアルコールを滲みさせて、針金で木の枝に吊るしたものだ。

 六年生のお化けたちは、それぞれの持ち場に散る。ぼくは血まみれの化粧と白い着物を着て、ルートの中間地点の墓石の陰で待機する、いよいよ、きもだめし大会のはじまりだ。


 一年生から出発だが、二年生まではふたり一組で挑戦するのが昔からの慣例になっている。

 早速入り口方向の暗闇から、「うぉーっ!」とおどかす声、「キャーッ!」と逃げてくる声と足音が近づいてきた。ぼくはわくわくしながら下級生がやってくるのを待つ。

 墓石の裏から覗くと、および腰で歩いてくる一年生が見えた。(よしよし・・・)ぼくは頃合いを見て、墓石の陰から飛び出すと、「うぉーっ!」と叫んでおどろかした。一年生ふたりは手をつないだまま走り去っていく。

 

 通りすぎるとまた墓石の裏に戻り、次のお客を待つ。しばらく動かずにいると、ヤブ蚊の羽音がすごかった。ぼくは、(虫よけスプレーしてくればよかった)と後悔した。

 そして、(次はまだかな)とあたりを見回した時だった。数メートル先にある墓石の陰で、不意に何かが動いたような気がした。(・・・!)ぼくはギクリとして固まった。背中に変な汗がつーっと伝ってくるのが判った。

 心臓がドキドキしてきたが、(場所が場所だけに、ありうることだ)と考えて、そっちを見ないようにする。・・・周囲には仲間たちもいるという安心感からなんとか我慢できた。

 そしてそれに意識が向かないほど、下級生たちが次々に騒ぎながらやってきた。・・・こうして見ると、(男子より女子の方が胆が据わってるな)と変に納得する。


 やがて全てのお客が通過したので、ぼくらもやめてみんなで集まる。テーブルの上に保護者が持ってきたジュースとお菓子が載っていた。ぼくは六年生なので、配る前に並べたジュース類と出席した顔を数えてみる。・・・ひとり分足りない。もう一度数える、ぼくを含めて21人だが並んだものは20人分だった。

 (おかしい。もしかして、さっきの『なにか』の仕業かな・・・)ぼくは墓石の陰で動いた『なにか』の残像を思い出そうとした。

 そしてみんな解散して、それぞれの自宅に帰っていった。

 ぼくも家に着くと、「ただいま」と言いながら茶の間に上がる。テーブルの上には切ったスイカが皿に載っている、ぼくの大好物だ。・・・だがこれもひとり分足りていない。中学生の兄貴はもう食べていた。

 (・・・もしかして、これもさっきの『なにか』の仕業なのか?)ぼくは少しいらだってきた。


 ・・・やっと気がついて、ぼくは自分の思い込みが恥ずかしくなり、ひとりで笑う。

 (そうだ、ぼくは春先に、病気で死んだんだっけ)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ