真っ白な最後
「秋斗鋼也君、これからよろしくたのむよ」
俺の上司となる黒木薫と挨拶を交わした・・・なかなか美人な女上司で彼女と出会えただけで魔法生物対応係の価値があると言ってもいいと思ってた時期があった。
この俺、秋人鋼屋は晴れて無職から公務員へとなった。補欠合格の通知を受けてからも一応職探しはしたが公務員の安定性と手取りに敵う職業は見つけられなかった。そして、運よく補欠の枠で公務員の座をつかみ取った。その上でこんな美人な上司なんて俺は運を使いまくってるなと思っていたが、彼女との挨拶でズバズバ精神を削られた。
「秋人鋼屋です。よ、よろしくお願いします」
対人コミュニケーションが苦手だといううえに美人に対する免疫がなく声がうわずってしまった。
「そんなに緊張しなくていいよ。この部署はキミと私の二人だけなんだし」
え・・・初めて聞いたぞ。俺が疑問を口にする前に彼女は次々と話題を振ってきた。
「補欠合格という事でキミも思うことがあるだろうが大丈夫。キミは魔法については実技はもちろん筆記もアレだが、他の成績はちゃんと合格に値するものだったよ」
・・・そんなことは言われなくてもわかってる
「魔法はからっきしっぽいけど、キミなら大丈夫。あの実技試験での不動の姿を見て、キミならやっていけるんじゃないのかなって思ったんだよ。私は最初からキミを合格にしたかったんだけどね…結果的に一緒に働けることになってうれしいよ」
動かなかったんじゃない、動けなかったんだ。なんでこの人の中で俺は高評価なんだ。
「事務的な仕事より実務が多いと思うけど、がんばりたまえ」
参考書と違うじゃねえか・・・
「魔法に不安があるかもしれないが安心してほしい。キミは第一世代という事もあるし、研修の一環として今の魔法に触れる機会も与えようと思う」
今の魔法?いや、魔法については試験のためにだいぶ勉強したつもりなんだが
「研修期間として君にはもう一度学校に行ってもらうよ」
さっきから一方的に話を聞いていた俺だったが、さすがにこれには驚きの声を隠せなかった。
「ちょ、ちょっと待ってください。言ってる意味が分からないんですけど・・・」
「言葉通りの意味さ、もう一度学園生活を送らせてあげよう。働きながらにはなるがね」
いや、就職したら学校行けって言われるの割と意味わからないぞ。
「学園生活といってもアレだ、年齢なんて気にしなくていい。魔法を学び直したい生徒たちが集まる定時制学校だ。キミより年上の生徒がたくさんいる。大丈夫、すぐなじめるさ」
なにに対する大丈夫かわからなかったが、俺は言葉を失くすしかなかった。
苦痛だった学校を抜け出し、フリーターというか無職の日々を越え掴んだ就職。これがゴールの1つだと思っていたが、そんなことはなかった。学園生活という俺が最も苦手としていたことに挑まなきゃいけない。
俺の社会人生活が始まり、学園生活が控えた4月。学園生活は嫌だったが、さすがにいきなり退職しようとは思わなかった。嫌なことを忘れようとふとつぶやく
「薫さん綺麗だったな・・・」