ふたご
あれはぼくが小学校四年生の夏休みだった。その日はプールもなく、出掛ける用事もなかったので、茶の間で扇風機の風に煽られながら、寝転んでテレビを見ていた。
午前10時は過ぎていたと思う、『ピンポーン』と玄関の呼び鈴が鳴り、ぼくの名前を呼ぶ声がした。――なぜ10時を過ぎていたか判るかというと、ぼくが通っていた学校の夏休みの『きまり』に、『午前10時までは、友達の家に遊びに行ってはいけない』という項目があったからだ。
ぼくは起き上がると、玄関へ続く廊下から顔を出す。玄関先には近所の仲のよい同級生が立っていて、その後ろに見慣れない子供が二人いるのが見えた。同級生は後ろにいる二人を指差して、「いとこだよ」と言った。同級生より背が小さく、ぼくらより二歳ほど年下に見えた。
同級生が、「遊ぼう」と言うので、ぼくは、「うちに上がればいいよ」と促した。同級生が、「おじゃまします」と言ってタタキに上がると、後ろにいた二人の姿がはっきりした、双子だった。
二人とも同じ身長、同じ髪型、同じ顔をしていて、区別出来るのは、胸にヒーローのプリントがあるTシャツの、袖の色が違うところぐらいだ。一人は赤、一人は青。その双子も、「おじゃまします」と言って上がってきた。まじまじ見ると、顔はまったく同じだ。
同級生と双子を、テレビがつけっぱなしになっている茶の間に通すと、ぼくは食器棚からコップを四つ出す。カルピスの原液を注いで氷を入れ、冷水で希釈した。盆に載せて茶の間に行くと、同級生と双子は夢中でテレビを見ている。平日のその時間帯は、『夏休みこども劇場』と称して、アニメとかヒーローものの再放送をやっているのだ。
ぼくは茶の間のテーブルの周りに座っている三人の前にカルピスを置いて、扇風機の背中にあるヘソを引っぱって、首振りにした。そしてぼくはぼくの定位置に座ると、彼らとともにテレビに夢中になる。
その時、何の番組だったのかは憶えていないが、ぼくを含めた四人はひと言もしゃべらずに、画面に集中していた。
やがて番組が終わると、それぞれが目の前のカルピスを飲む。双子は並んで座っていて、やはり同じ顔をしていた。
ぼくは二人に向かって、「双子だよね?」と聞くと、二人はタイミングよく揃えてうなずく。
すると同級生はいくらか驚いた顔をして、「よく双子って判ったじゃん」と言った。
ぼくはおかしくなって笑いながら、「こんなに似てるんだもん、誰が見たって判るよ」と言う。
同級生は顔を曇らせ、「こんなに、って?」と言う。すると双子の青い袖の方が、ふてくされた顔でプイっと横を向いた。
ぼくは(どうしたんだろう?)と思いながら、「だから、こんなによく似てるじゃんか」と言った。
同級生は少し黙ったあと、困ったような顔をして、「ははあ、またついてきてるな」と言いながら、双子の方を眺めた。
ぼくは何を言ってるのかさっぱり判らず、「またついてきてるってどういうこと?」と聞いた。
同級生はうつむいて少し考えたあと、「弟の方は先月、交通事故で死んだんだよ」と言った。
途端に、青い袖の子の顔が血まみれに変わり、血走った憎悪の目で双子の兄と同級生を睨みつけると、なにか罵るような口の形のまま、スーッと消えた。
グラスの表面に水滴が付いたカルピスの中の氷が、からりと音を立てた。