第40話 幸せだったあの頃を
今回はとても短いです。
「ねえ、アキラ。君は、好きな女の子は、いるかい?」
「いない」
「そう?あの子可愛いなーとか、あの子優しくて良いなーとかって子はいない?」
「いない」
「じゃあ、ちょっと最近気になる子は」
「いない」
「・・・アキラ。君が女の子を疎む気持ちは分かるけど、君もそろそろ中学生になるんだろう?恋の一つや二つくらい、しても良いと思うんだけど」
「女の子を好きになる気持ちが分からない。あんな煩い奴ら、どうして好きになれるんだ?」
「うーん、これは重症だな・・・。じゃあアキラ、こうしよう」
「何?」
「恋をしろとは言わないから、せめて女の子に優しくしてみよう」
「何で?」
「何でって・・・男の子は女の子に優しくしなくちゃいけないんだよ」
「何で?」
「・・・そういうものだからだよ。男の子は、女の子を守らなきゃいけないんだ」
「ふーん・・・。分かった、頭には入れとく」
「うん、今はそれで良い。でもアキラ?君にもいつか、本当に好きになれる人が現れると思う」
「・・・そうか?」
「そうだよ、だからアキラ。もし女の子嫌いの君が、少しでも好きになれる女の子がいたら・・・その子には目一杯、優しくしてあげると良い。そうすればその子も、君のことを心から好きになってくれるよ」
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「あった、水瀬君の写真・・・」
私、桐生雪菜は水瀬君の写真をなくしてしまいずっと探していて、それでも見つからず意気消沈して自分の部屋に戻ると・・・自分のベッドの上に水瀬君の写真はあった。灯台下暗し、というやつだ。
「水瀬君、かっこいいなぁ・・・」
写真を見ていると、どうしても顔がにやけてしまう。水瀬君にはこんなだらけたところ、見せられないな。
「水瀬君、今何をしているんだろう・・・」
水瀬君が王城から出て行ってから、2週間以上経った。たったそれだけの時間会えないだけでも、私はすごく寂しい。今すぐにでも水瀬君に逢いたい。そして、出来れば、私を抱きしめて欲しい・・・
私はなんてワガママなんだろう。かつては私が水瀬君から離れていってしまったのに、水瀬君が私から離れれば、こんなにも焦がれるなんて。
水瀬君が一度だけ、私を抱きしめてくれた時を思い出す。あの時はよく分かっていなかったけれど、私は水瀬君のことが好きだ。
きっとあの時、水瀬君に助けてもらったあの時には、私はもう水瀬君に夢中だったんだろう。
幸せだったあの頃を思い出す。その全てがとても尊くてーーーー、私がどうしようもなく馬鹿だったあの頃を。
次回から桐生雪菜の過去編です。これはずっと前から書きたかった話なので、頑張って書きたいです。




